『三つの山口組 「見えない抗争」のメカニズム』藤原良・著。現代最新型の組織論でもある

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縮小することはあっても拡大しないパイの中で、マジョリティやメインストリームであるはずの中央集権型組織が、その下部、リアルな現場で展開されてるスピード感やメディアの変容(もはや多様化という次元は過ぎている)に対応できず(またはあえて対応せず)、それを機に意思を一にする内部の小集団が反転の狼煙を上げるという構造が昨今、よく見られる。

ここ数年の日本においてその典型的な構造を見せているのが山口組の分裂劇である。旧体制に反発した神戸山口組の面々は、司忍・六代目山口組組長を公然と批判し、袂を別った(その背景にももちろん暴対法、暴排条例にともなう「パイの縮小」がある)。

その神戸山口組からは、さらに別の組織が派生した。“任侠道”と“社会秩序の維持”を掲げる若手ヤクザの集団が立ち上げた任侠山口組である。分裂からのさらなる分裂。旧態然とした六代目山口組を批判した神戸山口組をさらに否定、つまり最近某都知事に乱用された古い言葉で言えばアウフヘーベン(止揚)した格好だ。そこでは誰が敵で誰が味方か、当事者すら必ずしも把握できてない(その『アウトレイジ』さながらの実態は『三つの山口組』藤原良、太田出版に詳しい。司法すらも誰を捕まえればいいのかがわからないのが現状なのだ)。

こういった裏社会でのうねりと、表社会で起こっている潮流は、意図せずとも、同時代の空気を吸う人々の無意識下において必ずどこかで通底、共鳴する。今回の衆議院選をめぐる各党のなりふりかまわない分裂、立ち上げ、野合、排除の構図の凄まじさは、表でも裏でも同じ、現在の「組織」が抱える問題を極度に凝縮して見せたといえよう。ヤクザ社会は、政界はもちろん大企業社会とも同じかあるいはそれ以上に究極の「組織」であり、だからこ最も生々しく直接的な「力学」が厳然と存在する。

そしてこの現在進行形の「力学」を最も身近なレベルで、隠さず堂々と表現したのがSMAPだった(元の中央集権組織から飛び出した3人が、自らの再出発にわさわざ「新しい地図」という言葉を旗印に掲げたことは、この解釈が「深読み」とは言い切れないことの証拠だ)。

ここで強引と言われることは承知で、山口組、日本政界、ジャニーズ、それぞれの人間相関図をアナロジー的に当てはめてみたい(相関図とは、混沌とした状況からかろうじて見晴らしを得るための古来からの知恵でもある)。

・その1 「圧倒的な力と歴史・正当性を背景とした絶対君主グループ」
司忍・六代目山口組組長、安倍晋三・首相、ジャニー&メリー喜多川・ジャニーズ事務所トップ、木村拓哉・元SMAP

勝者(マジョリティ、メインストリーム)によってゆるぎない歴史と正当性を積み重ねてきた、誰も侵すことのできない、その世界に君臨する存在。

・その2 失われた王への道とそれを守り続けてきた忠臣たちの敗者復活グループ
井上邦雄・神戸山口組組長、枝野幸男・立憲民主党党首、中居正広・元SMAPリーダーにして現在もジャニーズ事務所所属

勝者の力・時代の流れによって自らが冠す主君を失うも、虎視眈々と挽回の機会を狙い続ける存在。井上組長は山健組という山口組最強組織の再隆盛を考え、現六代目主流派の弘道会系組織と対立した。枝野党首は希望への民進合流で行き場を失ったリベラル層の受け皿を作った。中居はあくまでも元リーダーとして軽率な行動を慎み、ジャニーズ所属タレントとして現在も活動している(その先にある目標は不明だ)。

・その3 強烈な思想・信条を根本とした行動する個人カリスマグループ
織田絆誠・任侠山口組代表、小池百合子・東京都知事&希望の党党首、飯島三智・女史と稲垣吾郎、草剛、香取慎吾の脱ジャニーズ軍

上記2つの既存勢力とは違い、革新的先鋭的な一つの考えのもと行動する「第3の」グループ。織田代表は任侠道の追及、社会秩序の安寧を模索し、多くの若手極道がその行動に共鳴し参加した。小池都知事は絶対君主に対する勝利を掲げ、前原民進党代表を掌握、民進の主力グループを完全にコントロールできるようにまでした(その先にある目標はあまりに明白だ)。そして飯島女史、彼女の狙いはまさに「ジャニーズなきSMAP」の創造である。絶対君主の力の及ばぬ領土で活躍の場を広げつつ、渾身の一撃を与えるべく行動し続けるだろう。

補足すれば、彼ら第3勢力に共通する認識は「メディア戦略の重要性」だろう。織田代表は神戸山口組時代からマスコミ(第四の権力)の重要性を理解しており、現在も頻繁に公式会見を開催して旧来のヤクザからその点を批判されるほどだ(過日の織田代表襲撃事件の犠牲者となったボディーガードの男性について、世間一般での報道はあまりにも実態と違いすぎるとして克明な事件レポートを率先して発表したこともマスコミを驚かせた。六代目山口組、神戸山口組に比べ、マスコミ・ウェブへの進出は突出している)。

小池都知事は自民党時代からインターネットでの世論把握、ビッグデータ収集。それをもとにタイミングまで最適化した情報リリースまで外部の専門家と共に先駆的に取り組んでいたことで有名で、そのノウハウを自家薬籠中の物としたところで一気にマスコミを巻き込み、東京五輪、築地移転問題を全国規模の問題とし都政のドンの追い出しに成功した。そして一度放逐された飯島女史は旧勢力のジャニーズの影響がないネット世界で活躍の場を広げるべく動き、早くもそのフットワークと嗅覚の正しさが証明されつつある。“ウェブでは歴戦の強者も新参者もみな同等であり均一である”とはよく使われる常套句だが、彼らはそれを徹底的に使いこなす。

好もうと好まざると、誰かが誰かを「干す」ことは、もうできないのだ。