犬の顔を形づくるもの。

動物の顔を形作るもので、そして動物にとって最も大切な器官は「口」です。食べられないと死んじゃいますからね。もちろん脳もそうですが、人間ほど大きくはないので顔のつくりに対する影響力は口のほうがより大きいです。

いわずもがなですが、口は食べるための器官で、口の中には「歯」があります。歯は、動物の種類によって形や並び方がさまざまで、特に哺乳類の場合、歯の化石がたった1本見つかっただけで種類が特定できるほど、その種類独特の形や並び方があります。
この歯の形や並び方が口の大きさを、ひいては顔の形を決める大きな要素なのです。

犬は原始派。猫は究極派。

犬も猫も実は同じ祖先から進化した同じ食肉目のグループに属します。ミアキスという4800〜4000万年前にいた、小型の肉食獣からそれぞれ分かれて進化しました。
その過程で、犬は原始的な形質(祖先がもっていた体のつくり)を残したまま進化し、猫は究極の肉食獣へと特殊化の道を歩みました。例えば犬の足の指は5本、引っ込まない爪(猫は引っ込む)、そして歯のつくりも原始的です。それが犬と猫の見た目の違いを生み、特に歯のつくりの違いがそれぞれの顔つきに影響した、というわけです。

犬の歯は雑食可。猫の歯は完全肉食。

確かに犬も猫も肉食動物なのですが、その歯のつくりと並び方は大分違います。
肉食動物は人間のようにもぐもぐと口の中で食べ物を小さくすり潰す(咀嚼する)ことはしません。肉を切り裂いたら、あとはごっくんと丸飲みします。そんなんじゃ消化に悪そう!と思いがちですが、肉は繊維の多い植物より実はずっと消化がしやすいので大丈夫です。ですから、植物を食べる人間のような臼の形をした奥歯はあまり必要なく、獲物を捕まえる歯(犬歯や前歯)、肉を切り裂く歯(裂肉歯という歯)があればよいのです。

特に猫はこの傾向が強く、歯は全部で30本とかなり少なく、臼のような形の歯を全く持ちません。これが、猫が究極の肉食動物といわれる理由です(肉食動物といわれる食肉類の多くは実は雑食するものが多いのです。クマなどは木の実も食べますよね)。

反対に犬は古い祖先の歯のつくりを受け継いでいて、歯の数は42本あり、臼の形の歯が2本もあります。もちろんオオカミを含め、犬の祖先たちも草食動物を獲物にする肉食動物ではありますが、雑食できる歯も持っているということです(実際、犬の腸は猫ほど短くなく、植物性のものもある程度消化できるようになっています)。
このように犬の歯の多さが、長くて大きな口を形作り、鼻面が長くなった要因の1つということなのです。

鼻面が長いと嗅覚も優れる?

鼻面が長いということは、鼻腔も大きいということです。鼻腔が大きければ空気をたくさん吸い込むことができ、そして臭いを嗅ぎ取る細胞(嗅細胞)をたくさん持つことができます。つまり、鼻面が長いことが犬の優れた嗅覚を支えているのです。
犬は猫と違って、集団で追尾型の狩りをします。相手を追いかけて追いかけて、疲れさせてみんなで襲う、という方法です。この、相手を追尾するのに活躍するのが嗅覚。そういう意味でも犬の長い鼻面は役立っているのです。

原始的だからこそ。

犬の祖先とされるオオカミは、かつて地球上に広く分布していた動物です。森林、草原、高山、低地、ツンドラ、砂漠などあらゆる環境に広がったのも、原始的な形質を残したことで、環境や食べ物の選択において柔軟に適応することができためだと考えられます。猫のように特殊化してしまうと、適応できる環境がとても限られてくるからです。犬もそうした面をオオカミから受け継いでいます。さまざまな品種が生まれるのも、すでに特化した猫よりも改良しやすいからかもしれませんね。

少し脱線してしまいましたが、犬の鼻面の長さは原始的な形質であり、哺乳類としてはいわば「普通」のことではありますが、その普通が猫よりも優れた嗅覚を支え、猫よりも食べ物の幅が広く、環境適応への柔軟性を生み出していると言えるのでしょう。

まとめ

いかがでしたか?可愛いくてカッコイイ、わんちゃんの長い顔にはこんな意味と歴史があったのでした。あらためて愛犬の顔をよく見て、できれば大事な歯のこともよく観察してくださいね。奥歯は臼の形なので特に歯垢がたまりやすいですよ。


(博物館アドバイザー(元自然史博物館学芸員)提供:碇 京子)