値下がりを恐れずに毎月一定金額で積み立てていくと…(写真:xiangtao / PIXTA)

毎月あらかじめ決めた金額で、金融商品を購入する。そんな積み立て投資への注目が集まっています。

個人型確定拠出年金「iDeCo(イデコ)」。2001年に施行された確定拠出年金法に基づいて実施される私的年金で、自分で任意に申し込み、自ら運用方法を選んで、掛け金を拠出し、掛け金とその運用益の合計額を基に給付を受けられます。今年から基本的に今年から20歳以上60歳未満であれば、公務員も専業主婦も加入できるようになったことで、女性誌などでも特集が組まれました。

来年から始まる「つみたてNISA(積立NISA)」。最長20年の非課税期間が設けられた、新たな少額投資非課税制度です。すでにこの9月から早々と募集を始めた証券会社もあり、今まで投資をしたことがなかった初心者にアピールしようとする金融機関の意気込みが感じられます。

iDeCoとつみたてNISA。この2つの大きな特徴は節税ですが、初心者には、それだけではないメリットがあります。投資の常識ながらも、金融機関の職員でさえあまりよく理解されていない、積み立て投資そのもののメリットです。

これ、買いたいですか?

ここで、ある投資商品の値動きを紹介しましょう。2000年に1万9000円台で買ったものの、その後は2003年に8000円を割るところまで下落。2007年には1万8000円台まで戻りますが、2009年には再び8000円割れ。何とか回復基調に乗って、直近の2017年は2万円台へ。購入当初からやっと5%ほどプラスになりました。


私が全国で開いているセミナーで受講生にこの値動きをチャートで見せて

「この商品に投資したいですか?」

と聞いてみると、だいたいこんな答えが返ってきます。

「いやですね」

「こんなに下がって怖いです」

「17年間で5%プラスって、1年で0.3%しか増えてない! それに途中で、こんなに下がって。だから投資なんか怖いからしたくないのよ〜」

金融機関の職員向けのセミナーでも、同じような答えが返ってくることがあります。苦笑いして、「こんな商品はお客様に勧められない」と漏らした職員もいました。

この商品の正体は、日経平均株価です。日経平均株価に連動する投資信託はいろいろな運用会社が出していて、銀行、証券会社、労働金庫、信用金庫など日本中どこでも買えます。

「日経平均」と聞くと、「バブル崩壊後やっと半分の水準に回復したばかり、親が株で大損したので、絶対に買いたくない!」と言う人もいて、会場はますますどんより重いムードに包まれます。

コツコツ積み立ててみると?

しかし、私はこういった値動きをするものに投資するのは、ある意味、理想的と考えています。確かに、下がってばかりで、初心者にとっては怖くて買いたくない日経平均ではありますが、もし2000年から毎月1万円ずつ、この投資信託を買っていたら、いくらになったでしょう?

投資元本は、1万円×213カ月=213万円です。

1、 途中で2回大きく下がっているので、約150万円
2、 やっと少し上がったので、約250万円
3、 大きく増えて、約350万円

3択で聞いてみると、1番がわずか、2番と答える方が圧倒的に多く、3番と答える人もいます。3番と答えた人に、なぜそう思うのか聞いてみると

「妄想で( *´艸`)ふふふ」

数字的な根拠はなく、希望的な妄想だとおっしゃるのですが、現実は……。

妄想どおりの結果になります。約357万円。ご丁寧にも、購入時の手数料1.08%を引いた金額ですので、手数料のかからない、同様のファンドなら約360万円になります。

なぜ、213万円は、妄想どおりに357万円に増えたのでしょうか?

これを説明するのに、簡単なシミュレーションをします。

毎月、1万円のお小遣いがあると思ってください。そんなにももらってないよ!という人も、シミュレーションですからお付き合いください。

1万円のお小遣いで、毎月、好きなものを買います。ワインでも、焼酎でも、おまんじゅうでも、リンゴでもなんでも結構です。

今回は絵的にきれいなので、ワインにしてみます。毎月同じワインを3カ月買い続けます。



1万円のお小遣いで、毎月同じワイン買う

1カ月目:1万円のお小遣いで、1万円の値段がついたワイン(Aワインとしましょう)は何本買えますか?

答えは「1本」です。

2カ月目、Aワインの価格が1000円になりました。1万円で、Aワインは何本買えますか? 

「10本」です。

3カ月目、Aワインの価格が再び1万円になりました。1万円でAワインは何本買えますか? 

「1本」ですね。

3カ月で、ワインセラーには、何本のAワインがありますか?

「12本」となりました。

それを、「Aワインを飲まないなら、1本1万円で買います」と買う人が出たとします。12本のAワインが1万円で売れたら、いくらもらえますか?

答えは言うまでもなく「12万円」です。

3カ月でワインを買ったときに使ったおカネは3万円でした。3万円が12万円になるのを、悲しいと答えた人は、いません。むしろ「うれしい」「超うれしい!」と答える人が多いです。「特に2カ月目がうれしい」と。

じゃあ、半分に値切った5000円でワインを買う人がいればいくらもらえますか?

簡単な計算ですが、「12本×5000円=6万円」。買った値段の倍です。

では、ある金融商品の値動きを示すチャートを見て、買いたいと思うでしょうか? 最初についた価格が10分の1まで下がりつつも、元の値段に回復。ただ、その後、半額まで下がったという金融商品です。


なぜだか、「これは買いたくない」という人が少なくないのですが、さっきのAワインをチャートにしただけです。

Aワインを買って「儲かった」という2カ月目は、チャートで見るとこんな怖いことになっているのです。

ここに、日本では知られていない、投資の常識があります。多くの人が、投資をするときに、値動きしか見ていません。ワインについている値札だけをじっと見ているようなものです。でも、積み立て投資でいちばん大事なのはワインの本数です。

なぜなら、一括投資の結果が、ワインの値段で決まるのに対し、積立投資の結果は、ワインの本数「×(かける)」ワインの値段だからです。

一括投資の結果=ワインの値段

積み立て投資の結果=ワインの本数×値段


一括買いと積立投資

投資といえば、「安いところで買って高いところで売る、その差が儲け」、と考える人が日本ではほとんどです。買った値段より、下がっていたらどうしようもない。私もお恥ずかしながら、そう思っておりました。ところが、証券外務員の資格を取ったのが、たまたま日本では珍しい「積み立て投資」を積極的に進める会社で、お客様におすすめするのも、「積み立て投資」ばかりでした。

リーマンショックがあって日経平均が半分になっても、東日本大震災で2000円下がっても、コツコツ積み立て投資を続けます。すると、一時的には値下がりしても、どのお客様もプラスに戻ってくるのです。

毎月コツコツ積立投資をする方法を、投資用語で「ドルコスト平均法」といいます。ドルコスト平均法という名前を知っている人は多いのですが、その威力を知る人は、残念ながら日本では、まだ多くはないといえます。

だいたいドルコスト平均法なんて、名前がよくありません。ドルだけに投資するわけではないし、コストというと何か余分におカネを取られるようなイメージですし、平均法と聞くだけで、何の平均だ?何のために平均を出すのだ?と悩んでしまいます。所得税の計算では、平均買い付け単価を出すことが重要かもしれませんが、いっそのこと、日本中で愛される、かわいい名前を付けたらいいと思います。「パンダ」とか「バナナ」とか。

バナナは出口が大事

ドルコスト平均法よりは簡単な投資用語に、「分散投資」というのがあります。この分散には、「銘柄の分散」と「時間の分散」があります。

ドルコスト平均法、もとい「バナナ」は、時間の分散です。同じ銘柄のワインを……、もうややこしいので、バナナにしておきましょう。同じ銘柄のバナナを、毎月コツコツ買っていきます。同じ銘柄のバナナばかり買っていると、長雨やバナナの病気で、バナナが取れなくなり、バナナが急騰することもありますし、逆に豊作でバナナが大バーゲンになることもあります。1つのバナナばかり買うのは、リスクが偏りすぎるので、別のバナナも買っておきます。これが、銘柄分散です。

組み合わせたものを、毎月コツコツと「バナナ」投資法で買っていく、こんなイメージです。銘柄分散と、「バナナ」で、最強!と言いたいところですが、右肩上がりの相場では、この「バナナ」は、残念ながら一括投資に勝てません。毎月買うバナナが、2分の1本、3分の1本と減っていくからです。しかし、価格は上がっていますから、かけ算をするときの価格が高くなり、損をすることはありません。



値下がりしたときにたくさんの量が買える



元本割れをしてもドキドキしない

iDeCoも、つみたてNISAも、この「バナナ」の仕組みが利用できるので、下落時も「ああ、バナナをいっぱい買えているのね」と、恐れることなく枕を高くして、いい夢を見られます。

この「バナナ」の仕組みがわかっていれば、下落時に仕事が手につかなくなり、大底で投げ売って大損ではなく、ふふふと笑って、回復を待つだけです。ワインの例で勘のいい方ならおわかりかと思いますが、投資を始めたときの値段に戻らなくてもいいところが、この「バナナ」の面白いところです。

投資を怖いと思っている人はいても、価格が上がって怖いと思う人はいないので、下がったときに怖くない「バナナ」で投資デビューをするのは、一括投資よりも心理的なハードルがぐっと低くなります。

最初の日経平均の例も、投資元本を割る日々がずっと続いています。ここで「バナナ」を知っている人は、黙々と買い続けます。そして、数年後、たくさんのバナナが貯まったときがいちばん大事なときです。

少し値動きがあっただけでも、投資の結果に大きく影響するからです。仮に1000円の値動きがあったとしましょう。

バナナ5本×1000円=5000円

バナナ5000本×1000円=500万円


バナナが増えると、同じ値動きでもインパクトが強くなるのです。つまり、少しの下落でも、大きな下落になります。iDeCoやつみたてNISAを20年続けたとき、途中の値動きで一喜一憂する必要はありませんが、出口だけはとても大事です。人によって、ドキドキするリスク許容度も違いますし、投資を始める前と、投資を経験した20年後もまた違うと思いますが、ドキドキするなら、貯まったバナナを少しだけ、値動きの少ないものに移しておく、そんなことを頭の片隅に置いておくといいでしょう。

人生のゴールは100年、今日明日の、元本割れでドキドキせずに、成長する経済におカネを投資し、世の中が安心、安全、便利になるのを楽しみながら、「バナナ」を楽しみたいものです。