経営陣だけが享受する特権に疑問を持つ(写真:vetkit / PIXTA)

世界20カ国に支部を持ち、世界のリーディング企業や個人に対してトレーニングやコンサルティング、コーチングなどを提供している国際研究機関のアービンジャー・インスティチュート。新著『管理しない会社がうまくいくワケ』では、いかに個人やチーム、組織が自らものの見方や思考を変えることによって、前向きな成果を上げられるかを説明している。

ロンドンでクライアントと約束があり、アービンジャーから2人のコンサルタントが初めてある会社を訪れたときのこと。エレベーターに乗り込み、最上階のボタンを押すと、エレベーターに乗っていた男性が、「へえ、最上階か」と言った。その声から、ちょっとしたイライラが伝わってきた。

彼が言葉にしなかった思いは、「あんたらは自分が大物だって思ってんだろ」。男性の言葉を聞いて、クライアントの抱える問題点はリーダーが会社の中で「自分たちを特別だ」と考えているところにあるのではないかと思われた。

なぜ最上階にいなくてはいけないのか

経営陣が一般の社員たちと離れたところにオフィスを持つのには、それなりの理由がある場合もあるだろう。しかし、たとえそうであっても、なぜ彼らだけがビルの最上階のフロアにいなくてはいけないのかという疑問は残る。どうして中間階ではダメなのか? あるいはどうして地下のフロアではダメなのか?

経営陣だけが享受する特権に疑問をもたなければ、業績を上げる職場はつくれない。なぜなら、差別のもとでは、人は最高のパフォーマンスを上げられないからだ。それは、同時に最高のパフォーマンスを上げられるだけの権利(決定権や予算のバッファなど)も与えられていないことになる。

同じことがあらゆる状況にあてはまる。

たとえば、母親が自分には許していることを、子どもには許さないといった特別ルールを敷いている場合、その母親が子どもの考え方をよい方向に導くことはできないだろう。なぜなら、親にだけ寛容なルールは、子どもに「ママは僕たちより自分のほうが大事な存在だと思っている」というメッセージを送ることになるからだ。その結果、子どもは母親にもルールにも反抗心をもち、憤りを感じることさえある。

もちろん、親と子どものあいだには、その責任のあり方に違いがある。だから、行動も違うだろう。だが、親が子どもたちと同じルールのもとで暮らしていると、子どもたちとの関係もうまくいく。

同じことは職場にもあてはまる。

CEOは大学を出たばかりの新入社員とは抱えている責任の重さが違うのだから、両者が何もかも同じでなければいけないと考える人はいないだろう。けれどもCEOやほかの上司たちが一般社員に比べて、自分たちの特権を最低限にとどめていれば、特権好きの上司が集まった会社よりも、社員たちの士気ははるかに高くなる

上司が自らの権利に疑問を持つと…

これは、フォード社を赤字からV字回復させ、その後グーグルの役員になったアラン・ムラーリーも取った手法だ。ムラーリーはすべての立場で働いている人たちからとても愛された人だ。彼が愛された理由の1つとして、「上司の象徴」となるものを壊していったことが挙げられる。

彼は決して大物ぶった振る舞いをしなかった。昼食をフォード社の経営陣用の豪華な食堂で取らず、会社のカフェテリアで取っていた。隣にいる従業員と同じプラスチックのトレイを持って、ちゃんと列のうしろに並んだ。生産ラインで働く社員の話を聞いて、いろいろな情報を得るのを楽しんだ。生産ラインの従業員たちとは、会議で顔を合わせる経営陣たちと同じような態度で接していた。

彼は同じ会社で働く従業員と自分とを区別したいとも、その必要性があるとも感じていなかった。理由は単純だ。組織図を見れば、彼がこの会社のトップであることは明らかなのだから。

われわれが全米のさまざまな企業を見てきて感じたことは、組織が変わっていくためには、一般社員が自分より上の地位の人間が本当に変わる様子を目の当たりにしなければならない。つまり、上司たちが自分たちの行使している特権に疑問をもちはじめてこそ、ドラスチックな変化が初めて起きる

このような変化を起こすために、上司の立場にいる人は自分自身にこんな問いかけをするといい――「私たちには特別な駐車場が必要だろうか?」「最上階のオフィス空間が必要だろうか?」「上司の象徴となっている何かを手放せないだろうか?」「自分たちを寛容に扱っているのなら、同じように従業員たちのことも適切な範囲で寛容に扱っているのだろうか?」。

同様に、組織内の人たちが日々何を経験しているのか、注意深く考察できるような質問をしてみよう。

従業員たちはどんな人たちだろうか?

彼らは自分たちがきちんと評価されていると感じているだろうか?

職場のどんな差別に悩んでいるのだろうか?

組織内にある上司を象徴するものは何だろう?

象徴のなかで、ビジネス上の意味があるものと、意味のないものはどれだろう?

Cがつく幹部は役員室持っていない

上司と部下の間にある「差別」解消に取り組んで、うまくいっている会社もある。ソフトウエア会社として異彩を放つメンロー・イノベーションズ社だ。

同社を率いるリチャード・ダンと、メンロー社の従業員たちはみな同じスペースで働いている。デスクも全員同じものを使っている。この会社では少人数のミーティングも大人数のミーティングも同じスペースで行われ、誰がそれを聞いていても、そこから何を知っても、あるいはそこに参加してもかまわない。

「そりゃ驚く人もいるだろうね」とリチャードは言う。「広くて開放的で、社員を締め付けるルールが何もないスペースにCEOがいるんだから。多くの企業は、上級管理職の面々に特別な部屋を与えて、彼らのステータスを印象づけている。けれども頭にCがつくうちの経営幹部たち(CEO、CFO、COOなど)は、役員室をもっていない。このスペースの真ん中にデスクがあって、そこに使い込んだ白いiMacが置いてある。遅くて有名なやつだよ。そこに私がCEOとして座っているんだ」。

彼はさらに付け加えた。


「私が部屋の真ん中に座っているのは、みんなが私の席はそこって決めたからなんだ。何かを決めるときには、私が近づいていく。厄介なプロジェクトの詳細が聞こえてくるところにね。そういうときは、彼らが私のデスクをプロジェクトメンバーの集団の中へ運び込むんだ。私は数カ月ごとに、新しい配置に合わせて移動のパターンを変えなきゃいけないんだよ」

リチャードとそのチームは、会社というものの象徴まで変えてしまった。そして大成功している。

メンロー社を訪ねたいなら、ミシガン州アナーバーのワシントンストリートと、リバティストリートの間にある駐車場に車を止めて、エレベーターで地階へ行くといい。7階建ての駐車場ビルの地階は、かつてフードコートとショッピングセンターだった。その窓のない地下室に、大成功を収めた”大物はお断り”の会社がある。