あれから10数年後、ジダン監督は当時のライカールト監督がメッシに対して行っていたのと同じように、徐々に出場機会を増やす方針を取っている。指揮官のそうした慎重な采配を後押ししているのが、現状を見極めながら行動できるアセンシオの年齢離れした精神的な成熟度とインテリジェンスの高さだ。それは次のコメントからも伺える。
 
「僕はまだ若い。一歩一歩成長していけばいい。重要な戦力としてチームに貢献できているという手応えはあるよ。コンディションも調子いいしね。ジダン監督は今の僕に何が必要なのかを把握したうえで決断している。僕には大きな目標があるし、もちろんプロフットボーラ―である以上、全ての試合に出場したい。でも、それは他の選手だって同じだ。すべての選手に均等に出場機会を与える監督の考えは理解しているつもりだよ」
 ジダン監督の慎重なアセンシオ起用法は常に一貫している。例えば昨シーズンは序盤戦で鮮烈なインパクトを放った後、しばらくの間、ベンチ生活が続いた。その間、招集メンバーから外れることも少なくなかった。その苦しい時期を経て、終盤戦はスーパーサブとして存在感を発揮。大一番では一度もスタメン起用されることはなかったが、途中出場という難しい役割の中でもCL決勝戦をはじめ貴重なアシストや得点を連発した。スタープレーヤーに不可欠な勝負強さを示し、チームの2冠獲得に貢献して見せたのだ。
 
 そして今シーズンはC・ロナウドの出場停止、ベンゼマの故障が重なり、開幕から多くのプレータイムを得る。当のアセンシオも見事にジダン監督の抜擢に応えている。
 
 新たなスター誕生に周囲の期待は高まるばかりだが、これからさらにその階段を駆け上がっていくために不可欠なのが、継続した出場機会だ。それこそがアセンシオが本格ブレイクを果たすうえで唯一欠落している要素でもある。
 
 逆に言えば、マドリーで定位置を勝ち取った日、我々はアセンシオの真の実力と可能性を知ることになるはずだ。
 
文:パブロ・ペレス(エル・パイス紙/スペイン代表・海外サッカー担当)
翻訳:下村正幸
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