衆院総選挙の争点のひとつにもなっている「憲法9条改正問題」。今回の無料メルマガ『Japan on the Globe-国際派日本人養成講座』では著者の伊勢雅臣さんが、過去に中国が他国に対して行ってきたこと、そして今まさに進めつつあることなどを具体的に上げ、なぜ憲法を変えなければいけないのか、専門家の著書などを引きながらわかりやすく解説しています。

憲法9条が招く国難

2016年春、ワシントンの民間軍事問題研究機関「国際評価戦略センター」は、中国の東シナ海戦略についての調査報告書を公表した。そこでは中国が尖閣諸島の奪取のための軍拡を急速に進めている様子が報告されていた。

例えば、尖閣諸島から約360キロの浙江省の南ジ列島でヘリコプター発着を目的とする新軍事基地の建設を始めた。同じく約320キロの地点にある同省温州市で、日本の海上保安庁にあたる「海警」の新しい基地の建設を始める事を明らかにした。

高速大型のホバークラフトを配備し、新鋭の重量級ヘリの開発にも着手した。さらに軍用航空機と軍艦の拠点として機能する「洋上基地」の東シナ海での配備を決めた。

この報告書は、中国が尖閣だけでなく、沖縄を含む琉球諸島全体の奪取を目論んでいると結論づけている。それが成功した暁には米軍はグアム以東に駆逐され、西太平洋は「中国の海」となり、わが国はそこに浮かぶ孤島列島となってしまうだろう。

この「国際評価戦略センター」のリチャード・フィッシャー主任研究員は、中国の究極の目的を次のように説明している。

中国共産党は究極的には、日本という国をほぼ完全に屈服させることを目指しているといえます。アメリカとの同盟はなくす。自衛能力もきわめて制限される。もちろん核兵器など持たない。そして少しずつ中国の国家発展長期計画に日本という国を組みこんでいく。そんな目標です。つまりは日本を中華帝国の隷属国家にすることです。

(『戦争がイヤなら 憲法を変えなさい』 古森義久 著/飛鳥新社)

尖閣奪取は、この「中国の夢」の最初のステップに過ぎないのである。

中国の3度の南シナ海侵略

中国の侵出にどう対応すべきか。それを考えるのに南シナ海での中国の動きが参考となる。

中国は1974(昭和49)年1月、パラセル諸島(中国名、西沙諸島)の南ベトナム軍を襲って、同諸島を我がものとした。この時、アメリカ軍が南ベトナムを離れてすでに10か月近く経っていた。さらに時のニクソン政権は、ウォーターゲート事件で苦境に追い込まれており、再び南ベトナムに米軍を送ることなど、まったく望めない状況にあった。

そこを中国軍が襲いかかって、双方の軍艦と戦闘要員が2日間激闘を続けた。結果は兵力の優勢な中国側の圧勝で、ベトナム側戦死者53名、中国側18名という結果だった。南ベトナム政府は詳細を公表し、国連に提訴したが、当然のことながら、国連安保理常任理事国である中国に握りつぶされた。

その後、ベトナム共産党政権が全土を統一したが、その共産主義政権が支配するスプラトリー諸島(中国名、南沙諸島)のジョンソン南礁他に対しても、1988(昭和63)年に中国は攻撃して奪取した。ベトナム側は70人以上の戦死者と、輸送艦2隻の沈没、強襲揚陸艦1隻大破の被害を受けた。

1994(平成6)年秋には、スプラトリー諸島の要に位置するミスチーフ環礁を支配するフィリピン軍に攻撃をしかけた。当時、米軍はフィリピンから撤退しつつあり、フィリピン国内で長年使ってきたスービック海軍基地とクラーク空軍基地を1992年までに返還していた。中国軍は、その米軍の抑止力のなくなった好機を見逃さなかったのである。

この3つの事例から、中国の攻め方の特徴が明らかに見てとれる。第一に中国は米軍がいる間は手を出さない。第二に相手の戦力を見て、弱いと分かれば、ためらいなく軍事力を行使する。「軟土深掘」(柔らかい土は深く掘れ)」という諺が中国にはあるそうな。それを地で行く中国の侵略パターンである。

尖閣に関する虚々実々の駆け引き

南シナ海に関しては、この3回の軍事侵攻で制圧を完了し、現在は島の埋め立てなど軍事基地化を進めている。これに比べれば、東シナ海の尖閣侵略は、これからの段階だろう。

これまでの侵攻パターンを見れば、中国を抑止するためには、米軍の存在と、当該国自身の防衛力を充実させて、尖閣侵攻には中国にとって相当のリスクがあることを見せつけることが必要であることが見てとれる。

中国が尖閣海域では海警船は出しても、海軍の軍艦を出さないのは、海警は正規の軍隊ではないため、もし日本側と衝突があっても、米軍の出動条件にはならないからである。

また、日米安保条約が適用されるのは、「日本の施政権下にある領域」だが、中国は海警の艦船を週7日、一日24時間パトロールできるという実績を示して、「尖閣海域の施政権は中国が保有している、少なくとも日本と共有している」と宣言できる状態に近づけようとしている。

この出方は、アメリカも読んでいて、オバマ政権では「米軍が尖閣を防衛する」とは明言しなかった「曖昧さ」を変更して、トランプ大統領、ティラーソン国務長官、マティス国防長官がそれぞれ個別に「尖閣諸島は日米安保条約により共同防衛の対象になる」と明言して、中国を牽制している。尖閣に関しては、米中で虚々実々の駆け引きが続いているのである。

日米同盟を弱体化させる中国の工作

米軍が沖縄にいては尖閣侵攻もできないので、中国は日米同盟をなんとか突き崩そうとしている。アメリカ議会の政策諮問機関である「米中経済安保調査委員会」が2016(平成28)年3月に公表した報告書は、次のように指摘している。

中国の政治工作員は沖縄住民の米軍基地に対する不満や怒りを扇動することに努める。そのために中国側関係者が沖縄の米軍基地反対の集会やデモに実際に参加することもよくある。

 

その結果、沖縄住民の反米感情をあおり、日米同盟への懐疑を強め、日米間の安保協力をこじれさせることを企図している。

 

中国はまた沖縄の独立運動を、地元の親中国勢力をあおって支援するだけでなく、中国側工作員自身が運動に参加し、推進している。

(同上)

沖縄の米軍基地反対活動には本土から渡った左翼活動家が多く、かつ中国企業から資金が出ていると国内でも指摘されていたが、中国の関与が米国議会でも公言されたのである。

また、翁長沖縄県知事は、スイス・ジュネーブの国連人権理事会に出向いて「沖縄県民は日本政府及び米軍から抑圧される被差別少数民族である」という中国のプロパガンダそのままのスピーチをした。

幸い、この翌日、沖縄女性の我那覇真子さんが「我々沖縄県民は少数民族ではありません」と断言し、中国の脅威に対する米軍基地の役割を指摘した。我那覇さんの活躍で、翁長氏のスピーチは不発に終わった。

翁長氏の娘さんは北京大学に留学後、中国共産党・太子党幹部の子息と結婚したそうな。いかにも中国らしい工作だが、中国の手は国内の左翼のみならず、県知事にまで及んでいるのである。

「従軍慰安婦」問題は日米韓連携への中国のくさび

「従軍慰安婦」問題に関して、なぜ韓国があれほど執拗なのか、という疑問も、中国の日米同盟破壊工作という視点から謎が解ける。アメリカの軍事ジャーナリスト、マイケル・ヨン氏はこう指摘する。

(慰安婦像を設置した)グレンデールで起きた裁判の訴状を見ると、グローバル・アライアンス(世界抗日戦争史実維護連合会)が姿を見せています。この組織は在米中国人を中心とし、中国政府との協力も密接です。慰安婦問題ではこの中国の動きこそが核心なのです。

 

…中国がさまざまな手段を用いて日本、韓国、そしてアメリカのあいだを切り裂こうとしている、ということです。三カ国の間に亀裂が入れば、中国の南シナ海での勢力拡張や尖閣諸島の獲得が有利になるからです。慰安婦問題が拡大して最も利益を得るのが中国であることはいまや明らかです。

 

慰安婦問題を地政学的、政治的問題の道具として利用しているのは中国です。いわば韓国は中国の操り人形として利用されているだけなのです。

(呉善花「日韓慰安婦合意成立 最大の理由は米国の圧力と経済的な要因」、『NEWSポストセブン』 SAPIO H28.3)

日韓に基地を持つ米軍と、自衛隊、韓国軍が連携すれば、極東の対シナ防衛力がフルに発揮できる。「従軍慰安婦」問題は、その三国の連携にくさびを打ち込もうとする中国の工作なのである。

2015(平成27)年末の日韓慰安婦合意の陰には、アメリカから韓国への圧力があった。その2か月前のホワイトハウスでの米韓首脳会談では、オバマ大統領が日韓友好を求めて朴槿恵大統領を叱責し、会談後の会見でも「(日韓の)困難な歴史問題が解決されることを望む」と厳しい表情で語った。

韓国が中国の慰安婦工作に踊らされていることが、極東の平和にいかに障害になっているのか、防衛問題に消極的だったオバマ政権ですら、重大な懸念を抱いていた事が窺われる。

国内左翼による安全保障体制強化への反対

中国の対日工作で最大の脅威をもたらしているのは、国内左翼による安全保障体制強化への抵抗だろう。平成27(2015)年の平和安全法制、今年5月の「テロ等準備罪」をそれぞれ「戦争法」、「現代の治安維持法」などと呼んで、左翼勢力は激烈な反対運動を展開した。尖閣防衛に威力を発するオスプレイ配備にも抵抗した。

中国や北朝鮮からの危機には口を閉ざし、国内の「軍国主義化」のみをあげつらう左翼の主張は、中国の対日批判の受け売りである。国内左翼の唯一の「オリジナリティ」は、「森友・加計問題」で安倍政権の足を引っ張ろうとした点のみである。

左翼勢力の本家である日本共産党がソ連や中国の下部組織として活動してきたこと、また朝日新聞も長年、ソ連や中国の代弁者としてプロパガンダ報道を続けてきた前科から考えれば、これら左翼勢力のなかに中国の指示を受けて、その代理人となって活動している人々がいるのは間違いないだろう。

日本の安全保障体制強化の最大の山場は憲法9条の改正であるが、中国の工作を受けて、左翼勢力の反対活動はますます激烈になるだろう。

「日本国民はソニーのテレビを見ていればよいのです」

実は現在の日米同盟への非難はアメリカからも来ている。アメリカは日本の防衛に貢献するが、日本はアメリカの防衛に義務を負わないという「片務性」が、アメリカ国内で深刻な議論を呼んでいるからである。

日本は、憲法上の制約を口実に、アメリカの安全保障のためにほとんど何もしない。それなのに、アメリカが膨大な費用と人命とをかけて、日本側の無人島の防衛を引き受けるのは理屈に合いません。日本側はこの種の不均衡をいつも自国の憲法のせいにします。かといって、「では憲法を変えよう」とは誰もいわないのです。

(『戦争がイヤなら 憲法を変えなさい』 古森義久 著/飛鳥新社)

本年2月、下院外交委員会のアジア太平洋小委員会の公聴会で下院の民主党ベテランメンバー、ブラッド・シャーマン議員の発言である。これに対して、共和党古参のデーナ・ローラバッカー議員は、こう日本を弁護した。

確かに日本の憲法が日米同盟を一方的なものにし、公正に機能することを阻んではいます。しかし安倍晋三首相は憲法改正をも含めて日本の防衛を強化し、同盟をより均等にしようと努めています。それにアジアでは中国に軍事的に対抗する際に、真に頼りになるのはまず日本なのです。

(同上)

弁護しつつも「日本の憲法が日米同盟を一方的なもの」にしているという問題認識は同じである。そして、それは極めて合理的な、事実にも基づいた正確な認識であることは否めない。

トランプ大統領も選挙キャンペーン中に、「アメリカが攻撃されても、日本は何をする義務もない。日本国民は家にいて、ソニーのテレビでもみていればよいのです」と度々指摘していた。そして「こんな状態を、みなさんはよい取り決めだと思いますか」と聞くと、聴衆からは「ノー」という声がどっと湧き起こった。

アメリカの一般国民は、日本の憲法問題など関心も知識もないし、たとえ憲法上の問題があるにしても、「自国の憲法なんだから、自分たちで憲法を変えれば済む話ではないか」と思っている。これは国際常識そのものである。

この片務性の問題は、まだ議論の段階だから今の程度で済んでいるが、実際に米艦船が攻撃を受けた際に、近くにいる自衛隊の艦船が法的制約で何もできなかったというような事態が実際に起こったら、米国民は怒り狂って、日米同盟は存亡の危機に瀕するだろう。

『戦争がイヤなら 憲法を変えなさい』

尖閣諸島や沖縄をシナの侵略から守り、ひいては日本国自体が中国の隷属国家になることを防ぐには、抑止力として自衛隊と日米同盟の維持強化が不可欠である。

その最大の障害となっているのが、憲法9条なのである。『戦争がイヤなら 憲法を変えなさい』という古森義久氏の著書のタイトルはここから来ている。

我々の子孫をチベット、ウイグル、モンゴルの民のような目に遭わせたくなかったら、中国の工作に従って蠢(うごめ)いている国内左翼勢力を克服して、改憲を実現しなければならない。我々が自国の憲法を自分で変えられない、というような愚かな国民でいては先人にも子孫にも申し訳が立たない。

文責:伊勢雅臣

image by: Chris McGinley / Shutterstock.com

出典元:まぐまぐニュース!