マダガスカル・ベマラママトラのバニラ栽培業者の農家で、収穫済みのバニラが盗難の被害を受けないよう目を配る警備員(2016年5月25日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News

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【AFP=時事】マダガスカルでは今年3月に発生した熱帯サイクロン「イナウォ(Enawo)」の後、同国最大の輸出品であるバニラの価格が生産量減少に対する市場での思惑買いによって数か月のうちに暴騰した。

 世界の市場に出回るバニラのうち約80%はインド洋に浮かぶ島マダガスカルで生産されており、アイスクリームやアロマテラピー、香水、そして高級フランス料理などに使用されている。しかし、バニラ価格の高騰により突然この国に舞い込んできた現金はかえって犯罪を助長しており、またバニラの質低下を招いている恐れがある。

 同国北東部の農村地帯アンパネフェナ(Ampanefena)にあるたった1本だけ舗装された道路で、若者たちは日本製のオートバイに乗って後輪走行をしながら時間をつぶしている。細い体には大き過ぎるカワサキ(Kawasaki)のオートバイに乗る17歳の少年は、「2億アリアリ(マダガスカルの通貨、約157万円)したんだ」と自慢する。父親は「バニラ商売」に携わっており、プレゼントしてくれたのだという。

 マダガスカルでは近年、バニラビジネスが盛況だ。2015年以降、バニラの価格は上昇を続けており、同国のバニラ輸出業者協会(Group of Vanilla Exporters)の会長によると、1キロ当たり600ドル(約6万7000円)から750ドル(約8万4000円)というこれまでにないピークを迎えているという。

 同国では1989年にバニラ市場が開放された後、その価格は乱高下した。2003年に1キロ400ドル(約4万5000円)の高値を付けた後、2005年には1キロ30ドル(約3300円)に暴落。価格はその後、約10年の間、同様のレベルにとどまっていた。

 しかしオーガニック製品の人気再燃や投資家による思惑買い、そしてマダガスカルのバニラ生産地域がサイクロンで被災したことなどから、バニラの需要は同国の供給量である年間1800トンを上回るようになった。

 その結果、バニラ生産地域であるサバ(Sava)地方では、価格高騰による現金の流入で、ほぼ一夜にして町にはオートバイやスマートフォン、太陽電池パネル、発電機、薄型テレビ、派手なインテリア製品などがあふれ返った。

■規制なく無政府状態に

 同国のバニラ景気について、匿名を希望するフランスの貿易業者は「銀行は、バニラ価格の高騰に振り回されていた」と話す。

 バニラ農家を営む40代男性は、「人々にとってお金が何の意味も持たなくなっている。皆、規制はないも同然と考え、無政府状態になってきている」と述べた。

 バニラ価格の暴騰により、バニラ農場の盗難被害も増加した。中には貴重なバニラを警護するために農園内で寝泊りする農家もおり、これまでに数人の窃盗犯が殴打されるなどして撃退されたり当局に拘束されたりしたほか、中には殺害されたケースもあったという。また、盗難を恐れて熟していない状態でバニラの実を収穫せざるを得ない農家も出てきたため、バニラの質が低下する結果にもつながった。

 マダガスカルではバニラの売買がほぼ無統制で行われており、現行の数少ない規定には強制力がほとんどない。バニラの購入者は山地の村を自由に見て回り、直接農家と価格交渉を行ったり、中間業者に価格の見積もりを依頼したりすることもできる。

 バニラは同国の国内総生産(GDP)の5%を占めるが、サバ地域の開発局長は「地元当局で(バニラ売買に)税金を課すところはほとんどない」と語る。

 同地域では飲料水を利用可能な人口は全体の約21%にとどまっており、また電気は86ある自治体のうち6つにしか通っていない状態だ。

■世界最高品質とされたバーボンバニラの質も低下

 バニラ農家と貿易商の中間業者は、「はっきり言ってこの仕事で成功を収めることなんて不可能だ。皆がだまし合っている。そしてそれを率先して行っているのが大規模な輸出業者だ」と話す。

 マダガスカルのバーボンバニラは、何世代にもわたり受け継がれてきた栽培技術の産物であり、世界最高品質とされる。しかし、バニラの質が低下しているという懸念は、輸入業者がマダガスカル産バニラを避け、購入先を同国のライバル国であるインドネシアやウガンダなどに変更する事態を招きかねない。

 マダガスカルのバニラ輸出業者協会の会長は、「すべての物事には終わりがあり、(バニラの)価格が下落するのはほぼ確実」と指摘。

「バニラのおかげで私は学校に通うことができた。バニラは価値ある1次産品だ。価格が下落すれば日和見主義者は去っていくだろうが、私たちはこれからもずっとここ(マダガスカル)に残る」と、輸出業者の一人は語った。

「私たち古参の人間は、自分と子どもたちの将来をバニラで築き上げてきた。しかし今の私たちは、ばらばらに引き裂かれていく過程の真っただ中にいる」
【翻訳編集】AFPBB News