NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」に出演する(前列左中央から)沢村一樹さん、有村架純さん、木村佳乃さん、峯田和伸さん。2016年9月に開かれた出演者発表会見で顔をそろえた(写真:共同通信社)

歌謡曲からテレビドラマ、映画さらには野球まで――。さまざまなエンタメコンテンツをまたにかけて活動する評論家・スージー鈴木。毎月、脚光を浴びた作品やコンテンツについて、客観的なマーケティング視点と主観も交えたカルチャー視点でヒットの要因を読み解いていく。

高視聴率をキープしながら、9月30日に最終回を迎えたNHK連続テレビ小説(朝ドラ)『ひよっこ』(NHK総合/月〜土、午前8時)。私が9月度の最優秀エンタメコンテンツ、いわば私なりに選ぶ「月間エンタメ大賞」としたいのは、この作品だ。

平均視聴率が20%を超えた「ひよっこ」

2017年4月3日〜9月30日に放映され、平均視聴率20.4%(関東地区、以下同)、最終回視聴率は21.4%だった。正直、「大ヒットコンテンツ」とは言えないものの、初回の平均視聴率が19.5%であり、『純と愛』(2012年)以来の20%割れスタートだったことを思い返すと、かなり健闘したと見る。


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私自身の個人的「朝ドラベスト3」は、1位『カーネーション』(2011)、2位『あまちゃん』(2013)、3位『ちりとてちん』(2007)。

『ひよっこ』は、さすがにこの盤石なベスト3に食い込むには至らなかったが、それでも、続く4位の座を、『ごちそうさん』(2013)や『てるてる家族』(2003)あたりと争いそうだ(私は大阪出身なので、NHK大阪制作作品に点が甘い)。

そんな私が見た、『ひよっこ』ヒットの要因を、3点ほど挙げてみる。


1:有村架純の演技力と「朝ドラ」ファンにおける彼女の支持層の存在

言うまでもない話だが、ベースとして有村の演技力を指摘しておきたい。

ほとんど無名の若手女優を起用して、その演技力が成長するのを、微笑ましく見守るというのは、「朝ドラ」ファンの醍醐味の1つである。『あまちゃん』の能年玲奈(現「のん」)などは、その「演技ズレ」していない、天然の運動神経で、「朝ドラ」ファンのみならず、多くの視聴者を集客した。

ただ、『カーネーション』などは、確かに当時の尾野真千子は無名であったものの、演技力は折り紙つきで、朝から、尾野の濃厚な演技力を愉しむという、能年とは違う意味での評価を得たと見る。

有村架純の「あまちゃん」は忘れられない

前作『べっぴんさん』の主演=芳根京子の演技が、やや貧弱だったのに対して、今回の有村架純は、さすがの安定感だった。個人的な印象だが、『あさが来た』(2015)の波瑠、『まれ』(2015)の土屋太鳳、『花子とアン』(2014)の吉高由里子を超えて、ここ数年の「朝ドラ」では、演技力のNo.1だったと思う(実は、地力で言えば、『とと姉ちゃん』(2016)の高畑充希がトップなのだが、あのドラマでは、高畑本来のはつらつとした魅力を抑制しすぎていて苦手だった)。

また、今や記憶の彼方に置かれている人も多いかもしれないが、有村架純は、『あまちゃん』に出演し、天野春子(小泉今日子)の若い頃を演じていたのである。再建された「海女カフェ」で、鈴鹿ひろ美(薬師丸ひろ子)が『潮騒のメモリー』を流麗に歌うクライマックスシーンで、有村版の天野春子が鈴鹿を見つめるシーンを忘れることができない。

『あまちゃん』で培われた「朝ドラ」ファン内の有村架純支持層に加え、彼女の演技力も影響し、まずは基礎票を固めたと言えるのではないか。


2:番組自身による自分ツッコミ=「セルフ・パロディ性」の強さ

『ひよっこ』が秘めていた、ある方向性を具体的に示したのは、第2回、主人公・谷田部みね子(有村架純)の叔父=小祝宗男(峯田和伸)がバイクに乗っているシーンに重ねられた増田明美のこのナレーションである。

「朝ドラには変なおじさんがよく出てきますよね。何ででしょうね?」

これは、朝ドラのナレーションとして、かなり画期的である。「この朝ドラは、普通の朝ドラではなく『セルフ・パロディ=自分ツッコミ』する朝ドラだぞ」という宣言なのだから。

それ以外にも、増田明美のナレーションは、最終回に至るまで、第三者視点からのツッコミで、番組自体をパロディ化していた。また、谷田部みね子と見習いコック・前田秀俊(磯村勇斗)のデートシーンなどは、まるで「昔のドラマのパロディ」のように、意識的に軽薄に描かれていた。

指南役著『「朝ドラ」一人勝ちの法則』(光文社新書、2017)の言葉を借りれば、視聴率的に、「暗黒の中世」(低迷期)を超えて「V字回復」するのは、『ゲゲゲの女房』(2010)だったという。

そこから視聴率がぐっと上がった要因として考えられるのは、まず放送時間を15分繰り上げ、8時開始としたことだ。都市圏における朝型生活へのシフト(記事などで語られる番組視聴率は基本、関東地区のものである)や、他局のワイドショーが8時開始なので、そこに視聴者を取られないようにするという目論見もあったといわれる。

SNSが視聴率アップの鍵になった

加えて、この頃から流行り始めた、ツイッターなどのSNSとの親和性も、「朝ドラ」の視聴率に貢献していそうだ。

普通のドラマ(連ドラ)の視聴率が低迷を続ける中、「週に1度の1時間」ではなく、「毎日の15分」のほうが「オンエア→SNSでの感想共有→オンエア→……」という番組と視聴者を結びつける『絆強化サイクル』がより激しく回転する。その結果、視聴率の確保・獲得に機能すると考えられるのである。

『ひよっこ』の場合、「SNSでここをツッコんでください」と指し示すような、番組自身による「セルフ・パロディ性」が、SNSとの親和性をさらに生かし、その回転に、さらに強く拍車をかけたのではないか。

もっとも、「セルフ・パロディ性」が話題を増幅するというやり方自体は、『あまちゃん』で確立されたものだったが、ただ、その方法論を、臆せず大胆に再活用したところに、ヒットの要因があったと見るのだ。


3:そして、「昭和ニッポンの闇」から逃げなかった脚本

最後に、1人の文化系「朝ドラ」ファンとして指摘しておきたいのは、「昭和ニッポンの闇」を描ききったこと、つまり、最近よく見かける「高度成長期の昭和は良かった」論に、脚本が陥らなかったことのすばらしさである。

私は当初、『ひよっこ』が、かなりの高い確率で「昭和は良かった」論に陥ると見ていた。しかし、それを裏切ったのは第11話だ。谷田部美代子(木村佳乃)が、失踪した夫=谷田部実(沢村一樹)に捜索願を出すシーン。「茨城」を「いばらぎ」と発音し、ぞんざいに取り扱おうとする警察官に対して、美代子が言う台詞だ。

「『いばらき』です。『いばらぎ』じゃなくて、『いばらき』です。谷田部実といいます。私は、私は出稼ぎ労働者を1人探してくれと頼んでいるんではありません。ちゃんと名前があります。茨城の奥茨城村で生まれて育った谷田部実という人間を探してくださいとお願いしてます。ちゃんと、ちゃんと名前があります。お願いします。あの人は絶対に自分でいなくなったりするような人ではありません。お願いします。お願いします。探してください。お願いします」(第2週「泣くのはいやだ、笑っちゃおう」11話)

これが良かった。「花の高度成長期」の裏で、出稼ぎ労働者の「蒸発」が相次いでいたという事実、それに対する社会の冷淡さ=「昭和ニッポンの闇」を、逃げずにしっかりと表現していた見事な脚本である。

そして極めつけは、峯田和伸が主役級の働きをした、ビートルズ来日に絡めた回である(第13週「ビートルズがやって来る」、14週「俺は笑って生きてっとう!」)。

戦時中「インパール作戦」に参加し、生死の境をさまようという、象徴的な「昭和ニッポンの闇」を経験し、そこで敵であるイギリス軍の兵士に救われた格好となり、その関係でビートルズ・ファンになった宗男が語る、ビートルズの魅力もいい。

「思ってたことをよ、かっこつけずに思い切り叫ぶと、なんだか疲れがとれるっぺ、それに笑えるっぺ。それがビートルズだ。だから好きなんだ俺は。なんでもいいんだ、難しいことじゃなくていいの。腹立つことでも仕事休みたいでも、あの子が好きだでも今、思っていることを叫ぶんだ」(第13週の78話)

これは個人的には『ひよっこ』台詞大賞。おびただしい数が垂れ流されてきた、日本人による「ビートルズ論」の中でも、もっとも秀逸で本質的なものの1つだと言える。そしてこの台詞が、その後「日本のビートルズ」となった、サザンオールスターズ・桑田佳祐の主題歌と重なっていく。

先に触れたように、有村架純の演技力が『ひよっこ』を支えたのは言うまでもない事実だが、もしこのドラマの俳優に賞を与えるなら、私なら峯田和伸である。それも、第13〜14週における爆発的な演技に対しては、「助演賞」ではなく「主演賞」がふさわしいと思う。

これからの朝ドラでどうしても描いてほしいこと

以上、私が思う『ひよっこ』のヒット要因をまとめてみた。これからの「朝ドラ」はどうなるのか。

『わろてんか』『半分、青い』と、近現代史物が続きそうだが、谷田部美代子や小祝宗男のことを思いながら、美代子の台詞に絡めて伝えると、私の「朝ドラ」への思いは、こういうことである――。

「私は、『夢と希望に満ちあふれた、すばらしい時代』を描いてくれと頼んでいるんではありません。そんな表面的な時代論ではなく、ちゃんと実在したであろう、1人ひとりの人間が生き抜いている、具体的な人間論を描いてほしいとお願いしています。1人ひとりの人間には、ちゃんと名前があります。その人は、夢や希望だけではない、歴史の闇の部分ものみ込んで生き抜いたはずです。お願いします。描いてください。お願いします」。