過去2年間は「疲れた」「しんどい」が口癖だった。

 2015年は年間7勝、翌2016年は年間5勝を挙げて、2年連続賞金女王に輝いたイ・ボミ(29歳/韓国)のことだ。

 昨季、一昨季と、彼女は常に”賞金女王”というプレッシャーと戦っていた。自ら課した目標ではあるが、周囲の期待も膨らむ中で、その重圧に追い込まれるたびに、精神的にも疲弊していったのだろう。しばしば、後ろ向きな言葉をポロッと吐くときがあった。

 しかし、外から試合を見ている人にとっては、そんなイ・ボミの精神状態など知るよしもない。過去2年間は、いつも笑顔で振る舞って、他を圧倒する強さがあったからだ。

 2014年、最愛の父を亡くしたイ・ボミ。賞金女王のタイトル獲得は、その父との約束だった。その分、「必ず勝ち取らなければいけない」という思いが強かった。それが、知らず知らずのうちに、彼女にとって相当な重荷になっていったのかもしれない。

 また、2016年はリオ五輪出場へ代表権の獲得を目指しつつ、2年連続の賞金女王も狙った。そのときは、スケジュール的にも、精神的にも余裕がない状態で、かなり追いつめられていた。

 そういう状況の中で、「疲れた」や「しんどい」と愚痴るのも致し方ないことだった。

 とはいえ、過去2年間は結果がついてきた。心労が続き、精神的につらく、苦しいシーズンだったとしても、勝利し、栄冠を獲得することで、弱っていた心も、沈んでいた気持ちも解放することができたと思う。

 だが、今年は違う。イ・ボミ自身、これほど”しんどい”シーズンを経験したことはなかったのではないだろうか。


今季は厳しい戦いが続いているイ・ボミ

 今季のイ・ボミは、開幕戦のダイキンオーキッドレディスで3位タイになったものの、過去の2年間では一度もなかった予選落ちが8月までに3回もあった。トップ10入りも、17試合を消化した時点でわずかに5回。過去2年とは比べものにならないほど、冴えない成績に終わっていた。

「(イ・ボミに)何があったのか?」と、誰もが心配するのも当然だった。

 こうした状況について、イ・ボミは「日本で7年目のシーズンを迎えましたが、その中でも一番よくないと思います」と語った。

「ここまで(状態が)悪いのは、初めての経験ですね。よかった状態から、いきなりすべてがダメになる感覚。あらゆることにおいて、またイチから始めなければならない、という状況にあることがすごくしんどかったです」

 不調の要因は、自分でもわかっていた。

「全体的な数字を見ると、パーオン率がすごく低くなっています(※)。これは、スイングの感覚が落ちてしまっていることが原因。今までは、打つときに緊張したり、不安になったりすることはありませんでした。それが今季前半は、スイングのことが気になりすぎて、どうやって打てばいいのかと悩んでしまって、そのことがメンタル面にもすごく影響していました」
※10月9日現在、今季のパーオン率は67・3108(26位)。2016年シーズン=74.4694(1位)、2015年シーズン=74.5880(1位)。

 専属キャディーの清水重憲氏も、その点を認める。

「(今季のイ・ボミは)一番得意のショット力が落ちてしまい、それがメンタルに影響していった、というのは確かにありました」

 悩みが増えると、自然と集中力は散漫になる。イ・ボミは、「コースの中を歩いているときも、グリーンに上がったときも、スイングのことばかり考えていました」という。

 今季は「ショットのイメージが出ない」と、賞金女王らしくない弱音を漏らす回数も増えていた。女子ツアー屈指の「ショットメーカー」と言われたイ・ボミから、その”らしさ”はいつしか消え、チャンスをものにできないストレスを今季前半はずっと抱えていた。

 それでも、イ・ボミは浮上のきっかけをうかがっていた。

 感覚を取り戻しつつあったのが、8月のNEC軽井沢72だった。最終日は6バーディー、ノーボギーで回って「66」をマーク。2日目を終えた時点では通算2アンダー、31位タイだったが、最終的には通算8アンダー、7位タイまで急上昇しフィニッシュした。

 そしてその翌週、CAT Ladiesで今季初優勝を手にした。

 長いトンネルからようやく脱出した安堵感もあり、精神的にも楽になったのだろう。さらにその翌週には、韓国ツアーのハイワンリゾート女子オープンに出場。ホールインワンを記録するなどして、通算7アンダー、3位タイという好成績を残した。

 今季初優勝を手にしたイ・ボミは、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)の樋口久子相談役から「スイングはそんな難しく考えるものではない。シンプル・イズ・ベスト」とアドバイスを受けたことで、「楽にスイングができるようになった」と語っている。ゴルフというスポーツが、どれだけメンタルに左右されるのか、その影響の大きさを改めて実感させられるエピソードである。

 ここまでの戦いぶりについて、改めてイ・ボミに振り返ってもらうと、彼女からこんなひと言が返ってきた。

「本当に、もう優勝できないと思っていました」

 まさしく、今季前半戦はどん底にあったのだろう。しかし、不調にあえぎながらも優勝することができた。再び感覚を取り戻せる手応えも手に入れた。イ・ボミが言う。

「いろんな足りないものを克服して優勝することができたので、私にとって(CAT Ladiesは)非常に大きな、意味のある大会になりました。今までの優勝の中でも、何倍もうれしい勝利です」

 ただ、今季初優勝を飾ったあと、おそらく多くのファンがイ・ボミの快進撃を期待しただろうが、現実は甘くなかった。今季は、2013年の日本女子プロ以来のメジャー優勝を狙っていたが、その日本女子プロは39位タイに終わり、日本女子オープンも47位タイと振るわなかった。

 まだ”完全復活”には至っていないようだ。

 イ・ボミは今、過去に経験したことのない未知の状況に陥っている。何をすればよくなるのか、まだまだ手探りの状態でツアーを戦っているのだ。

 清水キャディーが語る。

「(現状については)彼女自身の(心の)中の問題でもあります。私やトレーナーは、できる限りサポートを続けながら、本当によくなるのを待つしかありません。実力のある選手なので、また”流れ”をつかめば変われると思っています」

 先頃、イ・ボミが日本女子プロゴルフ協会の正会員になったことが発表された。今季から、単年登録会員が優勝、もしくは3年連続で賞金シードを獲得すれば、プロテストに合格しなくても正会員になれる規定が復活。CAT Ladiesの優勝でその権利を得て正会員になったイ・ボミは、自身のインスタグラムで喜びの声を発信していた。

 それは、これからも日本ツアーでがんばっていく、という決意の表れでもある。

 今季もはや、残り7試合となった。日本の多くのファンが、イ・ボミが再び満面の笑みを浮かべて、喜びを爆発させるシーンを待ち望んでいる。

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