ソフトバンクホークス福田秀平選手(右)と、プロスプリントコーチ・秋本真吾さんの“かけっこ対談”(撮影:田所千代美)

秋といえば、運動会のシーズンだ。徒競走で活躍するために必要なこととは何だろうか。今からできる対策はあるのだろうか。ソフトバンクホークスの外野手でプロ野球の連続盗塁成功記録保持者でもある福田秀平選手と、プロスプリントコーチ・秋本真吾さんの“かけっこ対談”後編をお届けする。(前編はこちら

ーー近年、子ども向けのかけっこ教室が全国で広く開催されるなど、一般のレベルでも「速く走ること」への意識が高まっていると思います。その理由をどう考えますか。

秋本:子どもの時に「足が速い」ことって、学校生活のヒエラルキーにかなり影響すると思うんです。特に男の子の場合は、女の子にモテるとか。

福田:そうですね(笑)。

速く走ることに対する注目度は高まっている

秋本:運動会という行事がある限り、足が速い子が注目されるという文化はなくならないと思うんです。しかも最近は、ウサイン・ボルトという世界的なスターがいたり、日本人で誰が最初に9秒台を出すのかという話題が増えて、速く走ることに対する注目度は高まっています。子どもに人気がある野球やサッカーでも、速く走ることのメリットが取り上げられるようになってきたことで、もともとあったニーズに改めて火が付いた印象ですね。最近、特に都内の学校ではリレーの選手は大きなステータスになっていて、リレーの選手になるためにどうすればいいかという感覚で、かけっこ教室に通う子もたくさんいます。

福田:僕は子どもの時、普通に走っているだけで速かったのでなんの努力もしませんでした。秋本さんはなにかしました?

秋本:はい。僕の小学校は給食の時間に運動会の映像を流していたのですが、僕が首と手をめちゃくちゃに振りながら走っているところがテレビに映って、みんなに笑われたことがあるんです。それで傷ついて、フォームを気にするようになりました。

福田:僕も自分が盗塁している時のビデオを見ますが、イメージと違うんですよね。


上体はまっすぐに伸びているほうが速く走ることができる(撮影:田所千代美)

秋本:一般にありがちな現象として、速く走ろうと気が急くと上体を前に倒そうとする、足をなるべく前に出して地面を蹴ろうとするという2点が挙げられます。そうなると姿勢が「くの字」になるんですが、これは全く足に力が入らないフォームです。ウサイン・ボルトや最近9秒台を出した桐生(祥秀)君の走りを見てもらえばわかりますが、上体はまっすぐに伸びていて、地面を蹴るのではなく、跳ねるような感じで走っていますよね。

福田:わかりやすいですね。僕も跳ねているような感覚があります。50メートル、100メートルを走るときは特にそう感じますね。

秋本:なぜ跳ねる感覚があるかというと、それは走っている時に踵が地面についていないからです。野球でもサッカーでも速く走れる選手は常に踵が浮いているんですよ。逆に、踵を地面につけて速く走ることはできません。

背筋を伸ばし、踵を浮かせて走るための練習方法

ーー背筋を伸ばし、踵を浮かせて走る、というのは、一般の子どもや大人が速く走るためにも共通していることでなんですか。


秋本 真吾(あきもと しんご)/1982年4月7日生まれ、福島県大熊町出身。2012年まで400mハードルの陸上競技選手として活躍。現在はプロスプリントコーチとしてプロサッカー選手、プロ野球選手をはじめ多くのアスリートの走り方を指導。全国で子ども向けの走り方教室も実施(撮影:田所千代美)

秋本:もちろんです。まず、常にまっすぐな姿勢で走ることを心掛ける。これから運動会シーズンですが、子どもでも、大人でも、それがすべての前提になります。

踵をつけずに走る練習としては、縄跳びを勧めています。縄跳びをいっぱいやると、つま先をついて跳ねる感覚が習慣化されて、ふくらはぎの筋肉が作られていきます。

福田:そうなんですね。僕も踵をつけずに走っていますが、よく縄跳びをしていました。

秋本:やっぱり! 僕は阪神タイガースでランニングコーチをしているんですが、足が速い前田大和選手や鳥谷(敬)選手も、「縄跳びやってたよ」と言っていました。

縄跳びは小さい子でも効果的です。大分のある幼稚園でかけっこ教室をやらせてもらったんですが、そこはスポーツに力を入れていて、毎年、年中さん、年長さんは本格的な縄跳び大会があるんです。そこの園児はみんな足が速くて、縄跳びと速く走ることの相関を実感しましたね。跳ねる感覚と同時に、地面に足が着いた時に姿勢が崩れないことも大切なので、トランポリンも有効だと思います。

福田:面白いですね。縄跳びやトランポリンが速く走るトレーニングになるとは知りませんでした。小さい時に縄跳びをしていてよかったな(笑)。

秋本:そうですよね。僕がJリーガーやプロ野球選手に対して縄跳びやトランポリンにも通じるばねや反力を鍛えるトレーニングをすると、みんな筋肉痛になるんです。普段その筋肉を走る時に上手に使えてないからなんですよね。だからこそ、野球選手、サッカー選手はまだまだ速く走ることができると思いますよ。数年前にオリックスバッファローズでスプリントを教えた時も、その日だけで何人もの選手が50メートル走で0.3、0.4秒ぐらい速くなって、衝撃的でした。なんでこんな簡単に速くなっちゃうのってポテンシャルに驚いたんです。

運動会で活躍するために何をするべきか?


福田 秀平(ふくだ しゅうへい)/1989年2月10日生まれ、神奈川県横浜市出身。多摩大学附属聖ヶ丘高等学校卒。2006年高校生ドラフト1巡目で指名され、福岡ソフトバンクホークスに入団。昨シーズンは開幕戦に1番ライトでスタメン出場し、今シーズンは1年を通して1軍で活躍中。32回連続で盗塁を成功させた、日本プロ野球の連続盗塁成功記録保持者。幼少期は野球だけに留まらず水泳やサッカー等、複数の競技に挑んだ(撮影:田所千代美)

ーーこれから運動会の季節です。かけっこでヒーローになりたい子ども、子どもにかっこいい姿を見せたいお父さんにアドバイスをお願いします。

秋本:運動会といえば、父兄が走る時、必ず転倒するお父さんがいますよね。

福田:いますね。

秋本:それは、自分の身体を支える筋力が弱っているからです。走っている時は片足立ちになるじゃないですか。その負荷に耐えきれなくて、腿が上がらなくなってくる。それでも気持ちだけは前に行こうとするので、前のめりになって転倒する。

福田:ああ、よくあるシーンですね。確かに僕らもたくさん走り込んで疲れてくると、足が上がらなくなってきます。

秋本:そうですよね。これを改善するには、ダッシュしたほうが良い。運動会に備えて30分ランニングしても、運動の強度が違うのであまり意味はありません。ダッシュをすると自然と腕も大きく振れるし、いろいろなところにぐっと力が入るので、それだけでちょっとした筋力トレーニングになるんです。

福田:筋トレにもなるんですね。どれぐらいの距離をダッシュすればいいんですか。

秋本:近所の電柱の間を1日に3本、5本ダッシュするだけで、ランニングよりも身体に強い負荷がかかります。30メートルぐらいで、緩やかな上り坂だったらなおいいですね。ダッシュをする時には、姿勢を崩さないことが重要です。

福田:やっぱり姿勢は基本なんですね。

シューズに頼るべからず

秋本:子どもに関しては、シューズに頼らないほうが良いと考えています。


秋本真吾さん(左)と福田秀平選手(撮影:田所千代美)

福田:シューズ?

秋本:はい。例えば、運動会で活躍することを目指して、コーナーリングしやすいようにデザインされた左右非対称の靴があります。その靴はあくまで本番用なのですが、普段から履いている子も多い。それでは身体のバランスが崩れてしまう恐れがあります。

福田:今は運動会本番用のシューズがあるんですか。すごいですね。でも、バランスが崩れるのはほかのスポーツをする時に気になりますね。僕らは打球を追う時に、フェンスと打球、両方を見ながら走るんですが、身体のバランスが悪いとボールが風でぶれたりした時に、姿勢が崩れてしまう。一番気を遣うのは、自分の身体をフラットに置くことです。

秋本:そうですよね。軸とか重心とかいろいろな表現がありますが、身体のバランスはどのスポーツでも根本的にとても重要なことです。速く走るための練習があるのだから、ものに頼るよりも自分の力を上げたほうが良い。それが財産になる。

福田:間違いないですね。今日、僕ももっと速く走られるようになると言われて、改めて「走ること」の奥の深さを知りました。オフになったら、ぜひ走り方を教えてください。

秋本:もちろんです!