犬の嗅覚

最近活躍する医療現場での探知犬。それはいったいどのような仕事なのでしょうか。

犬の嗅覚は犬種によって違いがありますが、おおむね人の数千〜1億倍もあるといわれています。それは、鼻腔内にある、匂いを脳へ伝える嗅細胞の数がおよそ2億個と、人の40倍以上もあるからと考えられます。もう一つ、人間にはない鼻の構造「上唇溝(じょうしんこう)」と「鼻鏡(びきょう)」があることも、犬の優れた嗅覚を支えています。上唇溝は、鼻の真ん中にある縦の溝のことで、鼻鏡とは鼻の皺のこと。上唇溝と鼻鏡には毛細血管から水分が供給され、その水分が臭いの粒子をキャッチするのに役立っているのです。

また、犬は匂いを階層化でき、たとえさまざまな種類の匂いが混ざり合っていても、個別の匂いを嗅ぎ分け、特定することができます。
さらに、有機化合物の匂いに対して特に敏感というのも犬の嗅覚の大きな特徴です。
このような特性によって、最近は医療現場でも探知犬が活用されるようになってきました。

病気にはそれぞれ特有の匂いがある

人や動物が病気になると、「病気の匂い」を発します。

例えば、にんにくをたくさん食べた翌日、口臭ケアをいくらしても体からにんにくの匂いがしませんか?これは、消化された後もにんにくの成分が血液にのって体中を巡り、汗や尿になって体臭になってしまうからです。

病気にも同じことがあてはまります。病気になると、その病気特有の化学物質が体内で合成され、血流によって全身に運ばれます。これがその病気独特の体臭となるわけです。

糖尿病探知犬

糖尿病にはケトン臭という甘酸っぱい匂いがあることはよく知られていますが、これは人にもわかる匂いなので、探知犬は必要ありません。糖尿病探知犬は、患者の低血糖を知らせてくれる犬です。

糖尿病患者は高血糖を治療するため、薬やインスリンで血糖値を下げますが、このコントロールは大変難しく、ちょっとしたことで薬が効きすぎて低血糖発作を起こしてしまいます。低血糖は重度だと意識障害を起こし、命にもかかわります。しかも、いつ、どこで起こるかわからないのだそうです。低血糖発作が起きるとイソプレンという化学物質が呼気に含まれるのですが、これを探知犬がいち早く察知して、患者や周囲の人に「低血糖になっているよ!」と教えてくれるのが、糖尿病探知犬。いずれは犬ではなくて機械で測定できるようになることを目指しているのだそうです。

癌探知犬

癌にはたくさんの種類がありますが、やはりそれぞれ特有の匂いがあるのだそうです。それらを嗅ぎ分け、さらに早期がんを発見するために訓練されているのが癌探知犬です。

日本でも研究が行われていて、山形県や千葉県の一部市町村では、すでに探知犬による癌検診が始まっています。探知犬のすごいところは、患者さんの呼気から30種類以上の癌を嗅ぎ分けることができ、さらにステージ0という極めて早期の癌でも見つけられることです。2011年に発表された論文では、ほぼ100%に近い確率で癌を検知したことが報告されています。※詳細:http://stsugar.com/publication/pdf/research_gut_20100131.pdf

癌検診は面倒でお金がかかりますし、癌の種類によってはつらい検査もあります。それが呼気だけで、たくさんの種類を検査できるなんてとてもありがたいことです。いずれは機械へと変わることを目指しているそうですが、がん検診の発展に犬が貢献しているなんてすばらしいことですよね。

マラリア探知犬

これは日本のお話ではなく、ガンビア共和国というアフリカの国で行なわているプロジェクトです。アフリカ諸国においてマラリア感染症は社会問題であり、撲滅することが国家的な課題です。マラリア患者の早期発見はそのために非常に重要なことなのです。

マラリア患者からはやはり特有の匂いがあり、それを検知できる犬の訓練が始まりました。犬の検知の素晴らしい点は、発症していなくても原虫を保持しているだけでわかるところ。つまり感染が拡大する前に、原虫の宿主を発見できるのです。マラリア探知犬が本格的に稼働すれば、撲滅達成を大幅に早めることになるでしょう。

まとめ

少し前なら、医療に探知犬が活躍するなんて考えられませんでした。しかしちゃんと科学的根拠があり、その有用性も実証されつつあります。犬の活躍の場はこれからもどんどん広がっていくことでしょう。


(博物館アドバイザー(元自然史博物館学芸員)提供:碇 京子)