希望の党の小池百合子代表は内部留保課税を打ち出したが、導入すれば株価が下がる可能性も。いったい、どこがダメなのか(写真:日刊現代/アフロ)

最近、希望の党から企業が保有する「内部留保」に対して課税するという政策が打ち出され、これに対する批判が高まっています。「二重課税である」とか「会計の仕組みを全然わかっていない」など、筆者から見ればいずれももっともな批判であり、「内部留保に対する課税」がかなり筋の悪い話であることは間違いありません。

しかし、一般にいわれている理由とは少し違った角度で、「資本の原則」という観点からこの「内部留保課税のどこが問題なのか」を考えてみたいと思います。

そもそも内部留保って何?

まず内部留保というのはどんなものかについてお話しします。そもそも、内部留保という言葉や項目は、会計上存在しません

ところがこの言葉には「儲けた企業が金庫の中にたっぷりおカネを貯め込んでいる」というイメージがあります。実際に企業の内部留保といわれているものは、2016年度で約406兆円にも上ります。言葉のイメージでこの金額を聞くと、「ガッポリ貯め込んでいる大企業はもっと社員に給料を払え、それをしないなら税金を取るぞ!」というのはいかにも社会正義であるかのように響きます。しかしながら、それはあまりにも短絡的と言わざるをえません。

なぜでしょうか。企業というものは何らかの方法でおカネを調達し、その調達したおカネで事業を行っています。

ところで、おカネの調達方法には3通りあります。借金と出資、そして稼いで得る利益です。この3通りの方法で調達したおカネを使って設備投資したり、人を増やしたりして事業を拡大するのです。これをバランスシート(貸借対照表)で見ると、右側(資本の部)にどうやっておカネを調達するかが示されており、左側(資産の部)にそうやって調達したおカネがどのように使われているかが記載されています。

先ほどの3つの調達方法のうち、借金は人から借りた、いわば他人のおカネです。一方、出資は株主が出したおカネですから所有権は株主のものです。さらにそのおカネを使って上げた利益は言うまでもなく株主のものということになります。株主がおカネを出資するのは、出したおカネを使って儲けてくれることを期待してのことですから、最後に残った利益は株主のものであるのは当然です。

もちろん、ここで言う利益とは売り上げから製造原価やさまざまな経費を引き、従業員の給料等も払い、最後に税金を払ったうえで、最後に残ったおカネのことです。

利益は「誰のもの」なのか?

では、企業はそうやって残った利益をどうやって処分するのでしょう。ここでは大ざっぱに言って2通り方法があります。1つは配当として株主に払うこと(自己株買いをして株主の価値を高めるのもある意味、株主への還元です)、そしてもう1つは新たな事業に投資するために土地や設備を購入したり、そのための現金を用意したりしておくことです。

つまり、内部留保というのは最終的に残った利益の中から株主に配当を支払った残りの分のことですから、支払った配当金も残った内部留保も、どちらも株主のものなのです。

また、今の説明でおわかりかと思いますが、内部留保というのはイコール現金というわけではありません。おカネの出どころとして企業が儲けた利益の中からさまざまなものを払った残りが内部留保ですから、実際にはそのおカネで購入したものも含まれますし、現金で持っている部分もあります。いずれにしても内部留保は株主のものです。

「内部留保課税というのは、すでに税金を払い終えたおカネに課税するのだから二重課税になる」、それはそのとおりです。また、「内部留保という会計上の定義があいまいなものに対して課税するのはおかしい」、それもそのとおりです。

しかし、私はより本質的な問題点があると思います。

何が本質的な問題なのでしょうか。内部留保課税の本質的な問題は、株主価値の毀損ということであり、これこそが最大の問題点だと考えています。

行政側がやることは、キャッシュに税金をかけること?

例えを出してみましょう。ある優秀なファンドマネジャーがうまく儲けてくれることを期待して100万円のおカネを託した投資家がいたとします。ファンドマネジャーはその期待に応えて150万円に増やしてくれました。もちろん所定の税金や手数料は払い済みです。ところがそのファンドマネジャーは、「今は積極的に投資するよりも、資金を現金で持って様子を見よう」と考えたとします。

そこに行政が絡んできて「投資しないのはけしからん! 投資しないのだったら税金を取るぞ!」と言ったらどうでしょう。「そんなバカな!」と誰もが思うに違いありません。

でも内部留保課税というのは、これと似たようなことなのです。これが投資信託であれば、誰もがとても不合理なことだと思うでしょう。ところが内部留保に課税するということについては株主の間から「自分たちの持っている価値が毀損される、不合理だ」という声をあまり聞きません。

なぜでしょうか。配当が増えたり減ったりするのと違って、内部留保が自分たちのものであるという実感があまりないからです。でも内部留保も配当も、紛れもなく株主に帰属するものなのです。

むしろ問題なのは内部留保ではなく、その内どれぐらいを実際にキャッシュで持っているかです。キャッシュ自体は何も生み出しませんから配当するか自己株買いをするか、あるいは儲けるために何らかの新規投資に向けるべきです。

行政がやることはそのキャッシュに対して税金をかけることではなく、規制を緩和することで投資機会を創出し、内部留保を使って新たに魅力的な投資先ができるように政策を考えることではないでしょうか。