タイムアップのホイッスルが鳴った瞬間、両チームの選手たちはバタバタとピッチに倒れ込んだ。苦悶にゆがむ彼らの表情が、死力を尽くした激闘を物語っていた。


中村憲剛の活躍で川崎フロンターレがルヴァンカップ決勝に進出

 10月8日に等々力競技場で行なわれた川崎フロンターレとベガルタ仙台によるルヴァンカップ準決勝第2戦は、ホーム&アウェー形式によるトーナメントの醍醐味が凝縮されていた。

 激闘のシナリオは、4日前に仙台のホームで行なわれた第1戦がプロローグとなった。ホームの後押しを受け勢いに乗る仙台の前に、川崎Fは防戦を余儀なくされる。あっさりと最終ラインを打ち破られ、前半だけで3失点。このままでは第2戦を迎える前に敗退が決定的となるところだった。

 しかし、72分にDF奈良竜樹が1点を返すと、後半アディショナルタイムに大卒ルーキーのFW知念慶が2点目を奪取。結局、2-3と敗れたものの、ふたつのアウェーゴールを奪ったことで、大きな希望を携えて第2戦に臨むことができた。

 ホームで迎えた第2戦。川崎Fは立ち上がりから攻勢を仕掛けた。なかなかゴールを奪えなかったものの、29分にMF中村憲剛の鮮やかなヒールパスに抜け出したMF三好康児が先制点を奪取。これで2戦合計3-3ながら、アウェーゴールで上回ることに成功。さらに後半立ち上がりにもふたたび三好がゴールを奪い、川崎Fは圧倒的に優位な状況を手にした。

 ところが、ここから想定外の事態が起こる。52分、奈良が2枚目の警告を受けて退場に。数的不利となった川崎Fは、59分に自チームから期限付き移籍で仙台へレンタル中のMF中野嘉大に豪快な一撃をお見舞いされてしまう。この時点でもアウェーゴールでは上回っていたものの、もう1点奪われれば敗退に追い込まれる窮地に立たされてしまった。

「ここで引いてしまったら、あのときと同じような展開になってしまうと思った」

 そう語ったのはキャプテンのFW小林悠だ。あのときとは、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)準々決勝の浦和レッズ戦を指す。川崎Fはホームでの第1戦を3-1でモノにしながら、第2戦で退場者を出したことをきっかけに4失点。まさかの逆転負けを喫してしまったのだった。

 あのときの川崎Fは、リードを守り抜こうと守勢に回ったことが裏目に出て、浦和の攻勢をもろに浴びてしまった。しかし、この日はブロックを作りながらも、機を見てカウンターを繰り出すことで仙台を牽制し続けた。

 もうひとつ、あのときと違ったのは、中村憲剛がいたことだろう。浦和戦では退場となった左サイドバックのDF車屋紳太郎の代わりにディフェンダーを投入するために、中村が采配の犠牲となっていた。そして結果的に、中村の不在が響いて相手に脅威を与えられず、防戦一方となる一因となっていたのだ。

 しかし、この日は中村がピッチにとどまり、チームに好影響を与え続けた。その存在の大きさをMF谷口彰悟はこう振り返る。

「憲剛さんは周りが見えているし、落ち着きをもたらしてくれる。あそこでタメが作れることでまた違った展開も生み出されるし、うまくコントロールしてくれた。決定的なパスも出せるので、そうした怖さを相手に与え続けてくれていると思う」

 実際にこの百戦錬磨の司令塔は、前半からさすがというプレーを見せていた。たとえば1点を先制したのち、仙台に押し込まれる時間帯があった。そんななか、相手のセットプレーをしのいでカウンターを生み出せる機会があったが、中村はあえてペースダウンしてボールを落ち着かせた。オープンになりつつあった展開を自制するための判断だったのだろう。

 さらに1点差に追いつかれ、さらなる攻勢を浴びるなか、左サイドに流れたボールを懸命に追いかけてダッシュし、相手と激しく競り合いながらボールをキープ。結果的にサポートがなく、その後の攻撃に展開できなったが、押し込まれながらも”ここぞ”という場面で身体を張り、状況を打破しようと試みていた。

 今、何をすべきか。今は何をしてはいけないのか。中村が示したゲームコントロール術こそが、川崎Fに落ち着きと、そして勝利をもたらした最大の要因となったように思う。

 浦和戦では後手に回った鬼木達監督の采配も、この日は前向きだった。スピードに長けたMF長谷川竜也とFWハイネルを投入してカウンターの態勢を整えると、90分にその長谷川が3点目を奪取。浦和戦を教訓に、耐えしのぎ、そして攻め手も保ち続けた川崎Fが見事な逆転勝利でファイナルへと駒を進めた。

 それにしても、中村憲剛という男の存在の大きさが改めて浮かび上がった試合だった。高い技術で創造性をもたらし、優れた頭脳でチームを落ち着かせることができる。この名手の存在こそが、今でも川崎Fの何よりの強みであるはずだ。

 間もなく37歳を迎える中村は、これまでタイトルとは無縁のキャリアを送る。リーグ戦では2位が最高で、ルヴァンカップは2度(チームとしては3回)決勝に進みながら、いずれも敗戦。今年の元日の天皇杯決勝でもあと一歩に迫りながら、鹿島アントラーズに敗れている。シルバーコレクターのレッテルを張られる川崎Fのまさに象徴として、これまでに多くの涙を呑んできた。それでも、中村は前向きに話す。

「正直、今年のチームは今までとは違うなと感じている。自分たちがやるべきことをやれば、タイトルは近づいてくるという実感を、試合を重ねながら得られている。決勝(11月4日・埼玉スタジアム)は少し先だけど、いい準備をして臨めればね。隙のない渋いチームになってきていると思うので」

 無冠の男は、今度こそ栄冠を掴むことができるだろうか。

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