「お客さん、ここもね、津波で全部流されたとこなんですよ」
 震災の傷跡だらけの海沿いを行く、1両の気動車のなかにいる。
 三陸鉄道、南リアス線。
 いま乗っている車両は、クウェートから贈られた、ピカピカの新車。団体客や旅人たちで満員の車内には、車窓を案内しながら、ご当地グルメを売る30代&60代の女子コンビの姿。
 薄っぺらなラン鉄オヤジのアタマでは、その笑顔の奥にある岩手女子のココロまでは入り込めないけど、なんでも楽しそうに乗客に話す2人のおかげで、車内はまるで「宴会列車」のよう。
 海辺の痛々しい傷跡を映す車窓と、車内の愉しげな雰囲気。そのギャップに、まだなじめないラン鉄が、ひとり。
 一ノ関から八戸へ。山側を貫く新幹線で行くと2時間ほど。リアス海岸沿いをたどると、なんと2日間かかる!
 三陸鉄道の北リアス線と南リアス線に不通区間が残っていたころで、バスと鉄道を何度も乗り継ぎながら、目の前に映るリアルを垣間見た。
 大船渡線で気仙沼へ。気仙沼から盛までは、BRT(バス)に揺られる。
「このへんは大船渡線の線路だったところですよ。いまバス専用道ですわ」
 真っ赤なバスのハンドルを握る運転手が教えてくれた。確かに、トンネルや盛土は、大船渡線時代のまま。路盤には真新しいアスファルト。
「奇跡の一本松」が見えてきて、盛。
 一本松さんの足元を行き来するダンプカー。その脇を、観光客が列になって歩く。どこか、不思議な光景。
 盛から三鉄南リアス線で、吉浜まで。
 その車中でも似たようなフシギな雰囲気を感じた。冒頭のギャップだ。

 「はーい、そろそろ出発しますよ!」
 恋のパワースポットといわれる恋し浜駅では、ちょっと停車。乗客はホームに立ち、記念撮影タイム。
 みんな、笑ってる。
「春にはぜんぶつながるから、また三鉄にのりに来てください」
 売り子の女子ふたりが、手を振る。
 南リアス線の不通区間だった、吉浜と釜石の間は、岩手県交通のバスで。

 釜石。鉄の街の煙突にけむりがあがる。今春からは、もうひとつのけむりが駆ける。C58形蒸機が牽く、SL銀河が釜石線を、走る。5月の連休あたりは、釜石線のけむりを追いかける人たちで、にぎわっているはずだ。
 駅の北にある、呑ん兵衛(釜石はまゆり飲食店街)の軒を歩く。
「ここいらで一杯…」
 暖簾をくぐりたい気持ちでいっぱいだったけど、ここはガマン。山田線の釜石と山田の間を岩手県交通バスで、山田と宮古の間を岩手県北バスで行く。

 夜の帳がおりた、宮古。丸一日かけて三鉄とバスを乗り継いだ180キロ。一日目の旅が終わる。
 二日目。北リアス線に揺られる。
「よっこらしょ」と腰を上げ、ゆっくりと列車から降りていくおばあちゃんの姿をやさしく見つめる、運転士。
「はいどもね。またあしたね」
 北リアス線の小本と田野畑の間も不通区間。県北バスで山側を行く。
 田野畑。山間の駅にピュッという汽笛。ブルルンというディーゼルの鼓動とともに、レトロ車両が久慈を目指す。
「この堀内駅は、ドラマ『あまちゃん』で袖ヶ浜駅として登場しました」
 運転士の案内を聞いた乗客たちは、みんな想い想いにシャッターを切る。
 久慈。地元メシ、まめぶ汁にありつけた。湯気の向こうに、三鉄の日常が映る…。日が傾きかけたころ、八戸行き列車の足音が聞こえてきた

この連載は、社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行の月刊誌「リハビリテーション」に年10回連載されている「ラン鉄★ガジンのチカラ旅」からの転載です。今回のコラムは、同誌に2014年5月号に掲載された第22回の内容です。

鉄道チャンネルニュースでは【ラン鉄】と題し、毎週 月曜日と木曜日の朝に連載します。

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