どこまでも型破りな男である。ジャケット写真を見てほしい。ジャズやロック、あるいはワールドミュージックあたりの棚に並べても違和感はないだろう。艶やかなクセっ毛のロングヘア、こちらを見つめる視線には強い意志が籠もって、短めのヒゲをたくわえた口元には、うっすらと不敵な笑みが浮かんでいる。彼がクラシカルを主戦場とする演奏家であることは、胸に抱いているヴァイオリンのネックと黄色レーベル、それに演奏曲目まで確認してようやくわかるくらいだ。

 しかし国際コンクールで連戦連勝を重ねたエリートでもある彼を、ゆめ「ビジュアル系」などと侮ってはならない。レパートリーも既存のクラシック音楽の枠に収まりきらない活躍を見せてきた。しかし今回は、泣く子も黙るチャイコフスキーの名曲で固めた直球勝負である。

 演奏は、短く音を刈り込んだデタッシェによる、簡潔できびきびとした近来のスタイルとは一線を画した、実に息の長いフレージングが大きな特徴だ。ヴィブラートもたっぷりとかけたかと思えば逆に思いきり抑制し、メリハリをつけた歌い口には、大仰なポルタメントこそないものの、往年のグランドマナーなスタイルを思い出すパッセージもある。

 オケの序奏を終えたあとの短いカデンツァ、そこから入る第1主題提示部、第2主題、展開部と再現部の間に置かれたカデンツァと、これでもかというほどたっぷり歌う。音価を引き延ばして音楽の構造が静寂に溶け込むギリギリの線まで耐えるかのようだ。随所に効かせる大きなアゴーギクで音楽は伸縮し、硬直したインテンポを峻拒する。

 ヴァイオリンを鳴らし切るフォルティシモの音量より、かぼそく鳴る渺々たるピアニシモに主軸を置いているのもまた異色で、聴く者にただならぬ印象を与えて音楽はすすむ。カンツォネッタの第2楽章は更に輪をかけてぐっとテンポを落としてくる。

 最も演奏効果の高い第3楽章に大量にある技巧的パッセージでも、十分なビート感と切迫性はあるものの、驚かせるような超絶技巧のお披露目会にする気などサラサラない。さすがにコーダでは燃えさかるとはいえ、この楽章のテクニカルな側面をこれだけ抑え込んだ演奏も珍しい。

 惜しむらくはソリストの余りの個性に指揮者もオケもやや霞み気味なことだろう。ここが好悪のわかれる所ではあろうけれど、そこここにネマニャの刻印を打ちまくった超個性的な演奏の蠱惑は、他に代えがたいものがある。

 アンサンブル・ドゥーブル・サンスとピアノのフォンタナローザと組んだ『ロココ』は、親しい共演者たちとの掛け合いを繰り広げてきた、比類なき室内楽奏者としてのネマニャの姿を活き活きと捉えている。ここではほどよく肩の力が抜け、心地よい音楽の応酬を聴かせる無比の能力と魅力が直裁に花開いている。原曲はチェロとオーケストラのための作品だが、こちらではイヴァン・カッサールによる、ピアノ付きの素敵なヴィオラ版編曲が用いられている。ヴィオラに持ち替えたネマニャの、ヴィオラならではの深みある音色が楽しめるのもウリのひとつだ。

 いまノリにノっているネマニャは、「クラシックはなんだかお堅い印象だなあ」という方々にも、一度耳にしてほしいアーティストである。きっとハマりますぞ。Text:川田朔也

◎リリース情報
ネマニャ・ラドゥロヴィチ『チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 他』
2017/10/4
UCCG-1776 2,808円(tax in.)