安室奈美恵『namie amuro LIVE STYLE 2016-2017』(Dimension Point)

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 先月20日、来年2018年9月16日をもって引退することを自身のホームページ上で発表した安室奈美恵。

 25年にわたる歌手としてのキャリアの締めくくりとして、その足跡を辿るベストアルバム『Finally』が11月8日に発売されることが決まっているのだが、先日その収録内容が発表された。

 新曲6曲に加え、SUPER MONKEY'Sとしてのデビュー曲「ミスターU.S.A.」から最新シングル「Just You and I」までのなかから年代ごとに45曲が選ばれ収録。そのうち39曲については新たにレコーディングし直したものを収録するという。

「ベスト盤なんて古い音源をちゃちゃっと収録すればいいだけなのに、手を抜かずにわざわざ歌い直すなんてさすが安室奈美恵!」と思ってしまいそうになるが、ベストアルバムとしては珍しい大量の新録曲群にはどうも裏があるようなのだ。

 今回のベストアルバムのためにレコーディングし直されるのは、「ミスターU.S.A.」から「TSUKI」までの期間の楽曲。1992年9月から2014年1月までにリリースされたものである。15年12月リリースの「Red Carpet」以降の楽曲はすでに発売されているそのままの音源が収録される。

 周知の通り安室は、契約内容や後述の脱税事件を契機に前所属事務所であるライジングプロダクションに不信感を抱き、その後は"奴隷的"とされた契約などでトラブルとなり、15年1月にライジングとの専属契約を終了。レコード契約を結んでいるエイベックス系列のDimension Pointに移籍し、同年6月には個人事務所stella88が設立されている。

そして、ベストアルバム『Finally』のために新たに収録し直される曲は、綺麗にライジング所属時代の楽曲となるのだ。

 この事実から読みとれることはひとつ。 映画・音楽ジャーナリストの宇野維正氏は、『Finally』の収録内容についてこのような文章をツイートしている。

〈なんと過去曲45曲中、39曲が新録とは...。原盤権(前事務所所有?)の闇...〉

 この新録に関して本人からのコメントなどはなく、その詳細は詳らかにはされていないものの、リリース時期を確認する限り、ライジングとの間で何らかの契約上の障壁があり、その結果としてのレコーディングのし直しであることは明白だ。

 関係者の間ですら極秘にされ、突如発表されることになった今回の安室の引退宣言だが、「なぜ歌手活動をやめるのか?」という核心については一切説明がなされておらず、メディアの間でも多数の憶測が飛び交っている。

 そのなかでも大きな問題といわれているのが、3年前に起きた独立騒動がやはり現在でも解決していないのではないか? というものだ。

●利権構造のなかで「金づる」として消費されてしまった安室奈美恵

 前述の通り、安室は15年1月にライジングとの契約を終了し、これをもってマスコミは「円満独立」と報じ、騒動は一件落着かに見えた。しかし、それは大きな間違いだ。その内実は完全独立などとは真逆の偽りのものだったからだ。

 というのも、安室はライジングからの独立の際、「芸能界のドン」ことバーニングプロダクションの周防郁雄社長に相談したと言われている。周防社長といえば、ライジングの平哲夫社長の後ろ盾であり「盟友の中の盟友」とまで言われる昵懇の仲だ。また、昨年起きた、三代目J Soul Brothersによるレコード大賞1億円買収疑惑問題でもクローズアップされたように、エイベックスもまたバーニングとは深い関係にある。

 つまり、ライジングから独立したとはいえ、結局は「同じ籠の中の鳥」だったということだ。

「そもそも、エイベックスにしてもずっと安室とレコード契約していることでもわかるように、ライジングと関係が深い。もともと安室は、ライジングからの独立騒動の際にエイベックスとの契約も解消しようと考えていたようだったのですが、エイベックスはその引き止めのためにプライベートレーベルであるDimension Pointを立ち上げたという経緯があるんです」(芸能関係者)

 ライジングからの独立後、平社長はマスコミの取材に対し、「移籍料などの条件は一切なかった」などと語っているが、こうした利権構造の中で、安室は譲渡されたに過ぎなかったのだ。

 その「金づる」の構図は、独立騒動のずっと前から続いているものである。先に触れた通り、ライジングは2001年に国税庁から年間で25億円という巨額の所得隠しを摘発され、平社長は2年あまりの実刑判決を受けている。

 自分が稼いだ金を所属事務所はまともに分配もせず、ライジングはあろうことか脱税までしていたのだ。さらに、ライジングとの"奴隷契約"や不条理な印税などの利益配分なども加わり、不満を募らせていったのも当然のことだろう。

「実際、平社長が脱税で有罪が確定した05年以降、安室はほとんどテレビに出演しなくなった。それまで信頼してきた事務所や平社長が、自分のことを理解することなく、"商品""利権"として扱っていることに気づいたんでしょう。NHK紅白歌合戦ですら03年を最後に出ていません」(芸能記者)

 現在、安室がライブでMCを一切しないことは有名だが、このMC問題をめぐってエイベックスについても不満があったという。

「安室がDimension Pointに移籍する以前からですが、エイベックスはツアーやライブの公演回数を増やすよう安室サイドに何度も要求していました。それだけでなくライブでMCをやるようにと説得までしていたようです。テレビに出ない、ライブではパフォーマンスを重視し、MCをしないというのは安室のアーティストしての美学ですからね。安室がそれを飲めるはずもないでしょう」(前出・芸能記者)

●安室奈美恵は3年前にも周囲のスタッフに対して「引退宣言」をしていた

 こうした四面楚歌の状況のなかで、「週刊文春」(文藝春秋)17年10月5日号によれば、安室が引退の意思を周囲に示したのはこれが初めてではないという。

 それは、14年10月のこと。もともと彼女はデビュー20周年のタイミングで一度活動を休み、今後も歌手活動を続けるかどうかも含め考える時間がほしいとしていたという。

 その旨は平社長にも伝えていた。しかし、平社長はライブ後の打ち上げの席でスタッフを前に「安室は二十一年目、二十二年目も活動を続けていく」と勝手に発言。彼女の意思を汲み取ろうとはしてくれなかった。

 それ以前から契約の問題で事務所とは話し合いがもたれていたが、この後、彼女は平社長に対して〈長年ライジングプロでお世話になって来ました私こと安室奈美恵は、現時点までに公表しているお仕事を最後まで精一杯責任をもってやらせていただいた上で、それ以降のアーティストとしての活動を停止し、引退させていただく意思を固めました事を、ここにご報告させていただきます〉と綴った手紙を送ったという。

 結局、この時点では引退することはなく、事務所独立ということで話はついたのだが、先に述べた通り、ライジングの直接的な管理からは逃げ出すことができたものの、結局はエイベックスに属したままであり、ライジングの裏にいるバーニングの支配構造からは脱することができなかった。そのことが今回の引退につながっていく。

 言うまでもなく、安室奈美恵はデビューから現在にいたるまで、日本のポップミュージックの流れをリードし続けた歌手であり、彼女なしでは生まれなかった後続のミュージシャンは数知れない。当然、ライジングにとってもエイベックスにとっても、企業が成長していくなかで、安室が果たした役割は多大なものがあるだろう。

 であるならば、アーティストとしての彼女の言うことに耳を傾け、双方にとって良い着地点を模索してしかるべきだったのにも関わらず、単なる「金づる」として引っ張り回したうえ、形だけの独立から数年で「引退」という結末を迎えてしまった。

 その「金づる」として扱う構図がいまでも続いていることは、引退前に発売されるメモリアルなベストアルバムなのにも関わらず当時の音源を使用することができず、ほとんどの楽曲をわざわざ歌い直しさせられるという状況になっていることからもよくわかるだろう。

 昨年はSMAPが、そして今度は安室奈美恵という偉大な才能が、芸能プロダクションによる支配的な構図でそのキャリアに大きな分断をつくることになってしまった。この状況はいつまで続くのだろうか。
(林グンマ)