『写真:アフロディーテ/アフロ』

 この9月、「会社にあったら嬉しい制度・イベント」をキャリアインデックスが調査したところ、1位は「ノー残業デー」で、2位は「昼寝制度」だったという。

 昼寝が仕事の効率改善に効果があることは、1995年のNASAの研究によって明らかになっている。マーク・ローズカインド氏の報告によれば、26分間の昼寝で仕事効率が34%向上、注意力は54%向上したという。効果は3、4時間続くそうだ。

 この研究を受け、2011年、管制官の居眠りによる事故が多発していたアメリカで、26分間の昼寝をするよう行政指導が行われている。同時に、ヤフーが社内の休憩所で昼寝できるようにするなど、多くの企業で昼寝の効用が語られ始めた。

 そんななか、ネット上でよく見かけるのが「厚生労働省が昼寝を推奨した」という記事。それって本当なのだろうか。

厚生労働省として、昼寝を推進していることはありません。確かに2014年に出した『健康づくりのための睡眠指針』のなかで、『30分以内の昼寝が作業能率の改善に効果がある』と触れていますが、これはあくまで、補助的なもの。人間の健康のためには夜間6〜8時間の睡眠が必要で、もしそれが充分に取れなかったなら、不足を補うものとして昼寝を提言しているのです」(厚生労働省担当者)

 そのため、厚労省として、昼寝を制度として取り入れる予定はないという。

 結局のところ、昼寝の効用は、NASAの20年前の研究だけが独り歩きしていることになる。この研究を発表したマーク・ローズカインド氏は、2014年、ある講演で「誰もが知っておくべき睡眠に関する4つの基本」を語っている。

(1)睡眠時間は8時間必要
 中学生から20代前半までの若者には生理学的に約9〜10時間の睡眠が、大人は約8時間(7〜9時間の範囲)の睡眠が必要である。必要な睡眠量は遺伝的に決定され、訓練でこれを減らすことはできない

(2)睡眠が少ないと負債がたまる
 睡眠が足りないと「借金」として蓄積される。たとえば8時間睡眠が必要な人が毎日6.5時間しか寝ないと、毎日1.5時間の借金がたまり、5日めは7.5時間、つまり徹夜したのと同じ状態になる

(3)概日リズム(サーカディアン・リズム)を守ろう
 人間は24時間の睡眠/覚醒リズムを繰り返しており、午前9時から11時、午後9時から11時に高揚する。逆に午前3時から5時、午後3時から5時にもっとも低調となる(これが昼寝の効用につながる)。このリズムを正常化させるため、夜はPCなどの光を避け、朝起きたら日光に当たるのがよい

(4)注意力とパフォーマンスは自分の「眠さ」に比例しない
 人間の体内時計と実際の感じ方には違いがある。

 その上で、効果的な昼間を「午後3時から5時の間に最大40分間」としている。もし長く昼寝するなら、2時間がおすすめという。

 また、眠気防止にカフェインを摂る人も多いが、カフェインは効果が出るまでに15〜30分かかり、3〜4時間効果が続く。約150mgとれば十分で、コーヒーカップ1杯で115〜175mg、お茶1杯で40〜60mg、レッドブル1本で80mg含まれているという。カフェインは薬であり、過剰摂取には気をつけたい、とのことだ。

 ところで、昼寝を制度化するつもりがないと話した厚労省だが、昼休みに昼寝をする職員はいないのだろうか。
「厚労省といっても普通のオフィスと同じですから、休憩時間に昼寝する職員はいますよ」

 昼寝で仕事がはかどるのなら、これほど素晴らしいことはない。