港区の夜景。東京女子図鑑では港区はあこがれの場所だった(写真:YNS/PIXTA)

2016年12月からAmazonプライム・ビデオで配信されたドラマ「東京女子図鑑」が日本在住の中国人や留学生を通じて中国でもストーリーが拡散され、話題を呼んでいる。

以前も取り上げた「深夜食堂」「孤独のグルメ」など日本ドラマは中国でもファンの間で人気となり、徐々に一般人に広まった。「東京女子図鑑」は、一気に日本ファンとは無関係な層まで広まったように筆者は感じている。中国本土ではAmazonプライム・ビデオを視聴することはできないが、ドラマのシーンやストーリー設定がSNS等を通じて中国本土でも拡散された。そして、中国で若者に大人気なラジオ番組「hit FM」にも紹介されたのだ。

主に欧米音楽など最新のトレンドを紹介するこの番組が、「東京女子図鑑」のストーリーを取り上げ、大都市にいる中国若者からも共感を得たと紹介した。また、日本と無関係な若者向けWebメディアでもドラマの内容や登場人物のファッションが頻繁に取り上げられており、シェアやコメントが非常に活発になっている。

日本や中国のビジネス、マーケティングの研究を進めれば進めるほど、中国の若者が日本に強い共感を抱いているという事実に行き当たる。たとえば、無印良品が中国で展開するシンプルな商品のコンセプト、アニメなどの2次元文化、ドラマのロケ地を訪れる聖地巡礼など日本発の商品・日本への観光が人気になった。だが、最近、この共感が、若者社会の間にある課題を浮き彫りにしてしまった。

「東京女子図鑑」は北京や上海に当てはまる?

中国メディアが「東京女子図鑑」を取り上げる理由は簡単だ。このドラマの設定が「北上広(北京・上海・広州を指し、大都市を意味する固有名詞)女子図鑑」に変換できるからだ。

ドラマのあらすじは次のとおりだ。秋田県出身の主人公(綾)は、夢とチャンスがあふれる東京にあこがれ、地元大学を卒業後に上京。バリバリ働いて出世していき、自分が子どもの頃憧れていた垢抜けたきれいな女性になる。一方、プライベートは順調とはいえない。すてきな男性やダメな男性にも数多く出会うも、結局は独り身に戻り小さなマンションで友人と暮らすようになっていく。

この中で中国人が本質的な部分で中国と似ていると感じるのは、東京の「階層」という存在である。主人公の綾は付き合った港区出身の男性から、将来結婚するなら「港区の女性」としかない。地方出身の女性とは無理だといった内容のことを言われる。この言葉が浮き彫りにする「港区」を北京・上海・広州などの大都市に置き換えると、中国の「階層」の真相も見えてくる。

中国における戸籍制度は、中国人を「都市人」と「農民」に厳格に区別した。すべての中国人の戸籍は都市戸籍と農村戸籍に分けられている。雇用や教育、医療、社会インフラなどの面で、都市戸籍を持っている大都市在住者が優遇されている。そのため、農村や地方都市出身者は、さらに上のランクの生活を送るため、一所懸命に大都市に残るようになる。

しかし、大都市で就職先を見つけても、都市戸籍がないので住宅の購入に制限があるし、学校に多額の「支援金」を出さないと子どもは大都市で教育を受けられない。また、コネと努力を尽くして大都市の戸籍をもらっても、生まれも育ちも地方なので、「外地人」と見られ続け、男女とも結婚相手としての順位は低い。

日本には中国のような厳格な戸籍の区別はないが、「東京女子図鑑」で港区の男性が心配していたように、人との付き合いや考え方は地域によってまったく違う。そのため結婚したら、後々大変なことになる。そうなるより、港区なら港区と同じ環境の下で育てられた相手のほうが安心だろう。

中国の場合は国土が非常に広く、地域で言葉・飲食・習慣が異なるので、「よそ者」への不安が余計に高い。つまり、中国ではいくら優秀でも自分の生い立ちによって大都市では、よそ者と刻みつけられる。いつまで居ても、都市には自分の居場所がないと思うわけだ。

これは、主人公の綾がいくら港区の男性と付き合ってもハッピーエンドにはなれず、東京で高級住宅に住んでも、周りに住む本当のセレブからは相手にされないことと本質的には似ていることなのだ。

女性の価値とはいったい何なのか?

東京女子図鑑が中国の若者、特に女性を魅了したもう1つのポイントは、「女性の価値は何?」という点だ。

主人公の綾は、懸命に仕事をして年収も高く、見た目もますます美しくなっている。そんな綾が結婚相談所やお見合い会場に行くと、いちばん人気がない。男性が結婚相手を探すとき、妊娠・出産能力(=年齢)を優先するといわれ、見た目や年収などは二の次になる。

その後、結婚した綾は理想を支えると言った夫(真人)とも別居生活になる。結局、真人は不倫相手との間に子どもができて離婚してしまう。男性が求める女性は、結局何もない女性であって、夢も理想も持たず、男性の夢を支える女性だ、と綾は慨嘆する。

実は、日本より60年も早く男女共働きを実現した中国でも女性たちは、この「女性の価値は何?」ということに同じく悩んでいる。中国女性は、親にコントロールされ、大学時代には恋愛すらも禁止されていることも多い。

ところが、就職した途端25歳までに結婚しないと家族の恥だと責められ、慌ててお見合い結婚。好きな仕事にチャレンジしてみたかったが、「子ども(今では2人)を産まないと、お嫁の価値がない」「子どもができたら、自分の好きな仕事を考えるなんて、とんでもない親だ」と言われるため、自分の気持ちを殺し、黙って社会が求める「いい女(母)」になる。結婚や出産を選ばない女性は、家族の理解がないかぎり実家に帰るのに強いストレスを感じるのだ。

そして、毎日のように親戚から「いくら仕事頑張っても、結婚して子どもを産まないと、女性として不完全だ」「カネ儲けできる女は必要ない」「早くお見合いをしなさい」と言われてしまう。バリバリ働いて経済的に独立していて、自分がやりたいことがあったとしても、社会を敵に回す勇気がない中国の女性は多い。

「東京女子図鑑」で描かれた、「バリバリ働き、自分のキャリアを積み、そして40代になっても美しい」という中国人女性にとっての憧れを体現する主人公が若さで価値の判断をされ、理想が現実に負け、傷だらけの体験していることに強く共感したのだ。

中国人女性の価値観は東京女子に近づいていく

中国人女性は子どもがありながら、正社員として働き、一見、仕事と育児を両立しているように見えるが、実はそうでもない。周りの人が全面的に支えているか、そうでなければ仕事での出世を断念するのだ。

専業主婦やDINKS(Double Income No Kidsの略。共働きで子どもがいない夫婦)、フルタイムで働くワーキングマザーという選択肢も出てきている。社会環境が変わり、女性がこれからどのように生きていくのかは今後の大きな課題だ。就職・結婚・出産の過程で今まで判断された年齢や家族のメンツではなく、自分の意思で選択した幸せな生活を送ることは、女性が求めている本当の価値といえるだろう。

地方出身の女性が1人で上京し、夢の生活を掴むため、現実と戦いながら奮闘する。田舎にいた頃の自分の憧れを実現したのに本当の幸せとは何かに迷う。そして年齢とともに女性としての価値が減るという社会の見方に対して疑問を覚える。このリアリティが中国人女性の大きな共感を得た。

ビジネスでもマーケティングでも、中国の若者や中国人女性を対象とする際、このドラマが描写した女性の価値に対する社会課題が中国にも存在していることを前提にする必要があるだろう。

これまで、日本と中国の違いや日本人と中国人の違いといった視点から数多くの議論があった。だが、根底となる社会の価値観や女性の意識は、2つの国の間で距離が近づいているように筆者は感じている。