姫乃たまが井上三太に聞く、漫画と音楽をつなぐ上で必要なこと「自分が常に新しい人でいないと」

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 レコードショップや音楽配信サイトでは、音楽よりも先にジャケットのアートワークが情報として飛び込んできます。しかも一目惚れして買ったCDやレコードは、音も好みだったら嬉しいけれど、好みじゃなくてもなんだか面白いものです。「音楽のプロフェッショナルに聞く」第7回目は、漫画家でファッションブランド・SANTASTIC!のデザインも手がける井上三太さんをお迎えして、音楽の楽しみを増加させるCDのアートワークについて聞いていきます。好きなことを仕事にするヒントが散りばめられたインタビューです。(姫乃たま)

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■漫画家とアーティストの関わり

ーー井上さんは音楽に造詣が深い漫画家として知られていますが、音楽への知識と絵の技術を活かして、CDのアートワークも数多く手がけられていますよね。好きな音楽の分野に仕事の範囲を広げることで、井上さんらしさも確立されていて、幸せな仕事も多いように感じます。

井上三太(以下、井上):スチャダラパーの『6ピース バリューパック』は、僕も彼らのことが好きだったから幸せな仕事だったと思ってます。3人を犬にしたんだけど、自分でもうまく描けたなって思ってるし、終わった後にお金がいらないと思えるくらいの仕事は理想だよね。お金はもらわないと仕事じゃないけど……。

ーースチャダラパーのアートワークは何度か手がけられていますが、井上さんがG-PEN名義で「ONIDEKA SIZE」を制作した際にはラップ指導も受けられていて、お互いの活動を通じて親交を深められている様子がうかがえました。

井上:いや、あれはスチャダラパーが優しかったんですよ。でも、どれも本当にいい仕事でした。

ーー井上さんはフランス生まれですが、絵についてはどのような影響を受けられてきたのですか?

井上:父親が画家なので、紙を渡されてずっと絵を描かされる環境に育ちました。9歳で日本に帰ってくる前から日本のアニメが好きだったので、パリで永井豪の『マジンガーZ』を観てた記憶があります。お話を組み立てたい気持ちもあったので、漫画家になるのは子供の頃から決めてました。小学校六年生には『週刊少年ジャンプ』に持ち込もうと思っていて、デビューしたのは20歳の時なんですけど……なんか、絵も漫画も大好きだけど、好きなことの話ってうまくできないですね。おっぱい大好きだけど、なんで好きかって聞かれると、あれって脂肪の塊だしなんて説明したらいいかわからない。

ーーそういえば、ある時期から井上さんの漫画では、女性の鼻がすごくグニグニした感じで描かれていますよね。あの表現にも言葉では説明しきれない好みが描かれているように感じます。

井上:女性を見る時に目が大きいとか、好みが色々あると思うんですけど、僕は鼻がセクシャルだなって思うんです。もともと自分の鼻の形が嫌いだったんですけど、ここ10年くらいでコンプレックスが一周したみたいで女性の鼻が好きになっちゃったんですね。

ーー井上さんの絵は一見リアルだけど、実は漫画らしい表現に溢れています。

井上:できるだけリアルに描きたいから、漫画を描く時は写真を撮影してから絵にしてるんですけど、間違えたらいけないのはリアルな絵が上手い絵ではないってこと。いまは機械でも漫画を描けちゃうので、自分の頭の中の光景を変換して絵にする技術でお金をもらっていると思ってます。

ーー先ほどお話を組み立てたいとおっしゃっていましたが、原作付きの作品を描かれていないのは、絵と同じようにストーリーにも創作意欲があるからでしょうか。

井上:やっぱり言いたいことがあるんですよ。絵だけを描いていたい人もいると思うんだけど、漫画を描くのってすごい手間がかかるんです。取材して、下書きして、ペン入れして、消しゴムかけて……そんな手間のかかることを、僕はほかの誰かが伝えたい話のために頑張れない。でも漫画は手間だし仕事ではあるけど、描いている間の快楽もあるんですよ。うまく描けなかった絵が描けたら嬉しいし、頑張ってると自然と没頭できるんです。漫画を描きたい気持ちは説明できないんですけど、やりたいことはただやりたいというか、わくわくして生きていたいんです。

ーーCDのアートワークを描く時は、アーティストの意向と擦り合わせる作業があるので、また違った面白さと苦労がありそうです。

井上:人によるけど、たとえばDJ KOMORI君がミックスCDを作った時は、夕方っぽいイメージの絵を依頼されたので、差し出がましいんですけど「You Gotta Hold On Me」ってタイトルはどうかなって提案しました。「夕方」と「You Gotta」もかかってるし。

ーーえっ、音源のタイトルまで提案するんですか?!

井上:その時はそうでした。デザイナーも僕が指名させてもらうことが多いです。もちろんアーティスト側で希望する人がいたらそうするんですけど、絵の印象ってデザインによって良くも悪くも決まっちゃうので、なるべく息の合っている人がいいなと思っていて。僕はずっとクレイジーケンバンドのジャケットデザインをしているYOXX君とやっています。

ーーほああ、絵の方向性だけじゃなくて、デザインやタイトルにも携わっていたなんて驚きです……! 音楽に詳しい井上さんだからこそかもしれないですね。

井上:詳しいって言っても、本当に詳しい人はすごいから、聴けば聴くほど音楽に詳しいって言えなくなっちゃう。僕は大学生の時にレンタルビデオ屋でバイトしてたから、音楽は聴き放題だったんです。ちょうどニュージャックスウィングのブームが1999年に起きて、ボビー・ブラウンとか、ガイ、キース・スウェットが出てきた時期に直撃して。当時はブラコン(ブラックコンテンポラリー)って言われて、チャラい人が聴く音楽みたいな感じで、下に見られることもありました。最近はSpotifyを使ってるんだけど、定額だと新しいものや食わず嫌いしてたものも、どんどん聴けますね。音楽聴かない人いるけど、あれってよくわからないな。とにかく音楽とAVは新しいものを探し続けないと!

ーーにゃはは! 井上さんって、なにやら最近流行っている可愛い顔になるやつもやってますよね。

井上:Snapchatのことですか? こうケータイのカメラで撮ると、目がバーンって大きくなったりするやつ。あれは本当はおじさんがやったらいけないんですよ。見目麗しい若い女の子がやるものだから。でもね、僕は時代を抱きたいの。僕はまだヒット作を出したいし、それができると思ってるから。いまでも漫画を出せるだけで素晴らしいけど、昔の僕の作品を知らない若い子にも読んで欲しいと思ってるから常に新しいものは追い続けたい。新しい自分でいないと、アーティストにも依頼してもらえないと思うしね。

■漫画と音楽の交差点に立つ

ーー漫画家として音楽の仕事に携わるようになったきっかけはなんですか?

井上:僕は「ヤングサンデー新人賞」でデビューしたんだけど、次の新人賞の時に優勝者として募集ページにイラストを描くことになって、新人賞のページなのにR&Bのイラストを描いたの。「ガイが好き」とかそういう内容の。当時、『(週刊)ヤングサンデー』でギャグ漫画を描いていた喜国雅彦さんが、好きなヘビーメタルについての漫画も描いていて、漫画でヘビーメタルが好きってことを表せるってわかったから、僕はR&Bが好きな漫画家として仕事がしたいと思ったんだよね。その後、『宝島』で連載してた電気グルーヴの「脳が溶ける奇病」にイラストを描かせてもらったり、『rockin’on』でも仕事をさせてもらえるようになりました。

ーー井上さんはミュージシャンにもファンが多いですが、最近CDアートワークを手がけられた防弾少年団のメンバーも、もともと井上さんのファンだったと聞いています。

井上:彼らは僕の漫画を読んで依頼してくれたんですけど、僕も防弾少年団の曲を聴いてみたら、すごいヒップホップをやってるので好きになって、お互いに尊敬できて嬉しかったですね。彼らは、ファンがすごく熱狂的なんですよ。メンバーの誕生日になると、誕生日用にラッピングしたバスを走らせたり、ニューヨークのビルに写真を貼り出したり。ジャケットを描かせてもらった後は、ライブを観に行くとファンの人が僕にも声をかけてくれて、それも嬉しかったです。

ーーCDのアートワークを作っていく上で、困ってしまったこともありますか?

井上:うーん、あまり意見をもらえないのは困っちゃう。ラフを見せてOKが出たのに、完成した後に何回も描き直すことになったり、ジャケットの表紙を依頼されたはずなのに、発売されてみたら裏に使われてたり……。理由を聞いたら、もう少し違うイメージでお願いしたかったって言われたので、やっぱり最初に意見は言って欲しいです。遠慮してるのかもしれないけど、結局お互いにいい気持ちで仕事ができないのは良くないですよね。

ーー井上さんがジャケットのイラストを描く時に、気をつけていることはなんですか?

井上:好きなミュージシャンのジャケットを描く時には、まずファンである自分をがっかりさせたくないです。中身がいいのにジャケットが負けてるだろって、自分が思うのは嫌だし、ミュージシャンが作った音楽に真剣に向き合いながら、僕にとっても自分の代表作にしたいという意気込みでいつも描いています。そしてその前に自分が常に新しい人でいないと、ミュージシャンからお願いしてもらえなくなっちゃうと思う。まだ公の場では言ってないんですけど、LAに住むことにしたんです。以前、De La SoulのCDのジャケットを描かせていただいたんですけど、今度は本場のアメリカに行って仕事をしたいと思ってるんです。

ーーわあ、ずっと進んで行こうとする姿勢がすごいです。

井上:いやいや、日本でやりたいことをやり尽くしたからアメリカいくぜ、みたいな格好いい話じゃないんですよ。ただ、漫画雑誌が大変っていうのもあるけど、どこかで行き詰まりを感じていて、いつでも必死にやりたいから、そのための環境にいようと思っただけです。日本はアニメが一番だから、本当は日本にいてもいいんですよ。でも僕はヒップホップが好きだから、僕が描く日本の絵と、アメリカの音楽をもっと一緒にしてみたい。それをNetflixとかで配信した時に、もしかしたら日本のアニメとか、アメリカの音楽とか、作品に国籍がなくなっていくかもしれない。原作者は日本人だけど、絵を描いたのは韓国人とか、それで制作スタジオはアメリカにあって、それを世界中に配信する、みたいに。それをアメリカに渡ってやる漫画家がいるかなって考えた時に、僕がやってみたいなって。

ーー大事な話をしてもらっちゃいました……!

井上:この話、インタビューの最後っぽくて良くないですか?(笑)。

ーー助かります! ありがとうございます!