横綱・稀勢の里がようやくの面目躍如だ。第76回全日本力士選士権が10月2日、東京・両国国技館で行われ、幕内トーナメントは稀勢の里が決勝で平幕豪風を寄り切り、2年連続2度目の優勝を果たした。他の横綱陣は、日馬富士が1回戦で平幕の輝に敗れ、鶴竜も1回戦で平幕の勢に屈した。白鵬は横綱土俵入りのみの参加で、トーナメントには不参加した。

 さて、大相撲界は秋巡業のシーズンだ。この秋巡業に、秋場所初日から枕を並べて休場した白鵬、稀勢の里、鶴竜の3横綱も参加する。10月5日の千葉県八千代市を皮切りに、29日の広島県福山市まで、関東、北陸、近畿、中国地方など、22カ所で行われる。かなりハードな予定が組まれていて、また「力士のケガの原因になる」と非難されそうだが、これも昨今の大相撲人気を反映してのこと。
 ただし、合流時期はバラバラ。稀勢の里、鶴竜は最初から顔を見せるが、白鵬だけは途中からになる。

 「この参加時期に3横綱の置かれている状況が色濃く反映されている」と、協会関係者は解説する。
 「白鵬は今年の夏場所、名古屋場所と2連覇し、最多勝記録も1050勝まで伸ばしたばかり。少々休んでも、誰も文句は言いません。少し遅れて参加するのは、『痛めている左ひざをしっかり治すのが先決だ』と思っているからでしょう」

 しかし稀勢の里、鶴竜の2人はそうはいかない。
 「稀勢の里は3場所連続して休場中。次の九州場所も期待を裏切るようなことになると、周囲もざわつきますからね。鶴竜も今年は4場所も休場し、師匠の井筒親方(元関脇逆鉾)から『今度も勝てないようなら潔く決断しなければいけない』と最後通牒を突き付けられています。もう後がなく、一刻も早く体調を戻すという気持ちが強いんじゃないでしょうか」(同)

 いずれにしても、3人とものんびりと深まりゆく秋を堪能しながら日本列島を南下し、次の場所が控える九州に入るというワケにはいかない。秋場所は、豪栄道のまさかの失速もあって、最後に日馬富士がひとり横綱の意地を見せた。
 一時は4個も金星をばら撒き、「ボクには下がる場所がない。逃げる場所もない。後ろを向いたら終わり。前を向くしかない」と嘆いていた日馬富士だが、終わってみれば大逆転優勝。11日目時点での3差を引っ繰り返しての優勝は史上初めてのことだ。
 「やっぱり優勝して飲む酒はおいしいね。夕べはおいしくいただきました」
 千秋楽翌日の一夜明け会見に姿を見せた日馬富士は、まだ酔いが残る顔をほころばせていた。

 次の九州場所では、秋場所を休場した3横綱がこの苦境から這い上がり、日馬富士に挑む番だ。果たして、どんな秋を過ごすのか。「モノ言えば唇寂し3横綱」心境は如何に。