戦争特派員に送られるフランス最高賞の「バイユー戦争報道特派員賞」を受賞した写真家アリ・アルカディ氏によるイラク・モスルの戦闘を描いた一連の写真の一枚。女性が緊急対応部隊の情報将校に惨状を訴えている(2016年11月7日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】それはまるでアブグレイブ(Abu Ghraib)刑務所での悪名高き虐待行為を捉えた写真のようだが、違いは、それらがもっと「ひどい」ということだ──。イラク・モスル(Mosul)の一般市民は、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」から同市を奪還した自国の軍兵士らによるレイプや拷問、そして殺人といった非人道的な行為に直面している。

 クルド系イラク人の写真家アリ・アルカディ(Ali Arkady)氏が撮影したこれらの衝撃的な写真について、英BBCのベテラン戦争特派員のジェレミー・ボーウェン(Jeremy Bowen)氏は「私がこれまでの人生で見てきた中で最も邪悪で、気分が悪くなるものだ」と語る。

「Kissing Death」と題されたこれらの写真は、アルカディ氏が昨年、イラク特殊部隊のメンバーの中に混じって撮影したもので、戦争特派員に送られるフランスの最高賞「バイユー戦争報道特派員賞(Bayeux-Calvados)」をこのほど受賞した。

 賞の審査委員長を務めたボーウェン氏は、写真は「非常に強烈」なイメージである以上に「邪悪そのもの」と語った。

 だが、審査員らを動揺させたのはその写真に捉えられたイメージだけではなかった。アルカディ氏は、拷問が行われていた最中に兵士たちから詰め寄られ、自らも容疑者2人を殴ったことを明らかにしたのだ。そして、自分自身の身を守るため仕方がなかったとはいえ、その行為に胸を張ることはできないと述べた。

 しかし他の写真家らは、その取材プロセスが行き過ぎたものではなかったのかと首を傾げる。

 ボーウェン氏は「これらの写真を撮影したアルカディ氏の行為は、彼が犯したいくつかの間違いを相殺するほど強いものだ」と主張する。だが、その考えに素直に同調できない人も中にはいるようだ。

 匿名を条件にAFPの取材に応じた別の審査員メンバーは、「衝撃的」な写真への授賞で倫理的な問題が持ち上がり困惑していると話す。

「ストーリーがはっきりしていない。多くの人は、これらを世に出した彼の行動を勇敢なものと考えている…しかし、このような写真に賞を与えることで、我々は間違ったメッセージを発信しているのではないだろうか」

■混乱と決断

 アルカディ氏は今年始め、家族とともにイラクからの避難を余儀なくされた。その際に2か月にわたって取材を続けていた緊急対応部隊 (ERD)に関する資料を一緒に持ち出した。戦争犯罪の証拠となる写真やフィルムだった。

 ERDが拷問をするようになってからも、同氏は部隊と行動を共にした。その理由については、以前に米ABC(ABC)テレビで、同部隊の兵士らを英雄として描いたことに対する罪の意識があったからだと語っている。

 アルカディ氏はAFPの取材に対し、「私は2人の英雄(その部隊の司令官ら)が悪事を手を染めるのを見た」と話し、「彼らは人々を拷問し、女性たちをレイプした。私の心の中で全てが変わった。私は混乱した。そしてさらに追究しようと決めた」と当時の決断について語った。

 数十年にわたって中東報道に携わってきたボーウェン氏は、アルカディ氏によって暴露されていなかったら、実態は報じられないままとなっていただろうと述べ、このような事情も授賞の決め手の一つとなった説明した。

 今回の審査には関わっていないが、英紙ガーディアン(Guardian)の著名な英国人戦争写真家であるショーン・スミス(Sean Smith)氏も、アルカディ氏を非難することはできないと語る。

 スミス氏は、アルカディ氏がその様な状況に追い込まれたのは、報道機関の取材体系に問題があるからだと指摘する。同氏によると、危険な紛争地域での取材のため、経験の浅いフリーランスの「通信員」を地元で雇うというやり方が往々にして繰り返されているというのだ。

 大手報道機関が熟練記者をますます派遣しなくなっており、大変な手抜きとなっているため、実質的に全ての記事がこの契約通信員とソーシャルメディアから来ているとスミス氏は話す。

 また、これらの通信員はしばしば、「取材の経験が何もない状態から、いきなり過激な出来事を取材する立場に置かれる」ため、単に素材を写真通信社に送り付けるだけの存在となっており、一方の通信社も「多くを取材しなくなっているにも関わらず、その存在価値をアピール」したいだけなのだと辛辣な意見だ。

■「本当の危険」と常に隣り合わせ

 米写真通信社「VII」は、アルカディ氏を支援しアドバイスするために、何年にもわたって指導を行ってきたと話す。

 しかしスミス氏は、アルカディ氏が拷問の現場に立ち会うべきではなかったとの考えを述べ、そして時に、記者や写真家がどうしようもない絶望的な状況に置かれてしまうことがあると説明した。

「そういった人たち(取材対象)と一緒にいると、『君らがやってることには賛成できない』などと言うことは難しい。彼らの中に混じり、目立たないように行動して、最後には一緒になって酔っ払ってしまうことだってある」

 なぜならこうした取材現場が、「頭に銃弾を打ち込まれ道路脇に捨てられるという本当の危険」と常に隣り合わせであるからだと改めて説明した。
【翻訳編集】AFPBB News