朝鮮労働党中央委員会政治局委員候補に選出された金与正氏(2017年10月8日付労働新聞より)

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北朝鮮の金正恩党委員長が目指すのは、やはり血を分けた兄妹を頂点とする「金王朝体制」のようだ。

北朝鮮で10月7日に開かれた朝鮮労働党中央委員会第7期第2回総会で、金正恩氏の実妹である金与正(キム・ヨジョン)氏が朝鮮労働党中央委員会政治局委員候補に選出されたのだ。

金正恩のルーツは大阪

朝鮮労働党の機関紙・労働新聞は8日、金与正氏が中央委員会に選出されたことを写真入りで報じた。金与正氏は、これまでも北朝鮮のプロパガンダを担当する労働党宣伝扇動部副部長の要職にあるとされていたが、労働党の中でも最上位機関である政治局の委員候補に選出された。これによって、金与正氏は今まで以上に党事業、すなわち国家運営に深く携わることになる。

なぜ、この時期に金与正氏が公式に要職に就いたのだろうか。

金正恩氏は、朝鮮労働党のメンバーを若返りさせようとしている言われている。それでも序列の上位に並ぶ60代から80代ぐらいと見られる重鎮たちが、まだまだ健在である。諸説あって金与正氏の正確な年齢は不明だが、20代後半から30代初めと見られる彼女が党政治局の一員となるのは、これまでの北朝鮮の人事では考えられなかったことだ。もっとも金正恩氏は27才で北朝鮮の最高指導者になったわけだが…。

金与正氏は実兄である金正恩氏の公開活動に同行することも多く、精力的に兄をサポートしてきた。金正恩氏、与正氏二人の実兄である正哲氏も含めて、この3兄妹は、日本の大阪にルーツを持つ北朝鮮では異色の存在だ。それだけに、3兄妹は深い信頼関係で結ばれていると見られる。

(参考記事:金正恩と大阪を結ぶ奇しき血脈

なによりも、金正恩氏は支配層に対しては極端な恐怖政治で統制を強めている。当然のごとく、側近たちは腫れ物に触るように接しており、金正恩氏が孤独な独裁者であることは間違いない。孤独感に悩み、夜中に1人寂しく鬱憤を晴らしているという説もあるが、ホンネを打ち明けられるのは、李雪主(リ・ソルチュ)夫人や金与正氏ぐらいなのだろう。

金与正氏は、金正恩氏の動線を点検する任務を与えられているという話もある。米韓が計画する「斬首作戦」や暗殺を恐れる金正恩氏は、一般人と同じトイレを使うこともできず、地方出張の際にも自分用の特別なトイレを持ち歩いているといわれている。こうした裏事情を知った上で、金正恩氏の動きを取り仕切る事ができるのは、金与正氏のように信頼できる身内しかいないだろう。

しかし、いくら金正恩氏が妹を信頼しているとはいえ、さすがに中央委員会政治局の一員とするのは、いささか性急な感を拭えない。この人事は金正恩氏のなんらかの不安を反映しているのだろうか。

金正恩体制は、今のところ盤石と見られる。しかし、北朝鮮に対する国際的な圧力が強まるなか、いずれ体制内に動揺が生じる可能性がないとはいえない。そのため、金正恩氏は決して動揺することなく信頼できる身内の金与正氏を公式に指導部メンバーとし、単なる体制固めだけではなく、金正恩式「王朝体制」の確立に向けて早めに手を打ったのかもしれない。

いずれにせよ、金与正氏の政治局入りは、金正恩氏が目指すのが「民主主義国家」でも「社会主義国家」でもなく、金王朝、いわば「金氏朝鮮」であることを改めて物語っている。

金正恩氏を取り巻く超エリート集団についてはまだまだ謎が多い。金与正氏以外にも表に出ずに、血縁者として金正恩氏の意志決定に決定的な影響を与える人物が隠れている可能性もある。