住友ゴム工業が「ファルケン」ブランドで展開するタイヤは独フォルクスワーゲン(VW)のミニバン「Touran(トゥーラン)」の最新モデルにも採用されている(写真:フォルクスワーゲン)

住友ゴム工業は、2018年1月1日に子会社のダンロップスポーツを吸収合併する。全世界でグループ各社が行ってきたスポーツ事業を一元化、全世界で「ダンロップ」ブランドのスポーツ事業を強化する構えだ。


ダンロップスポーツが今年12月に発売するゴルフクラブ「ゼクシオ」の10代目モデル。ゼクシオは2000年の発売以来、17年連続で国内売上高首位を維持する(写真:住友ゴム)

今年4月に英スポーツダイレクトインターナショナル社が保有する「ダンロップ」商標権を買い取ったことで、スポーツに関しては全世界で「ダンロップ」を扱えるようになった住友ゴム。「スリクソン」や「ゼクシオ」といったゴルフで世界的なブランドに育ったものを引き続き生かしつつ、「ダンロップ」ブランドを全世界で積極的に活用する方針だ。

しかし、タイヤ世界6位の同社が中核に据える「ダンロップ」ブランドのタイヤ事業となると、状況が異なる。世界3強の一角を占める米グッドイヤーとの提携解消後、欧米では同ブランドを原則として扱えなくなっているためだ。

「ダンロップ」ブランドめぐり紆余曲折

住友ゴムの起源は、今はなき英ダンロップ社が1917年に全額出資して設立した日本法人だ。その名もダンロップ護謨(極東)。ダンロップ社は世界で初めて空気入りタイヤを発明した名門企業だが、1980年代になると経営が傾く。住友ゴムがダンロップの保有株を買い取り、本体の支援にも乗り出す。欧米のダンロップ事業も相次いで買収して、立て直しを進めた。

このまま、ダンロップが育っていれば、違った未来となったはずだが、1990年代の「失われた10年」がそれを許さなかった。まず不運だったのが、1995年に発生した阪神・淡路大震災。神戸の本社工場は甚大な被害を受け、再建を断念する。さらにメインバンクの長銀が1998年に破綻。自己資本比率が2割を切る厳しい財務状況の同社にとって、欧米事業を単独で維持し続けることは難しくなった。

1999年に住友ゴムとグッドイヤーは提携。日米欧に計6つの合弁会社を設立し、それぞれが持つ「ダンロップ」「グッドイヤー」両ブランドの生産・販売や共同購買、技術開発などで広く協業することにした。提携初期こそ、住友ゴムはグッドイヤーの技術力を、グッドイヤーは住友ゴムの販路や生産拠点を獲得、メリットは双方にあったという。住友ゴムも2000年度から2014年度まで、売上高は倍、営業利益は3倍超に成長した。


一方、この15年ほどで世界のタイヤ業界は激変する。新興国での自動車普及に伴い、タイヤを製造するプレーヤーも増加。韓国のハンコックやクムホ、台湾の正新など、新興勢が台頭し、日米欧のトップメーカーの競争力は相対的に低下していた。

特に3番手のグッドイヤーは、低採算の米フォード向け生産や原材料高騰などで、2003年に経営危機が表面化。10%強持っていた住友ゴム株の大半を手放した。一時18%あったシェアは2015年には10%を切った。

この頃、タイヤの主戦場になったアジアなど新興国市場は、住友ゴム・グッドイヤー提携の対象外で、2社が競合する場面が増えていた。2014年には、グッドイヤー側が反トラスト法(独占禁止法)違反を理由に、住友ゴム側に提携解消を要求。両社は国際商業会議所に仲裁を申し立てる一方、水面下で交渉を続け、解消で合意した。

それまで合弁(グッドイヤー75%、住友ゴム25%出資)で展開してきた欧米のダンロップ事業はグッドイヤーの手に渡り、住友ゴムが「ダンロップ」を扱えるのはアジアなど新興国が中心となった。結果として、「ダンロップ」は地域ごとに扱う会社が異なるという複雑な状況が出現した。

名門「リバプールFC」ともスポンサー契約

グッドイヤーとの提携解消後、欧米市場では「ダンロップ」に代わり、独自ブランドを育成せざるをえなくなった。また、住友ゴムがそれまで積極投資を行っていたアジア市場が鈍化する一方、欧米市場の回復が鮮明化。欧米市場のテコ入れはもはや待ったなしの状況となる。

そのカギを握るのが同社が持つもう1つのブランド「ファルケン」だ。同ブランドは1980年代から段階的に吸収した日本メーカー、オーツタイヤのもの。主にスポーツ分野での展開を進め、欧州では一定の認知度を有していたが、このブランドを軸に欧米市場でのタイヤ拡販を進める。


住友ゴムは2017年7月にイングランドのプロサッカーリーグ「リバプールFC」と「ファルケン」ブランドでスポンサー契約を結んだ(写真:住友ゴム工業)

米国では2015年から大リーグ(MLB)のスポンサーとなり、欧州では今夏、英国の名門サッカークラブ、リバプールFCともスポンサー契約を締結。横浜ゴムとチェルシーのようなユニフォームにロゴを入れるメインスポンサー契約ではないため、費用はさほど大きくない。それでも、5度の欧州王者に輝く人気クラブだけにその広告効果は小さくなさそうだ。


住友ゴム工業の池田育嗣社長は米グッドイヤーとの提携解消を機に、「ファルケン」ブランドの欧米での拡販を精力的に進めている(撮影:今井康一)

タイヤ販売で欧州2位の英国には大きな一手も打った。2017年に約300億円を投じ、同国の大手タイヤ販売会社であるミッチェルディーバー社を買収。「『ファルケン』の販売拡大を積極的に進めている」(池田育嗣社長)。買収した会社では他社のブランドも扱っていることから、「ファルケン」は現状では販売の2割程度にとどまる。だが、他社製品に比べ利幅が厚くなる「ファルケン」比率は着実に増えていきそうだ。

北米で人気のSUV向け拡販急ぐ

また、提携解消に伴い、グッドイヤーから取得した米国のバッファロー工場でも「ファルケン」ブランドのタイヤを製造できるよう強化中だ。現在はグッドイヤー向けのOEM生産が中心で、「ダンロップ」ブランドの製品を製造しているが、2018年メドに終了する。

2019年末には現状の日産5000本を同1万本に引き上げ、市場のニーズが強いSUV用タイヤを「ファルケン」ブランドで生産できるようにする。製造品目の切り替えは計画どおりに進捗するが、「もうちょっと早くしたい」と池田社長も気持ちが入る。

ただ、住友ゴム全体では、「ファルケン」の売上比率は20%程度と低い。「欧米で『ファルケン』も伸びているが、『ダンロップ』も他地域で伸びている」(池田社長)ためだ。現在は、「ダンロップ」が売り上げの7割を占める。池田社長は「2020年までに『ファルケン』の比率を30%まで引き上げたい」と話す。


日産自動車が北米で2017年に発売したSUV「ローグスポーツ」に「ファルケン」ブランドのタイヤが採用された。住友ゴムは北米で人気が高まるSUV向けのタイヤの現地生産能力を増強する計画だ(写真:日産自動車)

欧米の「ダンロップ」事業を手に入れたグッドイヤーに対しては、住友ゴム関係者から「十分に活用できているようには思えない」との声も聞かれ、自ら育てたいという気持ちもにじむ。失われた10年に失ったものは、住友ゴムにとってもあまりに大きいが、「ファルケン」を強化しつつ、引き続き買い取りのチャンスを待つことになりそうだ。