「勤続10年」、今のご時世で10年も同じ会社で働いているのは幸せなことである。が、しかし、同時に新しい挑戦や可能性に踏み出せていないケースもある。

就職氷河期と言われ続けている中、今年の春に大学を卒業した女性の就職率は98.4%を記録した。しかし、新卒で就職したものの、3年以内の離職率は30%近いという調査結果もある。

今、アラサーと呼ばれる世代は、大卒で入社した場合、職場ではちょうど10年選手。正規雇用にこだわらず、派遣やパートを選んで働く女性も増えてきた中、同じ職場で10年間働き続けてきた「10年女子」の彼女たちは、いったい何を考えているのだろうか?

「キャリアアップは?」「結婚は?」「貯金は?」そんな「勤続10年女子」たちの本音に迫ってみた。

今回登場するのは、都内で書籍やウェブサイト、文化事業などを手掛ける大手メディアの社員として働いている大石彩実さん(仮名・36歳)。

彩実さんは、長めの前髪を斜めに流した品の良い黒髪ボブスタイル。普段は、社員証を首から提げた状態で勤務するので、タートルネックや襟がある服よりも首回りがスッキリ見えるラウンドネックやVネックのカットソーからジャケットを合わせるのが定番スタイル。家には、4歳になる男の子ともうすぐ2歳になる女の子がいる。メイクの時間を短縮するために、出産後はまつエクをするようになった。本来なら専業主婦になって、やりたいことだけやるような人生もあった。でも、働いている方が育児よりも評価が貰えるし、やりがいも感じる。なにより、今の時代、いくら収入があっても、子供の教育費など出ていく予定ばかりで足りない。

「10年女子」は、将来設計を見据えた就活をしているタイプも多い。最近の就活女子は、結婚・出産で仕事をリタイアすることなく、育休などの制度を利用して復職して働いている女性社員がいるかをOG訪問などでリサーチするという。一時的な給与の良さよりも、そういった福利厚生に力を入れている企業の方が、長く勤めやすいと判断するところが堅実的と言える。

彩実さんは埼玉県浦和市で生まれ育った。研究職の公務員だった父と、専業主婦の母の間に生まれた。高齢出産のひとりっ子だったので、大事に育てられた。母は子供の頃から教育熱心な方で、3歳になると世界中の国旗の暗記カードや、動物や植物の図鑑を彼女に買い与えた。ジュースや甘いお菓子は、クリスマスや誕生日と言うような特別な時しか食べることができなかった。意識の高い両親のもと、歯磨きの後は必ずデンタルフロスで仕上げをするように幼いころからしつけられていた。

中学に入学し、周りがテレビゲームやバラエティー番組に熱中し始めたころ、彩実さんの母は当然のようにゲームを禁止し、漫画も学校の成績が〇位以内なら読んでもよいというルールをつくってきた。普通なら息苦しく感じるはずだが、彼女は母に褒められるのが嬉しくて勉強に励んだという。その成果が実って、県内で一番偏差値の高い県立高校に受かることができた。母の口癖の「なにごとも、努力をした人は報われる」という言葉が、いつも頭の片隅に浮かんでいた。

高校在学中に、好きな男の子はいたが恋愛関係には発展しなかった。いつかは普通の恋愛をして、結婚をして子供を産むとぼんやりと考えていた。

将来性のない彼氏に別れを告げた……

大学受験は、受験校すべてに合格をした。現役で受からなければ意味がないと思っていたので、達成できて胸をなでおろした。合格した大学の就職率などを調べたとき、やりたい仕事に就くために最適な方の大学を選んだ。大学では、法学部に進学した。司法試験を受験したいとは一度も考えたことはなかったが、文学部より就職活動で有利であると考えたのだ。またいくつか法律を知っておけば、何かあったときに困らないくらいには思っていた。

大学時代に付き合っていた彼氏は、同じ学部の同級生だった。彼は一浪をしており、北海道から上京していた。将来的には弁護士か公務員になる夢を持っていたが、達成できるまでの期間があいまいだったため、卒業の少し前に自分から別れを告げた。彩実さんはある意味とても合理的な考え方ができる女性である。

その後、就職浪人などすることもなく希望していた大手メディアへ入社が決まった。難関と言われる会社だったが、ストレートで入社できたことを両親はとても喜んでいた。彩実さんは、やっと一人前になれたようで、新生活が楽しみだった。

就職先には、彼女と同レベルの大学や、もっと優秀な大学や留学経験のある社員で溢れていた。何事にも今まで負けることなく、受験でも勝ち進んできた彩実さんにとって、社内で評価されることが最重要と考えるようになっていた。

彩実さんが勤務している企業では、「サバティカル休暇」と呼ばれる無給の長期休暇を取ることができる。彼女は28歳の時に、ここぞとばかりにこの「サバティカル休暇」を利用し、一度やってみたかった留学をすべく、ヨーロッパに1年ほど語学留学をした。そこで、あくせく働く日本人の働き方に疑問を持ったと言う。留学を決めた時に一番揉めたのは、彼女の母親だった。母親世代にとっては、仕事を理由なく休むということは許しがたかったのだ。彼女は、専業主婦である母の価値観に疑問を持ち始めます。きちんとした企業勤めの経験がなかった母を見ていると、ああいう風にはなりたくないと感じるようになったそうだ。この留学は出世には全く絡まないが、自分のための投資という意味では体験してよかったと感じている。「あの時〇〇しておけば……」という後悔よりは、行動した方が性に合っている。

専業主婦だった母とは違い、仕事でのキャリアも、結婚も、出産もすべて手に入れたい。やりたいことは全部やりたい、彩実さんはそう考えるようになった。しかし、成長を遂げていたウェブメディアの編集を任され、家に帰って寝るだけの生活。このままでは、出会いがないまま30代も終わってしまう。自分はどうしても子供が、家庭がほしい……このままではまずい、その危機感から30歳になって婚活を始めた。

ゲームは頭が悪くなると言って、買ってもらえなかったので、友達の家で遊ぶのが楽しみだった。

せっかく入った良い会社なんだから使える制度は全部使う、仕事だけに身を捧げたくない……効率重視の彩実さんの婚活、妊活は?〜その2〜に続きます。