韓国の統一省の統計によると、今年8月末の時点で韓国に入国した脱北者は3万992人。また、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の統計によると、韓国以外の国に滞在する北朝鮮出身の難民、亡命希望者は昨年末の時点で1955人だ。さらに中国とロシアには数万人とも数十万人とも言われる脱北者が身を潜めている。

地域に偏りはあるものの、身内の誰かが脱北したという北朝鮮国民は決して珍しくない。北朝鮮当局は、そのような脱北者家族に対する締め付けを強化している。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、人民保安省(警察庁)は最近、各道の保安局に対して「脱北者家族に対する全面調査を実施せよ」との指示を下した。

今回の調査は、かつてのように単に監視対象を割り出して、要職につくことを制限するレベルのものではない。家族や親戚の中に脱北者がいることがわかれば、理由を問わずに連行され、拷問を含めた厳しい取り調べを受けた挙句、処罰されるというものだ。

家族に脱北者がいれば、都会から山奥の農村に追放される。また、親戚に脱北者がいれば、朝鮮労働党への入党審査で不利益を与え、兵役では工兵局などの非常にブラックな部隊に配属するなどの処罰がなされる。

目下、調査が行われている最中であり、処罰された人の数は今のところ多くないが、調査が終われば大々的な処罰が予想されると情報筋は見ている。

しかし、「上に政策あれば下に対策あり」のお国柄。対象となった人が座して追放を待つわけがない。生き残るために人びとが行っているのは、個人や家族、先祖の履歴、経歴、思想などを記録した文書を書き換えてもらう「身分ロンダリング」だ。

脱北者家族は病院に行って、脱北した家族が死んだことにしてもらい、死亡診断書をもらう。それを保安署の住民登録課に提出する。すると、その家族は脱北者リスト、行方不明者リストから抹消してもらえるという流れだ。もちろん、病院や司法機関の幹部に渡すワイロが必要となる。中朝国境沿いの都市での相場は中国人民元で1万元(約17万円)だ。

韓国などに住む家族に電話をかけ、カネの無心をする人が急増するにつれ、国境エリアでの違法な国際電話の通話量が増大しているとのことだ。

家族や親戚に脱北者がいるだけで農村に追放するのならば、会寧(フェリョン)、茂山(ムサン)、穏城(オンソン)などの中朝国境沿いの都市はほぼゴーストタウンになってしまうと情報筋は鼻で笑った。

情報筋は当局の方針の目的について言及していないが、当局は脱北者家族がカネを持っていることを知っているので、手っ取り早い外貨稼ぎのためにこのような調査を行っている可能性があるとしている。