新しい金融技術に対して当局の規制は後手に回りがちだ(写真:ロイター/アフロ)

スタートアップ企業の資金調達手段として注目される「新規仮想通貨公開(ICO=Initial Coin Offering)」。中国では今春から始まったブームで今年前半に合計65件、26億元(約400億円)の資金調達が行われたとされるが、実在しないコインを販売するなど詐欺行為が横行したため、9月初旬に当局が全面禁止とした。

反対に日本では足元でICOを実施するベンチャー企業が出始めている。金融庁は改正資金決済法に基づき、9月末から仮想通貨と法定通貨の交換を行う仮想通貨交換業者の登録を開始したが、ICOの規制については様子見の姿勢だ。

義務なしに手軽に資金が入る

詐欺行為は論外ながら、通常のICOそのものにも大きなリスクが内在している点には注意が必要だ。

ICOは、資金調達者がビットコインなど換金性のある既存の仮想通貨で資金を調達し、その対価として独自の新規仮想通貨(トークン)を渡すものだ。インターネット上で不特定多数を対象に法定通貨での資金調達を行うクラウドファンディングとの類似性が指摘され、「クラウドファンディングと同様に、ICOも購入型、寄付型、投資型に分類することができる」と大和総研の町井克至主任研究員は語る。

購入型は、資金調達者が将来提供する製品やサービスを受け取る権利としてトークンを渡すものだ。いわば、仮想通貨がクーポン券のようになる。寄付型は、寄付として資金を募るもので、渡されるトークンは何の価値ともリンクしていない。投資型は、さらに融資型、株式型、ファンド型に細分化されるが、要するに将来の配当や利子の支払いなどの形で経済的リターンがうたわれているものだ。

購入型は、一般の製品やサービスのように消費者契約法などの規制対象となるものの、購入型、寄付型ともに、より厳しい金融取引上の規制対象とはならない。これに対して、投資型のICOを行う者は、金融商品取引業者の登録が必要となるなど、金融商品取引法の規制対象となる。

ICOのメリットは、起業したばかりのベンチャー企業や個人が煩わしい手続きなく簡単にインターネット上で資金調達できる点にある。想定されるのは、ベンチャーキャピタルから資金提供を受けるずっと前のフェーズ。起業後、親類や篤志家などから最初の資金を調達する際に該当する。手軽に資金調達できれば、起業にトライする層が広がるため、経済成長にもプラスになる。

ただ逆にいえば、手軽さを享受するために、実際には厳しい規制を受ける投資型のICOは「日本では事例がない」(金融庁)状況で、購入型や寄付型のICOが広がりを見せている。また購入型といっても、ホワイトペーパー(目論見書)で将来、資金提供者が得るベネフィットを必ずしも明確にうたっているわけではなく、実際には資金調達者はほとんど義務のない状態で資金を手にすることができる。

裏付けがないのに値上がり期待が膨らむ

こうしたやり方を助長する背景もある。資金提供者側の姿勢だ。折からのブームで仮想通貨の価格が数倍〜十数倍にもなり、にわか億万長者が出現。こうした投機ブームのさなかで行われるICOでは、資金提供者の大半は新規仮想通貨の将来の値上がり益を狙っている。

建前では購入型のICOは将来の何らかのベネフィットを約束しているが、資金提供者にとってそんなことは二の次で、新規仮想通貨の値上がりだけを期待している状況だ。また、ICOのプラットフォームを運営する企業は仮想通貨取引所を兼営し、新規仮想通貨の取り扱いも行って、資金提供者に法定通貨への「出口」を用意している。

ネット上では、「ICOで資金調達した企業が成長すれば、トークンは信用が高まり、価値が向上する」といったことが流布しているが、そうなるとは限らない。購入型や寄付型のトークンは、株式とは違い、配当がないだけでなく、議決権を通じて経営に関与したり、企業財産の分配を請求したりする権利もない。こうした権利があるからこそ、株式はその企業の将来収益フロー予想を基にその価値(価格)が形成されているが、仮想通貨は単にみんなが買うから自分も買うというだけで、価値の裏付けとなるものは持たない場合が多い。

実際、金融庁も仮想通貨交換業者の登録を公表する際に「仮想通貨の価格が急落したり、突然無価値になってしまうなど、損をする可能性があります」と注意を呼びかけた。まっとうなICOでも、価値がゼロになる可能性が否定されないなら、一般の人にとって詐欺か詐欺でないかの区別はつきにくい。ICOはよこしまな事業者が活動しやすい分野になっているのが実情だ。

「問題が出てくれば対応するが、技術の変化が速く、追いかけるのが大変」と金融庁関係者は言う。金融庁が規制に前のめりにならない背景には、新たな産業の育成として仮想通貨技術などフィンテックの支援を明確にしていることもある。「育成の観点から、規制をしすぎてはいけない」(金融庁関係者)。

「まだ小規模なものにすぎない」と放置してよいか

「あのときと似ている」と言うのは、あるメガバンク幹部だ。振り返れば、リーマンショックのときも、デリバティブ(金融派生商品)というイノベーションがもてはやされて、価格算定根拠の不確かなCDO(債務担保証券)に世界中の金融機関や機関投資家が飛びつき、大惨事となった。ブームのさなかはよいが、ブームが終焉を迎えるとCDOの価格がつかなくなって投げ売りが続出したことが危機の発端だった。

金融システム全体のリスクを監視する日本銀行や金融庁から聞こえるのは、「仮想通貨の時価総額はまだたかだか10兆円程度」という声だ。金融資産全体の規模(日本の個人金融資産だけで約1800兆円、世界では2京円を超えるといわれる)から見れば微々たるもの。仮想通貨の保有者も投機家やIT愛好家に限定され、CDOのときのように金融業界に広がっているわけではない。

ICOで起きることはしょせん愛好家の損失にすぎない――。そうした当局の姿勢が強ければ強いほど、ICOブームの被害は広がりかねない。