「週刊文春」(10月12日号)の新聞広告。小池氏の顔写真の横に「林真理子『小池百合子という魔女』」という惹句が書かれている。

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10月5日、「希望の党」代表の小池百合子都知事は、民進党の前原誠司代表と会談した。終了後、自身の総選挙出馬に関して、前原氏から「熱望」があったことを明らかにしたうえで、「総選挙への出馬はありませんとあらためてお伝え申し上げました」と述べた。本当に小池氏は出馬しないのか。ジャーナリストの沙鴎一歩氏は「10日に出馬表明する」とみる。その理由とは――。

■「女性初の首相」の夢は消えたのか

「希望の党」代表の小池百合子都知事が繰り返し、衆院選への不出馬を表明している。日本国憲法が首相を国会議員の中から選ぶと明記している以上、今回の衆院選に出馬して当選しなければ、首相指名選挙の候補にはなれない。出馬しない限り、65歳という小池氏の女性初の首相の夢は消えてなくなるということである。

小池氏は10月5日の民進党の前原誠司代表との会談後にも「ラブコールをいただいたが、出馬は考えていないことは、再三お伝えしている」と記者団に話した。

しかし、だれがどう考えても、いまの希望の党には、衆院選で台風の目となり、安倍1強を倒せるような人物は小池氏以外にいない。自民党にすり寄ってポスト安倍の石破茂元幹事長や野田聖子総務相を狙って奪い取るとの見方もあるようだが、小池氏はそんな甘いことはやらない。

再三の衆院選不出馬表明は、政治家である小池氏のお得意の「方便」だ。彼女は連休明けの10日の公示ぎりぎりに出馬表明するはずだ。なぜそう思うのか。それは彼女が本物の「魔女」だからだ。

■週刊文春「小池百合子という魔女」

「小池百合子という魔女」――。「週刊文春」(10月12日号)の新聞広告の1文だが、「魔女」という言葉に惹かれ、週刊文春を買いに走った。作家の林真理子氏が連載コラム「夜ふけのなわとび」で、小池氏の心中を想像して書き上げている。その内容は「魔女」という惹句に相応しいものだった。

「やってみると豊洲問題はめんどうくさいし、都議会議員は使えないヤツはっかり。やっぱり国政は楽しかったワー」
「それ(日本初の女性首相)に比べたら豊洲って何なのよ。自分は今まで何てつまんない小さなことにかかわってきたんだろう」

こう書いた後、林氏は「小池さんの心情を勝手に想像したが、そう間違ってはいないはずだ」と言い切り、さらに「近いうちに小池さんは都知事を辞職し、衆議院に立候補するに違いない。そして……にこやかに当選者にバラの花を飾っていくだろう」と書いている。

■単なる「魔女」ではなく「本物の魔女」

そのうえで林氏は「魔女」という評価を下している。

「まことに失礼ながら『魔女』という言葉を思い出した。これほど人々の心を操れる人がいるだろうか。これほど堂々と嘘がつける人がいるか」
「すごいと思う。しかし都議選の時のように、『もっとやれー、もっとやれー』という声援をおくる気にはなれない」

林氏はさすがである。「人の心を操る」「堂々と嘘をつく」という指摘は鋭い。「魔女」というたとえにも説得力がある。

しかしここであえて言わせてほしい。大衆は「小池劇場」が大好きなのだ。いまは小池氏という政治家が演出するドラマに夢中になっている。とりわけそのドラマに毒があればあるほど、惚れ込む。魔女は熊の肉や蛇の皮を薬草などと一緒に煮込んで毒を作る。小池氏がさまざまな政治家を巻き込んだ新党も、強い毒をもつが、それが大衆を酔わせ、痺れさせる。そして大衆はその毒によって魔法をかけられ、小池劇場から大きな元気をもらうことができるのである。

だからこそ、小池氏の出馬を期待する。来る衆院選挙で圧勝し、「安倍1強」を制止した小池氏に拍手喝采を送りたいのである。そうすることで大衆は大きなエネルギーを得ることができる。

小池百合子という政治家は単なる魔女ではない。本物の魔女なのである。小池氏もそのことをよくわかっているはずだ。だからこそ都知事選に勝ち、都議会のドンを倒し、都議選でも自民勢力を打ちのめすことができたのである。

■政党を渡り歩き、権力に食い込む

「政治家・小池百合子」は、政党を転々としながら、時の権力にしっかり食い込んできた。

小池氏は1952年7月15日に兵庫県芦屋市で生まれた。関西学院大を中退し、エジプトのカイロ大を卒業。テレビ東京のキャスターを経て1992年の参院選で初当選した後、翌年から衆院議員に当選した。2000年9月には女性として初めて自民党総裁選に出馬している。

政界入りしてからは、日本新党代表で首相に就いた細川護熙(もりひろ)氏や、1994年に新進党を立ち上げた小沢一郎氏とともに歩み、小池氏は広告塔としての役目を果たした。

2002年に自民党に移ると、今度は小泉純一郎首相(当時)に接近する。05年の「郵政解散」による衆院選では、郵政民営化に反対する議員の選挙区に「刺客」として鞍替えすることを自ら志願し、小泉首相の戦略に大きく貢献した。

民進党代表の前原氏とは政治家として駆け出しのころからの旧友で、日本新党でも一緒だった。だからこそ、民進党からリベラル派を追い出し、自らの味方に付けることに成功したのである。

■「田中角栄」以来の政治家

ついでに最近の動きも復習しておこう。

10月5日付の朝日新聞オピニオン面に掲載された元経済企画庁長官、田中秀征氏の談話を読むと、ここ数日の目まぐるしい政界の流れが実によく分かる。

田中氏は初めに「第2次安倍晋三政権が発足して5年弱、国民の間には政治や政党に対する不満や不信というマグマがたまり、あふれんばかりになっていました。それを解消する勢力が現れれば、ブームを起こす気運は確実に高まっていたのです」と指摘する。

続けて、「(安倍首相は)ここが勝負どころと見た小池百合子都知事のずば抜けた『勘』と『度胸』を読み誤った」としたうで、「首都東京の知事が国政の新党の代表に就くのは常識的には無理筋です。だが、一枚も二枚も上手の小池さんに政界の常識は通用しません」と評価する。

そのうえで田中氏は、小池氏は世襲政治家でなく、「自力ではい上がった創業者型政治家」だと指摘し、「田中角栄元首相以来の存在」と分析しているのだ。この解説は実にわかりやすい。

やはり小池氏は、政界の常識を覆す本物の魔女なのだ。今後、どのような行動によって政界再編を起こすのか。沙鴎一歩は楽しみなのだが、その楽しみを味わうためには、小池氏自身が出馬する必要がある。

■新聞社説も「小池出馬」に期待する

新聞各紙の社説も表向きは固いことばかりを書き並べてはいるが、その行間を読み解くと、小池氏の出馬を期待しているのがわかる。

たとえば衆院解散を論評した9月29日付の毎日新聞の社説は「小池氏流の劇場型手法によるとはいえ、国民の選挙への関心が高まってきたことは歓迎したい」と小池新党を評価している。

同じ29日付の東京新聞の社説も「公示まであと10日余り。本人は否定するが小池氏が都知事を辞めて国政進出の可能性も取り沙汰される。民進党の事実上の合流も……」と書くなど小池出馬を否定してはいない。

読売新聞の社説(29日付)は「小池氏は衆院選への出馬を否定するのであれば、安倍首相に代わる首相候補を選挙前に決めるべきだ。合わせて、説得力のある政権構想や基本政策を早急に策定し、選択肢として示す責任がある」と手厳く批判しているが、その裏を返せば小池氏に出馬を促しているようにも受け取れるからおもしろい。

小池百合子という政治家は確かに方便も使うし、嘘もつく。しかし、それは日本の国の将来を真剣に考え抜いているからではないだろうか。政治への不信とあきらめが蔓延するなかで、今回のような動きは実におもしろいと思う。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)