いよいよクライマックスシリーズ(CS)が始まる。セ・リーグはファーストステージで阪神とDeNAが対戦し、勝ち上がったチームがファイナルステージで広島と日本シリーズをかけて戦う。はたして、日本シリーズに進出するチームはどこなのか。昨年まで巨人で20年間プレーし、”神の足”を武器に黄金期を支えた鈴木尚広氏にセ・リーグのCSを占ってもらった。


シーズン序盤は苦しんだが、徐々に調子を取り戻してきたDeNAの主砲・筒香嘉智

 私も現役時代にCSを何度も経験しましたが、やはりシーズンとは違う独特の雰囲気があります。ひとつのミスが命取りになりますし、一度でも流れを失ってしまうと簡単に取り戻せません。

 実際、2014年に巨人はリーグ優勝を果たしたものの、CSファイナルで阪神に1勝もできぬまま敗退してしまいました。いま思い出しても、なぜ負けたのかわかりません。決してチームの状態は悪くなかったと思います。2戦目までにひとつでも勝っていれば、まったく違った展開になったと思います。でも、最後まで阪神の勢いを止めることができなかった。あらためてCSの怖さを思い知らされましたね。

 CSは日本シリーズと違い移動日がなく、そのため実力以上に勢いがモノをいう戦いになります。そういう意味で、今いちばん勢いを感じるのがDeNAです。

 巨人との熾烈な3位争いを制して、2年続けてCSの舞台へとたどり着きました。これはチームにとってものすごく自信になったと思います。

 今年のDeNAの戦いを見て思うことは、規定打席に到達した選手が6人もいるように、シーズンを通してある程度レギュラーを固定することができたということ。そのため選手が自分の役割をしっかり理解しており、作戦面において幅が広がった印象があります。

 得点のバリエーションが増えただけでなく、リードしているときの試合の運び方や、膠着しているときの試合を動かし方など、どんな状況になっても自分たちの”型”を持っているから、選手たちに迷いがありません。昨年と比べて、チーム力は格段に上がったと思います。

 また、シーズン終盤は高卒1年目、細川成也の鮮烈デビューもありました。もともとDeNAは平均年齢も若く伸び盛りのチームなのですが、さらに新しい戦力が加わった。若いチームですが、戦力に厚みが出てきました。

 そのDeNAとCSファーストステージで対戦するシーズン2位の阪神ですが、広島と優勝を争うわけではなく、3位チームに激しく追われることもなかった。言い方は悪いですが、何となく2位にいるような感じで、特にシーズン終盤はCSに向けて乗っていける戦いではなかったように映りました。

 中谷将大や大山悠輔といった若手が成長してきたことは確かですが、依然チームを支えているのは福留孝介や鳥谷敬、糸井嘉男のベテランたちです。彼らがチームにいることでシーズン中は安定した戦いができたことは間違いありません。ただ、CSのような短期決戦は安定感よりも爆発力が必要になります。それに福留、鳥谷、糸井の3人はいずれも左打者で、DeNAには石田健大、今永昇太、濱口遥大と左腕が充実しています。そのなかで阪神打線がどういった攻撃ができるのか注目ですね。

 そして阪神にとっては、投手陣がどこまでDeNA打線を抑えられるかがポイントになるでしょう。なかでも先発投手の出来が左右すると言っても過言ではないぐらい重要になると思います。ここにきて、メッセンジャーが復帰したことはすごく大きい。阪神の先発陣のなかで唯一、力で勝負できる投手ですし、誰もが認める阪神のエースです。メッセンジャーがDeNA打線を完璧に封じ込めるようなことがあれば、流れは一気に阪神に傾くでしょうね。間違いなく、阪神のキーマンはメッセンジャーです。

 では、DeNAのキーマンは誰なのか? あえて梶谷隆幸を挙げたいと思います。

 現役のときから彼のプレーはたくさん見てきましたが、まったくタイミングが合っていないと思っても次の打席で完璧な当たりを放ったり、ど真ん中の球を簡単に打ち上げたと思ったら難しい球をホームランにしたり……調子がいいのか悪いのか、まったくわからない。言ってみれば、データが通用しない。投手にとっては本当に不気味な選手です。

 CSファーストステージは、阪神投手陣とDeNA打線の戦いになるような気がしますが、チーム力、勢いでDeNAにやや分があるように思います。

 そしてCSファーストステージを勝ち上がったチームが広島と対戦するわけですが、6試合で4勝するのは簡単なことではありません。

 今シーズンの広島は、投手陣に昨年ほどの安定感、厚みは感じませんが、攻撃陣は昨年以上に破壊力があります。田中広輔、菊池涼介、丸佳浩の不動の上位3人で301得点をマークしています。今季の広島の総得点が736ですから、いかにこの3人で試合を動かしているのかがわかります。

 それに4番を打っていた鈴木誠也がケガで離脱しても、松山竜平がきっちり穴を埋めるなど、選手層も厚い。攻撃陣に関しては、隙が見当たりません。

 その広島に不安があるとすれば、2014年の巨人のように一気に押し切られる場合です。ファイナルステージ初戦の先発が予想されている薮田和樹ですが、今季15勝を挙げたとはいえ、それほど経験がある投手ではない。おそらく初戦は相当なプレッシャーがかかると思います。そのなかでシーズン通りのピッチングができるのかどうか。

 個人的な意見を言わせてもらえば、敗れたとしてもメッタ打ちさえ食らわなければいいと思っています。とにかく、相手打線を乗せないピッチングさえできれば十分だと思っています。

 広島としてみれば、2戦目までにひとつ勝つこと。そうすれば、自ずと勝機は見えてくるでしょう。

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