日々、騙し騙されかけひきをくり返す、東京の男と女。

彼らの恋愛ゲームには、終わりなど見えない。

これまで、職業を盛って騙し合う港区男女、浮気をする彼氏に罠を仕掛ける女、独身を貫く経営者を追いかける女、男を巡って争う2人の女たちを紹介した。

第10回は、弁護士に一目惚れした女と、その後輩の攻防。

彼らのかけひきは、どちらに軍配が上がるのだろうか…?




久しぶりに訪れた、出会いの機会


こんにちは。亜紀(28)です。

虎ノ門にある広告代理店で、クリエイティブを担当しています。

目まぐるしくも充実した日々を謳歌しながら、気づけばもう5年半。

仕事の世界にどっぷりと浸りゆく一方で、頭の片隅に「結婚」という文字がちらつく年齢になりました。

「俺の大学の友達が女の子を紹介して欲しいって言ってるんだけど、会う?」

“彼氏”という存在からすっかり縁遠い生活を送っていた私は、同期の営業マン・淳の誘いに「会う!」とすぐに食いつきました。

お食事会は、2on2で行うことになりました。

誰を誘うか悩んだ末、淳の部署の後輩で私も仕事でよくタッグを組む営業女子、遥(26)を連れていくことに。

遥は、“ちょうどいい”のです。

飲みの席で「私に注目して」とでしゃばるタイプでもなく、いつのまにか男にしなだれかかっているようなタイプでもない。人懐っこい笑顔で人の話に耳を傾けあいづちを挟める、聞き上手な子です。

それに彼女には、2年つき合っている彼氏がいる。

久しぶりの恋の機会を別の女に横取りされるリスクなんて、背負いたくないですから。

「彼氏がいることは黙っておくから。私を助けると思って、お願い!」と懇願し、私は遥をお食事会に引っ張っていきました。


万全の状態で食事会に臨んだ亜紀。しかし、事態は思わぬ方向へ…!


一目ぼれした男の視線の先には・・・?


「初めまして、孝太郎です」

柔らかくはにかむようなその笑顔に、私は一目で心を奪われました。

彼は丸の内にある大手法律事務所に勤務する、弁護士でした。

―この人を、絶対に逃したくない。

はやる気持ちを抑えながら、彼の隣でサラダを取り分けたりお酒を注いだりと、私はきめ細やかなもてなしで彼に尽くしました。

でも…彼の視線は、初めから遥に向けられていました。

―少しはこっちを見てよ。

苛立ちを感じながら彼に話を振ると、答えてはくれるのです。遥のことを、見つめたまま。

片手を口に当てながら含んだように笑う可愛らしい遥を見ながら、私は自分の選択ミスを痛感しました。

この場では埒が明かないと思った私は、お食事会の後に孝太郎君へお礼メッセージを送り、来週に改めてご飯に行こうと誘いました。


孝太郎の心の隙間に、少しでも入りたい


「遥ちゃん、職場でも可愛がられていそうだね」

2人でご飯に来ているのに、孝太郎君が口にするのは遥のことばかり。

「残念だけど…遥には、彼氏がいるよ」

彼氏のことは言わないという約束を、保身のために破った自分に微かな嫌悪感を覚える一方で、私を平気で傷つける孝太郎君に少し意地悪な気持ちが芽生えたのも、正直なところです。

彼は、明らかに落胆した表情を見せました。

私はそんな彼を励ますように、1つの提案をしました。

「4人で遊びながら、徐々に距離を詰める作戦なんて、どう?」

もちろん、孝太郎君を思ってのことではありません。私と彼の距離を縮めるためです。

遥には「協力して」と言っておけば、2人が結ばれることはないでしょう?



そうして度々4人で遊びに行くようになって、2か月ほど経った頃。

いつも孝太郎君の隣に陣取る私に、遥と同じくらい視線を向けるようになってきてくれたと、内心顔をほころばせていました。

その日は、孝太郎君の車で日光へ紅葉狩りに行きました。

街道一面に積もる紅葉の絨毯をさくさくと踏みながら、私が淳に話しかけた時。

そこで私は、見てしまったのです。

少し後ろを歩く孝太郎君と遥が、ほんの一瞬、手をつないだのを。




ちらりと目の端に映ったその光景は見間違いだと信じたかったのですが、2人の照れ合うような表情を見た時、胸の中にざらりとした確信が広がりました。

ああ…もう望みはないのだろうと。

あの瞬間、踏みちぎられた落ち葉のようにずたずたに擦り切れた心を思い出すと、今でも少し、胸が痛みます。

でも1か月経った今、実は私、淳とつきあい始めたんです。

失恋した私のヤケ酒にとことんつきあってくれて、2人の時間を過ごすうちに、いつのまにか…。よくある話で、恥ずかしいのですが。

今は結構、幸せに過ごしています。元々同期で気の置けない関係でしたし、一緒にいるととても楽なことに気づけたから。

今週末も、4人で遊びに行く予定です。こんな形のWデートになるなんて、想像もしていなかったですけどね。

でもね・・・。

実はまだ時々、孝太郎君のことを目で追っちゃうんです。そのたびに私はこう言い聞かせています。

「女は、愛される方が幸せになれる」って。

私の選択は、間違ってませんよね?


孝太郎の思惑と、遥から明かされた事実とは…?




僕が一目惚れしたのは、春のように柔らかな女性


孝太郎(28)です。

晴れて遥とつきあうことになり、今は幸せいっぱいの日々を過ごしています。

僕の心は、一目見た時から決まっていました。

あのお食事会の日、亜紀ちゃんのようにがつがつと話すでもなく、遥は控えめで、しかし確かな存在感を放っていた。春のように柔らかく人を包みこむような物腰に、僕は一目惚れしたのです。

4人でのお食事会の後、僕はすぐに遥をデートに誘いました。

そのデートは、彼女も楽しんでくれていたと思います。積極的にとは言わないまでも、「また誘っていい?」と聞くと、嬉しそうな表情を見せてくれたから。

その後の亜紀ちゃんとのご飯では、遥のことを色々聞くつもりでした。彼女の好意には勘づいていましたが、遥の相談をすることで、けん制にもなるだろうと考えたのです。

でもそこで聞かされたのは、「遥には2年もつきあっている彼氏がいる」という事実。

亜紀ちゃんの嘘だと思いたくて、僕は淳を飲みに誘って問いただしました。

「本当だよ」

淳は申し訳なさそうに答えた後、励ますように付け足しました。

「でも、あまりうまくいってないらしい。チャンスはあると思うぞ?」

淳の言葉に励まされると共に、亜紀ちゃんから「4人で遊ぼう」と提案があったこともあり、僕は中長期的に遥と距離を縮める作戦に出ました。


遥と初めて手をつないだ、あの日


4人で遊ぶ時には、遥への好意はあまり表には出さず、亜紀ちゃんにも平等に接するようにしました。もちろん、変に邪魔されると困るからです。

その代わり、遥と2人で遊ぶ機会もこっそりと増やしていきました。彼女は次第に、彼氏の悩みを打ち明けてくれたり、仕事の弱音を僕に吐いてくれるようになりました。

そして、紅葉狩りの日。

淳と亜紀ちゃんが前を歩いている時、遥は小さな声で僕にうち明けてきました。

「彼氏と、別れたの」

その言葉を聞いて激しく疼く気持ちを抑えられなくなった僕は、衝動的に、遥の手を握ってしまったのです。

彼女は少し驚いたようでしたが、熱を帯びた僕の手を、そっと握り返してくれました。

その日の夜。車で遥を最後に送り届けた僕は、彼女の自宅前で告白すると、彼女は「はい」と、照れくさそうに返事をくれました。

その後ほどなくして、亜紀ちゃんと淳の報告を受け「また4人で遊びに行けるね」と純粋に喜びました。

「実はね」

遥は、嬉しそうにささやきました。

「本当は淳さん、ずっと亜紀さんが好きだったの。でも全然男として見てくれないって悩んでいて、私、相談にのっていたのよ」

そうだったの?と驚く僕に、遥は申し訳なさそうに続けました。

「私、亜紀さんからは“孝太郎君が好きだから協力してほしい”っていう相談も受けていたの。だけど、淳さんか亜紀かと言われれば、つき合いの深い淳さんに協力したいなって」

悪いことしたなとは思うけど、とつぶやいた後、遥はにっこり笑って言いました。

「でも、皆幸せになって、本当によかったね」

彼女の笑顔に少し怖さを感じながら、でもこれで良かったと自分に言い聞かせました。


孝太郎と付き合いだした、遥の本音


彼氏とうまくいっていなかった時、食事会で出会ったのが孝太郎君でした。

正直、初めはあまりタイプじゃありませんでした。お上品な顔立ちは悪くないけれど、可もなく不可もなくといった感じ。

それでも、私はあることがきっかけで彼を意識するようになったんです。

そう、それは食事会で亜紀さんが彼を見つめる姿です。亜紀さんは何とか彼の気を惹こうと、甲斐甲斐しくサラダを取り分けて必死に“女”をアピールしていました。

人のモノって、欲しくなりますよね?

孝太郎君が私を気に入っていることは、分かっていました。だから彼氏とのことを相談したり、徐々に距離を縮めていきました。

でもね、私すごく飽きっぽいんです。孝太郎君と無事付き合うことになったけど、亜紀さんの幸せそうな姿見たら、どうでもよくなっちゃったんです。

・・・もう少ししたら、別れてもいいかなと思ってます。


最後に幸せになるのは、誰?


^Δ気譴觜せを選んだ亜紀。
計算づくしで遥と付き合った孝太郎。
先輩の好きな人を奪った遥。

最後に幸せになるのは、一体誰?

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