兵器化された情報をより効果的に利用したのは、ISのテロリストたちだったと語るモーリー氏

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『週刊プレイボーイ』本誌で「モーリー・ロバートソンの挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが英語圏で破壊力をもつインターネット・ミームが、政治的に悪用されていることについて語る!

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近年、世界中で「兵器化(ウェポナイズ)」された情報が社会を蝕(むしば)んでいます。その象徴が、英語圏などですさまじい破壊力を持つに至ったインターネット・ミーム(以下、ミーム)。写真やイラストにコメントを加え、ネタとして楽しむものだったミームが、最近は巧妙に“味つけ”され、フェイクまがいのニュースなどと組み合わせて政治的に悪用されています。

昨年の米大統領選挙でドナルド・トランプが旋風を巻き起こしたのも、ミームの威力と無関係ではありません。彼を後押しした極右政治ムーブメント“Alt−right(オルトライト)”は、もともとなんの政治性もなかったカエルのイラストを勝手にシンボルに仕立て、様々な政治的主張と組み合わせてミーム化することで人々の潜在意識へより深く浸透したといえますし、トランプ大統領本人もツイッターでしばしば趣味の悪いミームをリツイートし、支持層にアピールしています(今年7月には、敵対している大手放送局CNNのロゴをトランプがタコ殴りにするミーム動画を堂々とリツイートしていました)

単なるネット上の画像に、そんな破壊力があるのか? そう疑問に思う方も多いでしょうが、実は2005年の時点で、米海軍司令部の中佐がミームの軍事利用を提案する論文を発表しています。いわく、敵のイデオロギーを敗北させ、敵方の非戦闘員の意見を自分たちに好意的な方向へと導くために、“Meme Warfare Center(ミームウォーフェアセンター、ミーム戦司令部)”を設け、戦略的にミームを利用すべきだ、と。実際、その翌年にはDARPA(米国防高等研究計画局)がミームの軍事利用に関する研究を行なうと発表しており、ペンタゴン(米国防総省)は当時から来るべき情報戦争の時代に備えようとしていたのでしょう。

DARPAの研究者は、ミームの効果を“Info−PIP(インフォピップ)”という造語で説明します。Infoはinformation(情報)。PIPはpropagate(拡散)、impact(影響力)、persist(余韻)の頭文字です。ある情報が、どのような人々にどんな規模で浸透するか。その人々はさらに拡散させるか。個人の行動や社会はどう影響を受け、それはどれくらいの期間にわたるか。人々はそれをどの程度記憶するか…。

ただ、今になってふり返れば、兵器化された情報をより効果的に利用したのは、あの“首斬り動画”をはじめとする過激なミームを世界中にバラまいたIS(イスラム国)のテロリストたちでした。ミームによるプロパガンダは、もともと主流ではなかった陣営が「最小限の行動で最大限の効果を生む」ためのカウンター戦略として最も有効に機能するのです(トランプ旋風もしかり、です)。

そしてもちろん、日本の人々にとってもこれは対岸の火事ではありません。ツイッターやフェイスブックなどミームが拡散するためのツールは存在しますし、2011年3月の福島第一原発事故の直後、科学的な検証を無視して放射能の危機をむやみに煽(あお)るようなミームが大量に拡散されたという前例もあります。

ねじ曲げられた情報が魅力的でわかりやすいほど、人は無意識に吸い寄せられてしまうもの。複雑な世界をひと言で説明してくれるミームに出会ったら、まずは疑いましょう。多くの場合、それは人々の「願望」や「恐怖心」につけ入るよう兵器化された情報なのです

●Morley Robertson(モーリー・ロバートソン)

1963年生まれ、米ニューヨーク出身。国際ジャーナリスト、ミュージシャン、ラジオDJなど多方面で活躍。フジテレビ系報道番組『ユアタイム』(月〜金曜深夜)にニュースコンシェルジュとしてレギュラー出演中。ほかにレギュラーは『ニュースザップ』(BSスカパー!)、『Morley Robertson Show』(block.fm)など