共働き・単身世帯・高齢者の増加で今「食材宅配サービス」の需要が高まっています。その勢いは小売・飲食業界にとどまらず、シャープまでもが参入を発表するに至るほどです。しかしそれに反して「食事の宅配」の先駆けともいえるピザ店は持ち帰りを推奨し、宅配を抑制する流れとなっています。この現象が一体何を意味するのか、無料メルマガ『店舗経営者の繁盛店講座|小売業・飲食店・サービス業』の著者・佐藤昌司さんがプロの視線で考察しています。

シャープが宅配に参入し、ドミノ・ピザが宅配を抑制するワケ

家電メーカーのシャープが食材宅配サービスへの参入を発表しました。

宅配される食材をシャープ製の調理家電「ヘルシオ」で調理することで、プロの料理人が作る味を自宅で再現できるというものです。サービスは10月19日から開始します。

電話やネットで注文を受け付けます。注文した食材は下ごしらえ済みの状態で届きます。ウォーターオーブン「ヘルシオ」や水なし自動調理鍋「ヘルシオ ホットクック」に食材をレシピ通りに入れ、ボタンを押すだけで本格的な料理が出来上がります。

無線LAN対応のヘルシオであれば、シェフが考案したメニューの情報がヘルシオにダウンロードされるので、そのメニューを選ぶだけで簡単に調理ができるようになっています。また、注文した食材の配送状況を音声で知らせてくれます。

外部企業とも連携します。グルメ情報サイト「ぐるなび」は加盟するレストランのシェフがヘルシオ向けのレシピを開発します。食材宅配サービスのタイヘイ(千葉県匝瑳市)は食材の調達や加工などを担います。

近年、共働き世帯や単身世帯、高齢者の増加に伴い、食事を簡単に済ませたいというニーズが高まっています。そうしたなか、調理済みの弁当や惣菜といった「中食」が広がりを見せていますが、さらに買い物する手間を省きたいというニーズも高まりを見せているため、「宅配」に注目が集まっています。

ローソンはネット宅配サービス「ローソンフレッシュ」において、下ごしらえ済みの食材をパッケージにした商品を販売しています。レシピに沿って調理するだけで料理が作れるというものです。忙しい人には「時短メニュー」として、高齢者には「簡単に作れる1品」として人気を博しています。管理栄養士が監修したメニューを取り揃えるなど、高まりを見せる消費者の健康志向にも対応しています。

セブン&アイ・ホールディングスとアスクルは11月から、セブン傘下のイトーヨーカドーの食品などを宅配するサービス「IYフレッシュ」を開始します。サイト掲載のレシピで気に入ったものがあれば、食材を丸ごと注文することもできます。サイト上の動画でイメージや作り方を確認できるようにするとみられます。

食材だけの宅配サービスが広がり始めましたが、もちろん、調理済みの料理を宅配するサービスも広がりを見せています。セブン-イレブンは弁当などを届ける宅配サービス「セブンミール」を強化しています。吉野家は宅配サイト「出前館」を通して牛丼などを宅配するサービスを6月から始めています。大手の小売業や飲食店が続々と宅配サービスを強化している状況です。

ニーズの高まりを受け、宅配サービスが活況を呈していますが、一方で新たな問題も生まれてきています。流通コストの負担増と企業の人手不足による人件費などのコストの増加が、広がりを見せている宅配サービスに影を落としています。

宅配を物流会社に委託する場合は物流コストがかさみます。ヤマト運輸など運送会社が運賃の値上げに動くなどで、企業は物流コストの上昇圧力にさらされています。また、出前館などの宅配サイトを利用する場合は手数料などのコストがかかります。こういった流通コストの負担感が増してきています。

宅配を自社で行う場合は企業の人手不足が問題です。人手不足により宅配に人員を割くことが困難になってきています。宅配の人手を確保するための採用コストや追加で発生する人件費などが経営の重荷となっています。また、人手が確保できない場合は、サービス品質が落ちてしまう危険性をはらんでいます。

こういった問題もあり、逆に宅配を減らす方向に動いている企業もあります。代表的なのがピザ業界です。宅配ではなく「持ち帰り」にすると割安となるキャンペーンを行うことで、宅配にかかるコストを抑えようとしています。

ドミノ・ピザは持ち帰りの場合、1枚1,800円のピザが1,000円になるキャンペーンを行なっています。また、1枚ピザを購入するともう1枚が無料(2枚のピザのうち価格が安い方が無料)になるキャンペーンも展開しています。ピザハットやピザーラなども持ち帰りの場合に割安となるキャンペーンを行うことがあります。

このような実質的な割引となるキャンペーンを行うと利益の一部が消えてしまいます。しかし、利益の喪失よりも宅配にかかる人件費やバイクの燃料費などの削減効果の方が大きいため、ピザ業界では宅配しないで済むキャンペーンを積極的に行なっているのです。

2,000円程度のピザを無料にすると損失の方が大きいようにも思えますが、コスト構造を俯瞰してみると、一概にそうとも言いきれないことがわかります。

仮に原価率を30%とすると、追加で2,000円のピザを1枚無料にした場合、600円の原価が追加でかかることになります。ピザは複数枚を同時に仕上げることができるので、そのための作業コストの増加は限定的です。一方、宅配にかかる時間は往復で平均1時間程度と考えられますが、時給1,000円程度のアルバイトが1時間宅配するコストや燃料代を考えると、ピザ1枚を無料にするコストの方が少なくて済む可能性が高いことがわかります。

「Buy one get one free」と呼ばれる、追加で1枚を無料にするプロモーションをドミノ・ピザが行う理由はいくつかあります。お得感を演出できるので、売り上げを上げることができます。また、販売量が増加するため、仕入れコストや単位あたりの販管費(人件費など)を下げることができます。そして、先にも述べた通り、宅配コストを下げることができます。

その影響のためか、ドミノ・ピザの直近5期における売上原価率は一貫して上昇している一方、売上高販管費率は低下傾向を示しています。「Buy one get one free」を積極的に行っていった結果、原価率が上昇し、人件費削減効果などで売上高販管費率が下がっていったと考えることができます。

ただ、原材料の高騰やコスト削減努力の影響も考えられるため、一概に「Buy one get one free」の影響とは言い切れない面はあります。とはいえ、原材料の高騰だけで短期間でこれだけ売上原価率が上がることは考えづらいため、「Buy one get one free」などのキャンペーンの影響が強かったと考えられそうです。いずれにしても、宅配コストが低減することは間違いありません。

シャープのように、宅配にかかるコストがかかってでも、宅配を行うことで製品やサービスの付加価値を高めることができると考える企業がある一方、ドミノ・ピザのように、宅配にかかるコストが重荷になってきている企業もあります。時代の要請で宅配に注目が集まるなか、企業の事情で取捨選択されていくことになりそうです。

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出典元:まぐまぐニュース!