東海大・駅伝戦記 第9回

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昨年の出雲駅伝で快走を見せた關颯人。その再現となるか

 關颯人(せき はやと/2年)が戻ってきた。

 9月23日、日体大長距離競技会の1万m最終組に出場し、28分23秒37で1位。自己ベスト更新、さらに今季日本人学生記録2位という成績で日本インカレの借りを返し、ぐっと調子を上げてきた。

 21時50分、レースがスタートした。

 關は序盤、真ん中より後方に位置していた。中盤から前に出てきて、6000mぐらいから5番手前後のポジションをキープ。先頭集団についている。

 残り1500m、蜂須賀源(コニカミノルタ)がスパートをかけるが關は対応し、背後についていく。ラスト1周、今度はチャールズ・ディランゴ(JFEスチール)が仕掛けるが、關は一歩も引かない。余裕のある走りでラスト150mで相手をかわし、そのままトップでフィニッシュした。

「今日、こんなにいけると思っていなかった」

 關は嬉しそうにそう言った。

「予定では28分40秒ぐらいでした。合宿の疲れがまだ抜けていなくて、調子はあまりよくなかったんです。正直、出雲に間に合えばいいかなって思っていて……。ここで最低限、自己ベストを出して自信をつけられたらとは思っていたんですけど、9000mまでけっこう余裕を持っていけたんでよかったです(笑)」

 9月8日の日本インカレでは、松尾淳之介(2年)が28分50秒94の自己ベストで5位に入り、調子のよさを見せたのに対して、關は11位(29分23秒01)と今ひとつの内容だった。アメリカから帰国して4日目ということで目に見えて疲労があり、走りも重かった。

 調子が上がらない理由について關は「合宿の影響なのか、それとも個人的に問題があるのか、アメリカに行った鬼塚翔太(2年)と阪口竜平(2年)の5000mの結果を見てから判断したい」と冷静に語っていた。その5000mで阪口は3位(13分47秒85)となり、鬼塚は16位(14分22秒37秒)に終わった。關と鬼塚は調子が戻らず、阪口だけが快走したのである。

 あれから2週間、その原因がわかったという。

「単純に疲労でしたね(笑)。4週間高地合宿をやってアメリカからの移動もあって、動きが悪かった。けっこうなダメージが体にあったと思います。そういうのを感じてはいたのでインカレの結果は悲観していなかったです。何とかなるなって思っていました。鬼塚も『お前も走れなくてよかったよ。ふたりとも走れなかったら、(その理由が高地合宿の)疲労ってなるから』と言っていたし、実際そうだったので」

 どうやらアメリカ合宿でのスタートが影響したようだ。合宿初日、1600mを6本走ることになったが、關と鬼塚は6本をやり通した。だが、阪口は無理せず4本に落とした。その後、1600mからのブレイクダウンというトレーニング(距離を徐々に落として、スピードを上げていく)を行なった。阪口は1200m、800mと落としていく中でレースペースより早い設定タイムをクリアしていったが、關と鬼塚は1200mあたりでキツくなり、設定タイム通りに走れなかったという。

 西出仁明(のりあき)コーチが言う。

「疲労を取る感覚は個人差があるけど、(アメリカ高地合宿での)最初の小さな差がのちのちに響いてきたようです」

 日本インカレ後、關はオフに地元・長野に戻り、父と山でトレイルランニングをするなどしてリラックスして過ごした。そうして2週間が経過し、徐々に疲労が抜けてきた。

「今、だいぶ体が軽くなってきました。疲労が抜けたらその反動でいい方向にいくと思っています。高地合宿の成果は感じていますね。インカレの時も心肺だけはかなり余裕がありました。今回もそうでしたし、これから疲労が抜ければ、より効果が出てくると思います。出雲までは距離は落とさず、疲労を抜いていけば大丈夫。この調子でいけばかなりいい状態で臨めると思います」

 この日の日体大記録会は、關自身が志願して出場した。疲労の抜けを確認しつつ、現状でどのくらい走れるのかを把握したいのと、日本インカレで「今年は1万mで結果を出せず、短い距離しか走れないと周囲から思われているのが悔しい」と語っていたように、出雲本番前に1万mで結果を出したい気持ちがあったのだろう。そして、予想以上の結果を出した。關の復調は出雲制覇を目指すチームにとって非常に大きい。

 また、同じレースで鬼塚も粘って28分59秒50と28分台で走り切った。日本インカレでは5000mを走っており、1万mの感覚を取り戻すにはいいレースになった。さらに出雲駅伝のメンバーである郡司陽大(あきひろ/2年)が29分05秒28、成長が期待される小松陽平(2年)が29分15秒11、中島怜利(2年)も29分15秒38でそれぞれ自己ベストを更新した。

 夏を終えて、主力を追う選手たちも着実に力をつけつつある。 

 翌日の5000mは、出雲駅伝の選考レースの様相を呈していた。前日、主力組の關と鬼塚が結果を出し、阪口と館澤亨次(2年)は参戦せず、チームで調整している。出雲を走るメンバーで、この4人は主要区間を走ることになるだろう。残りの枠は、あと2つである。おそらくは”つなぎ区間”をこの5000mを走る川端千都(かずと/4年)、國行麗生(れお/4年)、三上嵩斗(しゅうと/3年)、松尾、塩澤稀夕(きせき/1年)から選ぶことになる。昨年は出雲駅伝の1週間前に世田谷記録会があり、5000mのタイム上位6名をそのままメンバーにしたが、今年は2週間前ということで慎重に選考を進めている。

 5000mの最終組は、26名中11名が外国人選手、さらに日本人は東海大勢のほかは実業団の選手しかいない。早いペースでの展開になるだろう。レースは外国人勢の中に川端が入り、塩澤、三上らを引っ張って2000mぐらいまでチームの流れをつくった。そこから先頭集団と後続に分かれていく。

 三上と塩澤、松尾、國行が先頭集団についていくが、残り1000mで先頭が8人になった。その後、先頭集団がバラけてきたが三上、塩澤、松尾、國行が追う。川端が少し遅れた。ラスト1周、三上は懸命に前を追う。直線に入る第4コーナー手前で13分50秒を切れるタイムで入ってきた。

三上:9位:13分47秒26

松尾:12位:13分56秒07

塩澤:13位:13分57秒03

國行:15位:13分58秒70

 13分台が4名出て、4人とも自己ベストを更新した。彼らは白樺湖3次選抜合宿をこなしてきた選手である。夏の厳しい合宿を乗り越えた成果が見えた。

 三上は、満足そうな表情を見せた。

「昨日まで練習がうまくいっていなくて、今朝まで動けなかったんです。東海のトップを狙って打ち上がったら、ドンマイだなって開き直って走れたのがよかったです」

 ふぅーと大きく深呼吸して、笑みを見せた。

「これは夏合宿の成果かなって思いますね」

 三上は高嶺高原での2000m高地合宿を終えた後、日本インカレ組と選抜組の白樺湖合宿まで4週間、故障なく、順調に終えた。「練習中からバチバチやっていたんで、いい刺激になりました」というように充実した合宿だった。9月の日本インカレでは3000mSC(障害)で2位に入った。その試合が終わった時から「日体大記録会で力を発揮して出雲駅伝のメンバーを勝ち取る」ことに集中し、調整してきた。それだけに、この記録会でなんとしても結果を出さないといけないという強い思いがあったのだ。

「今のチームは4年生が引っ張ってチームの軸になってくれて、2年生がそれについていって高め合っているんです。自分らの代(3年生)は故障者が多く、『谷間の世代』になっているんですよ。白樺湖選抜合宿も実業団の練習に行っている選手がいたりしたけど、結局自分ひとりでしたし……。個人的には駅伝を走りたいですし、先輩として駅伝で存在感を出して3年生を盛り上げていかないと来年、誰もついてこなくなってしまう。ここで負けるわけにはいかなかったんです」

 谷間の世代……チームスポーツにおいてはそう囁かれる世代があるが、東海大の場合、4年生に力がある選手が揃っており、2年生は個性と実力が傑出し過ぎているので、その間に挟まれた3年生はどうしても物足りなく見えてしまう。

 三上はそういう見方に抗(あらが)うために意欲的に練習に取り組んできた。何かを変えないと現状打破も、さらなるレベルアップもできないと感じたのだろう。夏合宿から新たにウエイトトレーニングを取り入れ、肉体改造をした。ジョグの量を増やしたり、ケアにも力を入れた。出雲駅伝でメンバー入りした3年生は三上だけ。その3年生のプライドを背負って、この日に挑んだのだ。

「自分の走りに湯澤(舜)とか3年生が刺激を受けて、ついてきてほしい。そうなれば、うちのチームは先輩後輩と強力なメンバーが揃っているんで、さらに強くなると思うんです。駅伝を走るメンバー争いは熾烈ですが、負ける気はしないです。みんなすごいので気持ちで負けてしまうと終わってしまう。気持ちで絶対に負けない、自分がやるんだという自信を持って3年生の代表としてだけじゃなく、チームの代表になって走りたい。昨年の出雲はまぁまぁの走りをして、その後故障してしまい、全日本、箱根と走れなかったので今年は3大駅伝の主要区間を走れるようになりたいです」

 三上はそう宣言した。調子がいいだけに出雲を出走することになるだろう。昨年は5区で区間2位という結果を出している。その経験を買われ、今年も同じ区間を任される可能性が高い。

 三上の同学年である湊谷春紀(3年)、湯澤舜(3年)は箱根に向けて長距離を走る練習に取り組んできた。10月1日の札幌ハーフマラソンでは湊谷が優勝、湯澤が2位に入った。それぞれの目標に向けて3年生は、着々と力をつけている。

 両角速(もろずみ・はやし)監督は言う。

「3年生は、それぞれ持ち味が違うんでね。湊谷と湯澤は長い距離で結果を出してくれればいいですし、三上は今日しっかりと結果を出してくれたのでよかったと思います。

 ただ、今日(5000m)の流れを作ってくれたのは川端ですね。前半積極的に行ってくれましたし、夏合宿もチームを引っ張ってくれました。彼自身は今、調子がいいわけではないと思うんですが、後輩たちの走りを引き出した川端の走りはすごく評価したいですし、4年生の頑張りが見受けられたと思いますね。

 關はよかったですし、鬼塚は途中諦めかけたけど、最後は28分台でしっかりと上がっていますし、悪いなりに動かせたというのが絶対にある。次はもっと動いていけると思いますので、特に心配していません。松尾はひとつ吹っ切れた感じがある。ただ、出雲までまだ2週間あり、そこでの変化もあるのでギリギリまで考えます」

――手応えはあるのでは?

「勝負は甘くないですから。駅伝は流れなので、それを作れるかどうかですね」

 両角監督は慎重な姿勢を崩さなかったが、表情には余裕が感じられた。阪口が好調を維持しており、關、鬼塚は夏合宿の疲労が抜けてきて、よりパワーアップした姿を見せた。三上と松尾も結果を出し、塩澤も安定している。國行は日体大では13分58秒70を出し、さらに9月30日の世田谷記録会では5000mで13分51秒42を出した。昨年4区を走った川端も両角監督は高く評価している。館澤は日本インカレでメンタル面での課題が出て、今もスピードから”距離”への転化に若干苦しんでいる。試合に向けて館澤のよさを出せるようトレーニングで調整していくことになるというが、経験のある選手なのでうまくピーキングをしてくるだろう。

「出雲に向けて誰を使ってもいいという状態になりました」

記録会が終わった後、西出コーチは、自信に満ちた表情でそう言った。出雲駅伝に向けて、役者が揃った。

(つづく)

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