ブックセラピストの元木 忍さんが、“今、気になる人”を訪ね、お話をうかがうという企画。「断捨離」を考案・提唱し、クラター・コンサルタントとして活躍するやましたひでこさんにその極意をうかがった前編に引き続いての後編。ますます進化していく「断捨離」について、その深層を知るべくさらに掘り下げてうかがいました。

 

カラダも家も同じく排泄することが大事

元木 忍さん(以下・元木):前回は、断捨離の基本的な部分を中心にお話しいただきました。

 

やましたひでこさん(以下・やました):ごく最近気が付いたことがあって。「断捨離とは、ただ捨てるにあらず」ってこと。

 

元木:え! 「捨てるにあらず」……とても気になります。

 

やました:“捨てる”という言葉を“出す”に置き換えてみたんです。すると、いろんなことがスッと腑に落ちて。

 

元木:インプットに対するアウトプットということですか?

 

やました:そうですね。……では問題です。私たちの身体から、いろんなものが出せなくなったらどうする?

 

元木:排泄物が出せなくなる、つまり便秘が続いて……腸内環境が悪くなるということ? まあ毒素がまわりますよね。

 

やました:そう! お腹にたまった毒素が、ふたたび身体に再吸収されて、身体中がつまって、よどんでおかしなことになるでしょ。

 

元木:そして、病気になります。

 

やました:実はこれ、家にも当てはまるんです。家も人間と同じように排出が必要で、いらなくなったモノはすべて出す。ところがね、私たちは“出す”ことに制限がある。さて、どういう制限を受けていると思います? ヒントは……便秘になるのは人間とペッドだけということ!

 

元木:ああ! 空間と時間ですね。

 

やました:そうです! 排泄をする場所と時間に制約があるでしょ。出したいときに出せたら便秘になんてならないのよ。洗練された出し方を身に付けている、われわれ人間としては、ゴミを出すという行為にも工夫をしなくては。

 

元木:ゴミって分別しなくちゃならないし、出す時間と場所も決まっています。でも、それを24時間いつでも出せる、好きなときに私の空間から追い出せたらうれしいですよね。

 

やました:だから私たちは、家の中にゴミ集積所を作ってしまうのよ。さあ、また問題です。それはどこでしょうか?

 

元木:あっ、わかりました! 押入れ、床下、納戸、天井裏などですね?

 

やました:はい正解。私たちは無自覚に置いてしまうんです。本人は片付けをしていると思っていても、それは“押入れにゴミ出し”をしているに過ぎないんです。

 

元木:いやぁ、怖い(笑)。前回もお話しいただいたカラーボックスも同じことですね。

 

やました:家の中でゴミ(不要なモノ)がただ移動しているだけ。身体に置き換えると理解できるように、排出しないとつまって死んでしまうんです。今こそ、出すことの重要性に気づかないと!

『モノが減ると、家事も減る 家事の断捨離』
大和書房 1512円

やましたさん流の「朝家事」「夜家事」「週末家事」のすべてが公開された人気書籍。手間を減らすことで、身も心も軽くなって日常が驚くほどラクになること請け合いです。

 

はじめの一歩は“引き出しひとつ”から

元木:とはいえ、今さら、どう“出して”いけばいいのかさっぱりわかりません……。そんな方多いと思いますが、まずは何からはじめればいいでしょうか?

 

やました:それはね、「引き出し」ひとつから。

 

元木:え! それだけでいいんですか?

 

やました:一度にすべて、なんて無理ムリ(笑)。それに、引き出しひとつにしたって、そう簡単には片付けられません。

 

元木:引き出しには、ついつい仕切りや箱を入れて細々と押し込めてしまっていますものね。

 

やました:その仕切りや箱を取り払って、余計なモノは入っていないのか? を考えて、この小さな空間から“出す”こと。まずはこれを繰り返しましょう。

 

元木:それならできるかもしれません。

 

やました:引き出しという空間から出すことは、断捨離のトレーニングにもってこいなんですよ。そしてね、空間は英語でspaceというでしょ。spaceは宇宙。この空間から、果てしない宇宙への旅がはじまるんです。

 

元木:果てしないですね……でも、宇宙への旅と思うとワクワクもしてきます。

 

やました:そう! 果てしない旅のスタートは、今、目の前にある引き出し。あるいはお財布もアリです。お財布はお金の空間ですからね。

 

元木:そうやって考えていくと、すべてが空間であることがわかります。私はそもそもモノを持たない主義ですが、それでもやましたさんとお話ししていると、「無自覚に生きていたかも」と反省してしまいます(笑)

 

やました:いわゆる“収納術”というものは、空間全体を認識することが欠落しているから。収納ボックスが増えるごとに、圧迫感と閉塞感で呼吸不全になることに早く気が付いて! 断捨離は整理整頓にあらず、断捨離は片付けにあらず、です。

 

元木:お話を伺っていると、断捨離は“空間をクリエイトする”、ないしは“空間の取り戻し”……よりよく生きて行くための手法であるということがよくわかります。

 

やました:まさにそこです。自分にとって必要なものはどんどん変わるんですもの。どんどん生まれる“いらないモノ”を納めて、片付けるなんてことは絶対に無理。「思い出の品はどうしよう?」と悩むでしょうが、幼稚園時代のお友だちのミヨちゃんから、今現在の仲間たちまで全部、家にいるってことになっちゃうんだから! 一度しまったモノは二度と出てこない。そこにしまったモノはすでに死骸、ないはミイラ化した“知らないおじさん”になっているんです(笑)

 

元木:うわ、まったく用をなさないミイラ化した“おじさん”までが巣食っているなんて。ホント、恐ろしい(笑)。そんな状態の中で、「家事が苦手です、できないんです」って当たり前ですよね。モノが減れば手間が減るってこと、痛感しました。

 

やました:選び抜いたモノなら、時間も手間も惜しくないし、楽しくなるんですよ。家事に対する「ちゃんとやらなきゃいけない」という強迫観念はもうなしにして。家事が不得意なら、その手間を省こうよ。それが断捨離なんですから。

 

「家事をする」と自律することで自立できる

元木:やましたさんは、石川県でご家族と暮らされて、東京ではおひとりですよね? それにしても、お部屋のどこを見ても本当にキレイですよねぇ。撮影用じゃなくって、いつもこうなんですよね!

 

やました:そうです。いつもこの状態ですよ。でも、今日はちょっと仕事部屋のデスクが散らかっているかも。

 

元木:これで散らかっているなんて言われたら、私はどうしたらいいんですか!(笑)

 

やました:よく、「ひとりだからこんなにキレイなんでしょ?」と言われるんですが、だったら、ひとり暮らしのみなさんも、キレイに暮しているよね?(笑)

 

元木:それは……ないですね(笑)。ぐちゃぐちゃの部屋で平気で過ごしておきながら、自分へのご褒美と偽って温泉に出かけている。でも、そうじゃないんですよね? それよりも、毎日、都度キレイにしていったほうが断然、気持ちいいし、自分への“ご褒美”であり“もてなし”なんですよ。

 

やました:ある意味、「やらなくちゃ!」という思いが、面倒なことを助けてくれるんです。自分を律することができるか否か。それを意識していれば、ひとりだろうと大家族だろうとキレイにしていられるんです。そうそう、“じりつ”には「自立」と「自律」の意味があります。自分で生きていくことと、自分を律すること。

 

元木:自立するため、自律して家事をする!

 

やました:それにね、好むと好まざるに限らず、ひとりになってしまうのです、人は。突然、配偶者を失うかもしれないし、子どもは独立していく。ひとりになったときに、どう自分を律するか。家族がいるから片付かない、家族がいるから料理をしなきゃいけない、と思い込んでいると、いざ、ひとりになったときになにもできなくなってしまう。

 

元木:家事って“やらされている”という気分になりやすいですものね。でも、人のためでも旦那さんのためでもなく、自分自身のためにすることなんですよね。

 

やました:「家族がいなければキレイにできるのに」と言いますが、じゃあ、一戸建ての家から子どもたちが巣立って、夫婦ふたりだけになって、子ども部屋が空いたからキレイになった、なんていう方は本当に少ないです。空いた場所があればあるだけ、そこにモノを埋めていくんですから。

 

元木:“実家あるある”ですね(笑)

 

やました:先日、ある住宅メーカーさんの講演会で、こんなふうにお話したんです。<家族が拡大していく時期は大きな家が必要だけれど、家族が縮小すれば、大きな家はかえって住みづらく暮らしづらい。かつては、手狭だった家も、今は、空いた部屋に忘れられたモノたちが積み上がられているばかり><モノでさえ溜め込むことが習い性の私たち。要らなくなったモノでさえ捨てられないと悩む私たち。そんな私たちが、家を軽やかに住み替えていくのはよほどの意識改革が必要となっていく>ってね。

 

元木:ああ、覚悟が必要なんですね。

 

やました:そう。でも都度行っていれば、そんなに大変なことじゃないんです。だって、自分の命がかかってくるんだから! 私は“家事労働”とは絶対に言わない。“家事仕事”って言っているの。家事という「こと」。この「こと」は自分の命に必要な大切な「こと」なんだからね。日常的な自分の空間に、もっと目を向けましょうよ。

 

元木: 現実を知りたくないから目をつむる。もうそれはナシですね!

 

毎日を“ご機嫌”で過ごすために

元木:よりよく生きるためには、まずは家事をしてモノを出すこと、これは肝に銘じました!

 

やました:私だってね、こんなに偉そうなことを言っているけれど、最初に買ったベッドには、引き出し収納が付いていたんだから(笑)。そこに本を溜め込んでいてね。でも、あるときふと気が付いて。「私、カビた本の上で寝ているのか!」って。それで本ごとベッドを捨てました。

 

元木:スペシャリストのやましたさんにもそんなことがあったなんて、ちょっとうれしいです(笑)

 

やました:ふふふ。必要なものを循環・代謝していくだけでいいんだ、ということにたどり着いて、現在に至るんです。

 

元木:そして今では、モノだけでなく、言葉の出し方、お金の出し方についても教えてくださっているわけで。

 

やました:“心”という空間には気持ちが入っています。本音を言おうよ、嫌な気持ちは出そうよ。と言いつつも、本音を出しにくい世の中ですけどね。だから、いかに洗練して出すか? お金もそうよ。お金があってもなくても出さなきゃいけない、ここは平等なんですよ。

 

元木:嗜好品とかではなく、税金やらなにやらと、お金は出ていきますものね。

 

やました:そう。貧しいほどお金を出しなさい。もらおうとしてばかりで“出す経験”を積んでいないと、人生はそのままになってしまう……と、お金の出し方はまた別の機会に!

 

元木:それにしても、断捨離がそこまで関わってくるとは。

 

やました:お金だけじゃないですよ(笑)。断捨離は、時間と空間、そして人間。“間をすべし”という“間”を扱うという術なんですね。この空間認識能力こそが現状を認識して、問題解決をしてくれる。モノの流れ、時間の流れを理解すると気づくことがたくさんあります。誰かに嫌われてしまったり、相手はまったく変わっていないのに、私の方が嫌いになってしまったり。原始仏教の宇宙観、諸行無常、三法印、涅槃寂静……すべては関係性なんですから。

 

元木:これは「断捨離道」という境地ですね!

 

やました:悟りの境地ですね(笑)。私は“ごきげん”と称していますが。空間のあり方で変わってくる、ご機嫌になれるんだよって。

 

元木:気付いたからこそ、もう人のせいにしなくなる。今日帰ったら、まずは「引き出し」から出していきますね!

まるで新築マンションのモデルルームのような、やましたさんの洗面所。モノが少ないだけでなく、“その都度そうじ”もあって、常に美しい。

 

やましたさんのご自宅は、クローゼットの中も美しい。洗濯機を回したらハンガーにかけて浴室乾燥機へ、そして乾いた衣類はそのままクローゼットにしまわれる。畳む手間をなくすだけで、ストレスは激減する。

 

シンプルな空間だからこそ、こうしたアートが映える。旅先で出会ったこちらは「私の同居人」と、やましたさん。

 

Profile

やましたひでこ(左)

早稲田大学文学部在学中に出会ったヨガの行法哲学、「断行・捨行・離行」に着想を得た「断捨離」を、日常に落とし込んだ自己探訪メソッドを構築。処女作『断捨離』(マガジンハウス)をはじめ、著作・監修を含めた関連書籍は国内累計300万部を超えるミリオンセラーに。近著に『モノが減ると、家事も減る 家事の断捨離』(大和書房)、『見てわかる、断捨離 決定版』(マガジンハウス)がある。
公式HP https://yamashitahideko.com
オフィシャルブログ https://ameblo.jp/danshariblog/

 

ブックセラピスト / 元木 忍(右)

brisa libreria代表取締役。卒業後、学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と一貫して出版に関わる。その後、東日本大震災を機に人生を見直し、2013年にココロとカラダを整えることをコンセプトとした「brisa libreria」を起業。訪れる人が癒される本を中心に据え、エステサロン、ヘアサロンを併設する複合サロンとして、南青山にオープンした。
http://brisa-plus.com/libreriaaoyama

 

取材・文=山粼真由子 撮影=泉山美代子