日本出身の作家、カズオ・イシグロ氏が文学賞を受賞するなど、今年も大きな話題となったノーベル賞。まさに世界的な権威を持つこの賞ですが…、「これまでアメリカは日本人からノーベル賞を盗んできた」と主張するのは、週刊新潮で超辛口のコラムを発表している高山正之氏。なぜ氏はそう断言するのかが、無料メルマガ『クリエイターへ【日刊デジタルクリエイターズ】』の編集長・柴田忠男さんが取り上げている1冊で詳らかにされています。

残念でした、今年のノーベル賞。高山正之『サンデルよ、「正義」を教えよう』を読んだ。週刊新潮の超辛口名物コラム「変見自在」をまとめた書籍をシリーズ化したもので、文庫化が遅いのが残念。このシリーズでたびたび出てくるのが、「盗まれたノーベル賞」の話だ。

「日本人は猿真似民族」なる悪口を言い出したのは、日露戦争で日本が勝利したのを一番嫉妬したアメリカ人、とくにオランダ系ジャーナリズムだった。その時期、高峰譲吉がアドレナリンの結晶抽出に成功した。その世界的偉業にジョン・エーベルが「高峰が俺の発見を盗んだ」と言い掛かりをつけた。彼は羊の副腎から抽出したと主張したが、後に嘘とわかった。それでもノーベル賞。

米医学界はそれを知りながら、今もアドレナリンを、エーベルが名付けたエビネフリンと呼ぶ。同時期、北里柴三郎の血清療法は、部下だったエミール・ベーリングがノーベル医学賞を横取りした。他にも、高柳健次郎のテレビ受像機や、八木秀次の開発したレーダー受信システム、鈴木梅太郎の発見したオリザニン、武井武が発明したフェライト、みんな白人が盗んでノーベル賞を得た。

ディズニーの『ライオン・キング』は手塚治虫の『ジャングル大帝』の明らかなパクリ。ロスの訴訟弁護士たちは、和解で1億ドルと見立てたが、手塚プロ代表が愚かにも「ディズニーに真似てもらって光栄」と回答した。ということで、ハリウッドは訴えられる心配なく日本モノをパクリ放題。『スター・ウォーズ』は石ノ森章太郎や永井豪の作品から盗み、構成も物語も日本アニメが由来だ。

日本が降伏するとアメリカから知的財産窃盗団が押し寄せた。火傷や銃創に強い治癒効果のある「中村菌」や、帝国海軍の生み出した造波抵抗を半減するバルバスバウのノウハウを奪った。後者はいまアメリカが特許を持つという。農務省の技官は小麦「農林10号」を盗み、アメリカで画期的成果をあげ、その改良種は収穫量で「緑の革命」と呼ばれる奇跡を生み、ノーベル平和賞を得る。

先祖が奴隷商人だったルーズベルトは人種差別意識が強かった。「日本人の頭蓋骨は白人に比べ2,000年遅れている」と周囲に語るが「彼の部下の多くは、日本人の頭脳が少なくともルーズベルトよりは勝っていることを知っていた」

司馬遼太郎が口を極めて罵った「ノモンハン惨敗」は、93年にグラスノスチで史料が公開されるまで日本人は知らなかったが、日本軍は航空戦でソ連機を残らず撃墜し、地上戦でも戦車の過半数を破壊、ソ連軍の将兵の3割、2万数千人を死傷させての勝利であった。しかし、いまだに日本惨敗と言う人が多い。

わざわざ現地まで行って「ノモンハンで何一つ教訓を学ばず、南方で同じ失敗を圧倒的規模で繰り返した」と、いま思うと気の毒なくらい的外れなことを書いたあの人は、今年もノーベル文学賞を与えられなかった。だが、本当にあの人が候補だったのだろうか。カズオ・イシグロでよかった。映画『日の名残り』『わたしを離さないで』を見た。いい作品だった(文学は読んでいない)。

なぜ『サンデルよ、「正義」を教えよう』なのか。正義を売り物にするハーバード大学のサンデル教授、商売は阿漕に、金持ちは命を惜しむもの、それを正義で包むのがやり口というお方。タイトルに持って来るほどの大物ではないし、たいした話ではない。『ウソつき新聞は今日も健在』のほうがいい。

編集長 柴田忠男

image by: Ryan Rodrick Beiler / Shutterstock.com

出典元:まぐまぐニュース!