革新?伝統?欧州の注目アカデミー ▲札螢A編:アタランタ

写真拡大

史上最高額を一気に倍以上も更新したネイマールを筆頭に、とどまることを知らない移籍市場のインフレ化。そのインパクトの影に隠れがちだが、こうした潮流の裏で激しさを増しているのが、価値が高騰する前のタレント争奪戦だ。その対象は、FIFAの移籍条項により国際移籍が不可能なU-17ワールドカップ世代も例外ではない。ここでは、欧州4大リーグの中でもタレントの発掘・育成に力を入れている4クラブの、独特のメソッドに迫る。

「褒める」「尋ねる」「自信を与える」“青いバルセロナ”を支える対話術

文 結城康平

 昨季のアタランタは、玄人をうならせるチームだった。26年ぶりに欧州の舞台にたどり着いたジャン・ピエロ・ガスペリーニの軍隊は、機械のように緻密な攻撃で相手を圧倒。大きな驚きを提供したダークホースは、カルダーラやコンティを筆頭としたクラブ生え抜きの若者たちによって支えられていた。セリエAを席巻した彼らの土台には「青いバルセロナ」と称される育成組織がある。

 5大リーグの育成組織を対象にした2015年の研究によれば、「トップチームに昇格したユースチーム出身者の人数」でアタランタは欧州8位(イタリア国内では1位)。人口15万人に満たないベルガモを本拠とする小さなクラブに欧州の強豪が次々にスカウトを送り込むのもうなずける。

 イタリア最高の育成組織を作り上げた男の名はミノ・ファビーニ。スカウトと指導者を兼任した彼は、「勝利ではなく、どのようにプレーすべきかを教える」アヤックスのスタイルを模倣しながら育成組織の改革に挑んだ。最初に着手したのは、クラブのカルチャーを知る元所属選手を積極的にユース指導者に登用する試み。元イタリア代表監督のチェーザレ・プランデッリも、アタランタユースで指導者としてのキャリアをスタートしている。ファビーニの哲学を体現したアタランタユースは黄金時代を謳歌し、中核となったモントリーボとパッツィーニは、ともにイタリア代表にまで登り詰めた。

革命家の哲学を継承する男

 「Fergie's Fledglings」(ファーギーのひな鳥たち)と呼ばれたベッカム、スコールズ、ネビル兄弟を生んだマンチェスター・ユナイテッドのアカデミーのように、環境と才能の組み合わせは黄金世代を生む。しかし、アタランタの育成組織は黄金世代に依存せず継続して好選手を輩出し続けている。ミランに飛躍したボナベントゥーラ、サウサンプトンで活躍中のガッビアディーニ、バレンシアに加入したイタリア代表FWザザ、インテルに引き抜かれた大器ガリアルディーニ……。モントリーボを筆頭とした黄金世代がクラブを離れた後も、数え切れないほどの才能たちがベルガモの地から巣立っていった。

 ファビーニという革命家が去った後、彼の哲学を継承したのはステファノ・ボナコルソだった。彼もアヤックスの哲学をベースとした「ボール中心主義」を掲げる。基礎技術を重視する思想はウォームアップに60秒間のリフティング、練習に40分間のフットテニスを組み込んでいることからも読み取れる。

 さらに、彼の練習において強調されるのが「褒める」こと。アタランタの指導者が共有するのは「サンドイッチ」と呼ばれる一連のプロセスで、それは「選手を褒める」、「次に何をすべきかを尋ねる」「次のレベルに挑戦する自信を与える」というもの。大声で怒鳴ることは決してない。褒めることでモチベーションを高め、自ら考えさせることで思考力を磨き、さらに難易度が高い技術の習得へ挑むことを奨励する。

 一方、戦術的な要素は「ゲーム形式の練習」に集約させる。「実戦形式の練習が一番の教師になる」と語るように、ボナコルソは3対3、4対4の狭いコートでのゲームを積極的に組み込む。それが終わると、彼は「練習で学んだ中から、どのような技術を使うことができたか?」「どのような戦術的なアイディアが浮かんできたか?」「フットテニスで学んだように、適切に味方とコミュニケーションを取ることができたか?」といった問いを少年たちに投げかける。個人技術の練習と試合の要素を含む練習を通して得られる学びを繋ぎ合わせることで、相互作用を生み出すのだ。

 「正しい技術でプレーしなければ、フォーメーションは単なる電話番号に過ぎない」という現代的な思想を掲げるボナコルソは、ペップ・グアルディオラと同じ価値観を共有する。アタランタが受け継いできた哲学を若者たちに吸収させる優れたコミュニケーション能力によって、彼はベルガモの地で才能を育て続けるだろう。

欧州の注目アカデミーをリーグごとに紹介

10月10日(火)公開: 屮屮鵐妊絞圈
10月11日(水)公開:◆屮札螢A編」
10月12日(木)公開:「リーガ編」
10月13日(金)公開:ぁ屮廛譽潺∧圈

Photo: Getty Images