バイエルンの守備陣を切り裂いたエムバペ。大いなる可能性を秘めた18歳だ。 (C) Getty Images

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 昨月、私は幸運に恵まれていたのかもしれない。なぜなら、あんなにも強く、美しいパリ・サンジェルマンを見られたうえに、カルロ・アンチェロッティの最後の姿を見届けることができたのだから。

 9月27日(現地時間)、チャンピオンズ・リーグ(CL)のグループステージ2節は、興味深いカードが揃っていた。ドルトムント対レアル・マドリー、アトレティコ・マドリー対チェルシー、そしてパリSG対バイエルンだ。
 
 私が、パリでの試合を選んだ理由は複数あるが、最大の要因は、今夏の移籍市場で大盤振る舞いを見せた新生パリSGに対して、ドイツの絶対王者がいかにして立ち向かうのかが気になったからだった。
 
 結果は周知の通りである。3-0でパリSGがバイエルンに圧勝した。試合前には緊張感が張りつめていたスタジアムは試合後、一転してお祭りムードと化していた。試合中は硬い表情を見せていたセキュリティースタッフですら、にこやかになっていたほどだ。
 
 昨シーズンのCL決勝トーナメント1回戦でバルセロナに4点差を跳ね返されて、逆転負けを喫するという屈辱を味わっていたパリSGにとって、強豪バイエルンとの一戦は、その悪イメージを払拭する絶好機。それだけにこの大勝劇は、新たなスタートを印象付けるものであった。
 
 この試合で輝きを放ったパリSGのキリアン・エムバペ、エディンソン・カバーニ、ネイマールの3トップは、昨シーズンにパリSGを奈落へと突き落としたバルサのMSN(リオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマール)に比肩する鋭さを有していた。
 
 なかでも際立っていたのは、MSNの1人でもあったネイマールではなく、超新星のエムバペだった。彼はとてもスピーディーで、類まれなテクニックを有し、なおかつインテリジェンスを兼ね備えていた。
 
 私は、多くの可能性を残すティーンエイジャーに、猛烈に感動した。エムバペは得点こそなかったが、いくつものチャンスを創出していた。そして何より、彼がボールを持つたびにバイエルンの守備陣は動揺した。まだ18歳の少年に、ドイツ王者が恐れを抱いたのだ。
 
 私は試合前、フランスの現地ジャーナリストと話す機会があった。そこで彼は「エムバペの周りには、良いサポートをしてくれるファミリーがいる。世界でも指折りのプレーヤーになるための、最高の環境がある」と、エムバペが恵まれていることを力説していた。
 
 一方、そんなパリSGに屈したバイエルンはどうだっただろうか? ピッチ上ではパリSGのエネルギッシュなプレーに押し込まれ、歯車は狂っていた。
 
 そしてベンチには、フランク・リベリ、アリエン・ロッベンという2人の「王様」がいたが、彼らはもはや全盛期が過ぎ去った選手であり、パリSGの控えであったアンヘル・ディ・マリアやユリアン・ドラクスラーと比べても、何かを変えられる力があるとは思えなかった。
 
 バイエルンをすべてにおいて圧倒したパリSG。しかし、CLはまだ2節を終えたばかりだ。欧州制覇を悲願とする彼らの真価が問われるのは、決勝トーナメントに突入してからだろう。
 
取材・文:スティーブ・マッケンジー
 
【著者プロフィール】
STEVE MACKENZIE/1968年6月7日、ロンドンに生まれる。ウェストハムとサウサンプトンのユースチームでプレー。ウェストハムへの思い入れが強く、ユース時代からサポーターになった。また、スコットランド代表のファンでもある。大学時代はサッカーの奨学生として米国の大学で学び、1989年のNCAA(全米大学体育協会)主催の大会で優勝に輝いた。