ウラジオストクで働く、北朝鮮労働者の姿(筆者撮影)。彼らが国に帰れる日は近い

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 8月上旬。これまで何度か噂に上がっては消えを繰り返した、ロシア・ウラジオストクのビザ取得がついに緩和された。

 これまではロシアを訪れる際は事前申請のうえ、細かい制約があるという煩わしさがあったが、新制度導入により事前にネット上で申請することでアライバルビザの取得が可能になった。片道わずか、2時間弱。往復の航空券が5万円程度というリーズナブルさと気軽さを兼ね備え、身近なヨーロッパ都市として注目を集めている。

 そこで筆者は、ウラジオストクでの取材を敢行。そこで見えてきたのが、街中で見かける北朝鮮労働者の多さだった。前回では北朝鮮レストランの裏事情を伝えたが、本稿では労働者事情をレポートする。

◆労働人口の不足を北朝鮮労働者で補うウラジオストク

 元々ウラジオストクには、北朝鮮に対しては親交が深い。例えばウラジオストクの極東連邦大学では、北朝鮮の学生を積極的に受け入れており、その割合いも年々増えている。

 現地のコーディネーターは話す。

「大学生の話では、一クラスの中で1割前後は北朝鮮からの留学生だと聞いたことがあります。彼らは比較的裕福な家庭の子供達が多い。他の学生たちと積極的に交流を図るわけではありませんが、それでも問題を起こすというような話は聞いたことがない。北朝鮮の学生達は全身黒ずくめのコーディネートをしているのですぐにわかりますよ」

 学生達は基本的には母国に帰る。近年増加しているのは、北朝鮮からの労働者達だという。

「万景峰号の開通もあり、北朝鮮からの肉体労働者の数は飛躍的に伸びた。彼らはわかりやすく言えば出稼ぎ。基本的には、工事現場などの現場で中東やアジア圏の国の人達と同じく働いている。背景には、ロシアの労働力の不足が挙げられます。発展してきているとはいえ、まだまだインフラ面では厳しいものがある。ただ、国を挙げて外資や経済拡大を図っていることもあり、労働者が慢性的に足りない。自国の人達が働かないような仕事を、海外からの労働力でまかなっているわけです」

 確かに、街中では至るところで工事現場を見かける。その中には、黒の作業着に身を包んだ北朝鮮労働者は簡単に発見することができる。

◆「祖国には感謝しているが、生活は厳しい」

 北朝鮮の経済制裁を予定する項目の中には、「国外労働者の強制送還」が挙げられている。また、新規国外労働の全面禁止も視野に入っている。言い換えれば、今後彼らを目にする機会は限定的なものとなる可能性が高い。

 現在、ウラジオストクで働く労働者達もその対象となっており、彼らの意見は貴重なものになるはずだ。そこで、街中で働く北朝鮮労働者に協力者を得て、直撃取材を敢行すると、「母国には忠誠を持っているし、感謝もしている」という前置きのあと、その生活事情を明かしてくれた。

Q:家族はいるのか? 1人で来ている?
A:「家族は国内にいる。私一人」

Q:なぜウラジオストクに?
A:「選ばれたから。選択肢はない」

Q:収入は?
A:「それは言えない。罰せられるから。ただ、生活は苦しい。ほとんどのお金が国に入るから、お金は残らない」

Q:衣食住はどうしている?
A:「食べ物は作っている。ここに来てから、一度もレストランで外食はしていない。お金が厳しいから」

Q:住まいは国が用意するのか
A:「(※少し間を置いて)言えない」

Q:ジーンズは履くのか?
A:「それは履けない」

Q:同じようにウラジオストクで働く人のコミュニティはあるのか
A:「ある。いつも観られているし、今もわからない」

Q:国に帰りたい?
A:「家族に会いたい。ただワガママは言えない」

 わずかな時間だが、労働者達の悲壮な“叫び”を聞いた気がした。補足になるが、拒否権は事実上ないとのことで、更に基本的には国外での他国との交流は極力避けるように指示されているとのこと。このような北朝鮮労働者の動きを見られる時間は、あとわずかかもしれない。

<取材・文/栗田シメイ>