仕事と恋愛、キャリアとプライベート、有能さと可愛げ……女性が日々求められる、あるいは自分に求めてしまうさまざまな両立。理想の自分になるためにがんばってはいるけれど、時々しんどくなってしまうことも。

今回、ウートピでは、そんな悩ましい両立について、改めて問い直してみるキャンペーンを始めました。その両立は貴女の人生に本当に必要なものなの? 貴女が幸せになれる両立ってどんなカタチ? 一度、一緒に考えてみませんか?

「両立」と言うと、真っ先に「仕事と家庭の両立」「仕事と家事の両立」が思い浮かぶのではないでしょうか。でもちょっと待って、それって多くの場合、女性だけに使われる言葉じゃない? しかも「うまく仕事と家庭の両立をしましょう」なんてポジティブに使われることが多い気がするけれど、本当に必要なの?

1人で家事も子育ても仕事もこなす母親たちの姿をつづった『ワンオペ育児』の著者で社会学者の藤田結子さん(明治大学教授)に話を聞きました。

「両立」は無理ゲー?

--いきなり私の話で恐縮なのですが、前職は芸能記者だったんです。イベントや会見で芸能人の取材に行くんですが、新婚の女優さんだとレポーターや記者が必ず「家事との両立は?」とか「どんな料理を作るんですか?」って聞くんです。俳優には聞かないのに。

こうやってマスコミが「家事や料理は女性の役割」っていうイメージを世間に植え付けちゃっているんだなと思ったのを覚えています。

藤田結子(以下、藤田):日本はまだまだ性別役割分業意識が根強いですからね。戦後高度成長期に広がった「男は仕事、女は家庭」という役割意識が残っています。

--女性も仕事を持つようになって、男性と同じくらい働いている人もいるのになぜ女性ばかりが「両立」を求められるのかなあと。うまく回している人はいいと思うんですが、仕事も家庭もちゃんとやらなきゃって思ってがんばりすぎている女性が多いんじゃないかなって思うんです。

藤田:「両立」って言うとポジティブに聞こえますよね。仕事で活躍しながら女性が子供を育てることは素晴らしいっていうけれど、現実には”無理ゲー”でしょう。「魔法の言葉」っていうのかな、ごまかしてごまかして、素晴らしいものってしておけば、辛くて苦しいことも乗り切れる、みたいな。

だからしなくていいと思うんですよね。そもそも、社会がずっと女性のほうにだけ仕事と家庭の両立を求めてきた。

聞き取り調査をしていると、実態は男性は相変わらず仕事中心の人が大半です。両立する仕組みが不十分なままで、女性個人に努力で「両立しろ」って言っても無理だと思うんです。

子どもが2人いて、育児をやって夫の世話をやって良き妻、良き母、そのうえ仕事も……なんてできるわけありません。

--あ、結論が出ちゃいましたね。「無理!」っていう……。

人のケアをすること=女らしさ?

--社会も会社も女性に「お母さん」を求めているという部分はないですか?

藤田:そういう面はあると思いますね。人のケアをすることが「女性らしさ」と結びついちゃっている。愛情を持って誰かの世話をするのが女らしさと思われているし、女性自身も受け入れちゃっていますよね。

面白い調査結果があって、女性に「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」と聞くと「反対」のほうが多いんです*。
*「平成26年女性の活躍推進に関する世論調査」内閣府より

でも、私が実施している調査やほかの調査で「母親が愛情をかけて子供の世話をすることは大切ですか?」って聞くと「はい」って答えるんです。女性が愛情を込めて人の世話をするのは自分の仕事と思っているってことですよね。

ひとりでがんばる必要はない

--ただ、政府も「女性活躍」を推進しているし、「働き方改革」で社会や職場も少しずつ変わってきているのかなと思うのですが……。

藤田:政府や企業のトップレベルではやろうとしているんですが、現場レベルではまだまだ進んでいないのが実情です。

妊娠を報告したら「会社を辞めてください」って言われたケースとか。女性活躍を推進している大企業でもそんな状態です。男性も男性で、育休を取ったら飛ばされたとかよく聞きますね。ダブルスタンダードなんです。

--どう変えていけばいいのでしょうか?

藤田:難しいですよね。会社の制度、企業の文化、人々の意識も変わらないといけない。『ワンオペ育児』を出版してわかったのが、男性の大半は本当に興味がないんです。取材に来てくれる記者の方も9割女性。全体から見たら女性の記者の割合って2〜3割のはずなのに。

--男性がそもそも家庭のことや子育てを自分ごととして捉えていないんですね。

藤田:そうなんです。だから、こうなったらもうみんなで放棄したらどうでしょう(笑)。

周囲のプレッシャーを感じても、無理に結婚する必要ないし、無理に子どもを産む必要もない。子どもができても「いい子育て」をしなくてもいいし、家事も外注すればいい。両親や親戚を動員したっていい。

自分一人でやる必要はないんです。がんばって両立しようと女性の個人の努力に任せるのが間違い。だって、社会の仕組みがそうじゃないんだから。

努力すべきは社会の仕組みを作っている権力者のおじさんたちですよね。女性だけでなく男性も「両立」できるように、おじさんたちこそ努力してほしいなって思います。

※次回は10月13日公開です。

(聞き手:ウートピ編集部・堀池沙知子、写真:宇高尚弘/HEADS)