容姿、学歴、収入。男のスペックは高ければ高いほど良い。

が、同じだけのスペックを女が持ち合わせたとき、果たしてそれは本当に幸せなのだろうか。

東京にはある一定数、女ながらも男並みの「ハイスペック」に恵まれた層が存在する。

傍から見れば完璧な彼女達には、ハイスペックであるが故の葛藤があった。

東大卒業後、世界最大手の外資系証券会社で働く24歳の。ハイスペ女子としての誇りを持っているものの、並の男性以上に働く自分の生き方に、わずかな疑問も抱えるようになっていた。

ある日、楓が大学からの友人・美里と飲んでいると、元カレ・敦が恋人らしき女性と一緒に入ってきた。敦が語る、楓との思い出とは・・・?




その晩、僕は久しぶりに亜美と飲みに出ることにした。

亜美とはもうすぐ2年の付き合いになるが、付き合い始めた頃と比べても、コロコロよく笑う彼女のことは益々愛おしくなる一方だ。

接待を片付けた後で、彼女と出かけ直すには遅い時間だったが、ここしばらくかかりきりだったディールも丁度クローズしたところだし、久しぶりに二人で軽く飲みに出ようかということになった。

亜美の良いところは沢山あるが、なんといっても僕が一番気に入っているのは彼女の大らかさだ。

外銀勤めの僕にとって、プライベートに多くの時間を割り振ることは難しい。

限られた時間を一緒に過ごすなら、日頃のストレスを忘れさせてくれるような、優しくて明るくて大らかな彼女が良いに決まっている。

とはいえこう考えるようになったのは、つい数年前からだ。

外銀でのキャリアは8年目を迎えたが、この業界の同期や先輩の多くとは違い、今も昔も自分は女性関係にはかなり堅実なタイプだ。

同業の仲間達が、モデルやCAなど、所謂「華やかな女の子」と派手に遊んでいるのは散々見てきたが、一時の遊びならまだしも、少なくとも何年かを一緒に過ごす相手としては全く考えられない。

その上、一時の遊びとして彼女達と過ごす暇があるなら、仕事や趣味に打ち込んでいたかった。

だからこそ、彼女にするならお互いにきちんと理解し尊重し合える相手、と決めていた。

そしてそれは、パートナーの選び方としては間違っていなかったと思うが、元カノ・楓とは、お互い「不幸」になっただけだった。

「互いを理解し、尊重し合える」というのは必ずしも、「2人が同じような価値観を持ち、同じレベルのスペックを持つ」ということでは無かった。

当時の僕はそのことに、まだ気づいていなかったのだ。


失敗だったと振り返る、楓との交際。二人の関係は何故上手くいかなかったのか。


プライベートのはずなのに気が休まらない。バリキャリ女子との休日。


楓との出会いは、同期に連れられて行った西麻布のワインバー『ゴブリン』だった。

その日は最初から、チームの先輩に不満があるという彼の愚痴にひたすら付き合い、しかも悩みを吐き出しすっきりしたのか、22時を回るころにはすっかり彼は出来上がってしまっていた。

彼がトイレに立ったのを見計らい、そろそろ切り上げようと店員を呼び止め会計を頼んだ。

その時、店員が「隣の方、同じ会社の方ですよ」と多少苦笑いしながら紹介してくれたのが楓だった。

最初、彼女の隣のカウンター席に案内されたとき、西麻布のワインバーで若くて綺麗な女性が一人で飲んでいることに違和感を感じたが、それを聞いて腑に落ちた。

この店は、普通のハタチそこそこの女の子が一人で来るには値が張るが、外銀勤めともなれば1年目だろうが手取りは大企業の部長クラスだ。

聞けば父親の影響だとかで相当のワイン好きらしく、会社からも程近いこのワインバーに一人でふらっと訪れるのも不思議は無い。

その夜は早々に同期を送って帰らねばならず、彼女とは短い会話を交わしただけだったが、なんとなく気にかかり、翌週もう一度ゴブリンを訪れた際にも彼女に遭遇したのが、交際のきっかけとなった。



付き合い始めは良かった。

彼女は7つ年下だったが、対等に様々なことについて語り合えたし、食事とワインという共通の趣味もあった。

しかしある些細な諍いをきっかけに、敦は楓を恋人としては見られなくなってしまったのだった。




その土曜日の夜、敦は楓に、その週トラブルだらけだった仕事の愚痴をこぼしていた。

部下に任せていた、ディールの関係者との連絡が全く行き違っていたことが、最後の最後になって発覚し、事態の収拾に敦も相当の時間を取られることになってしまったのだ。

「いやほんとさぁ、3年目にもなるんだからそれくらいはちゃんとやって欲しいよ・・・」

そうこぼしたとき、楓は敦の目をまっすぐ見て言った。

「え、でも彼って敦のチームでその役割するの初めてだよね?それなのに彼に丸ごと任せてたの?大体、それくらいの基礎的な話が敦と共有されて無かったのって、そもそもおかしくない?」

ほろ酔いでのんびりワインを傾けていた手が止まった。

「・・・いや、それもそうだけどさ」

半分、いやそれ以上、図星だった。

が、楓の言葉はピリピリと神経を逆撫でした。

職場で、上下や内部外部問わずプレッシャーとストレスをかけられ続けているというのに、なぜプライベートでまで恋人に「正論」で詰められなければならないのだ。

ちょっとくつろいだ気持ちで漏らした愚痴なんだから、笑って「大変だったねえ」ぐらいで済ませられないのか。

そんな想いがふつふつと沸いてきた。


楓が振り返る、敦との思い出。


「頭の良い人が好き」という男の言葉は丸呑みするな!?


楓は、入口に立つ敦(とその彼女らしき女性)を前に固まっていた。

楓の異変に、美里も振り返る。

「あ・・・」

美里にも一度紹介したことがあるため、楓の元カレだと気づいたようだ。

「すみません、お会計ください。」

楓は固い表情で店員を呼び止め、そそくさと会計を済ませ、席を立った。

正直、敦との別れ方は気持ちの良いものではなかった。

二人の関係がぎくしゃくし始めてから、楓は何度も敦と話し合おうとした。

問題があるなら原因を探して正せば良い。分かり合えないなら分かり合うまで議論すれば良い。

楓は、少なくとも大学まではそうやってずっとやってきたのだ。

解に辿り着けなければどこに間違いがあったのか何度でも考え直し、分からないことがあれば分かるまで色々な解説を読み漁った。

敦のことは心から、「頭の良い人」だと思っていたからこそ、二人の問題ならそうやって、きちんと議論して解決できるはずだと思っていた。

が、その考え方は根本から間違っていたことを楓は知る。

「楓はさ、どうしてそうやって何でもかんでも議論したがるわけ?どうして一緒に楽しい時間を過ごすことだけに集中できないわけ?」

想定外の反応だった。

私だって一緒に「楽しく」過ごしたいと思っていたし、実際、一緒に「楽しく」過ごすように努めてきた。

「何でもかんでも、議論で白黒つけようとして。納得いく返事を俺が出来ないでいると、いつも不満そうな顔する。

楓と一緒に居ると、上司かなんかと付き合ってるみたいに感じるよ」

違う。別に不満になんか思っていない。

恋人だからこそ、大切に思っているからこそ、上辺だけの中身のない世間話よりは、建設的な議論がしたいと思っただけだ。

ーだって、付き合い始めた頃「きちんと話が出来る頭の良い女性が好き」って、言ってたじゃない。あれは嘘だったの・・・?

そう言って詰め寄りたい気持ちを、ぐっとこらえるのに必死だった。




会計を済ませ、出がけざま、彼女らしき女性にどうしても目が行ってしまった。

敦とメニューを覗き込み、何がそんなに面白いのか、敦の一言一言にコロコロ笑っている。

ふんわりと巻かれた髪、手入れの行き届いたキラキラとしたネイル、何もかもが自分と真逆だ。

やっぱり男は、「女子力」がそんなに好きなのか。

ー・・・そんなに必須の能力だっていうなら、私も女子力を発揮してあげるわよ。

思い立ったように、楓は突然心に決めた。

何かを決めたら行動の早い楓は、早速同期にLINEを送っていた。

「金曜のお食事会にメンバー足りないって言ってたよね?まだ足りてなかったら私、行くよ。」

▶NEXT:10月18日水曜更新予定
自分の「女子力」を試すべくお食事会への参戦を決めた楓。彼女の「女子力」や如何に?