衆院選に突入、「働き方改革」はお蔵入りか!?

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突然の解散、総選挙の実施により、今国会で審議予定だった働き方改革関連法案の審議が先送りされることとなった。いや、今や注目度は安保や政界再編そのものに向いているので、次の国会で審議されるかも雲行きは怪しくなってきたように思う。

そもそも、過労死や長時間残業といった日本の労働問題の根幹は、「少数の正社員を、残業をバッファーとしフルタイムで働かせるかわりに、年金支給開始年齢まで雇用を保証させる」という終身雇用制度にあり、そこにメスを入れない限り対処療法の域を出るものではない。一部の専門職に限定して時給管理を外す高度プロフェッショナル制度や残業時間に上限をつけるだけの今回の法案で劇的に何がどう変わるものではないが、それでも改革の芽となる可能性はあっただけに残念な状況には違いない。

会社は喜んでやる! 残業時間「制限」は実質的な賃金カットだ

ところで、現在、最も困っているのは連合である。彼らは長年「時給で払え!」と主張し、ホワイトカラーエグゼンプションなどの脱時間給の動きに強硬に反対してきた。とはいえ、別に時給で払わせたところで本人の生産性以上に払えるわけでもないから、その分、ボーナスなどが低く抑えられて時給にまわされただけのこと。

そういう意味では、ある程度は無理にでも残業しないと稼げないような「残業依存体質」をつくってきたのは、連合自身と言える。

「株式会社電通に2015年に入社された新入社員女性の自死が先月末に過労自死として労災認定されました。その後、連日のように長時間労働問題についてメディアで報道されています。広告業界で働く人々のより良い環境作りに日々取り組んでいる広告労協としても、今回の件は誠に残念でなりません。(中略)広告会社は、クライアントとメディア・消費者をつなぎ、斬新な発想やアイデアを生み出す、という命題の中で、社会のIT化、メディアの多様化、広告効果効率の厳密化などにより業務量が激増しています。環境変化のスピードに会社も対応できず、業務はより専門的、複雑化して現場社員の一人一人に負荷がかかっている状況もあります。業界の過渡期といえるかもしれませんが、私たち現場で働く人々の生活が充実してこそ、この難局を乗り越えられるのではないでしょうか。」

これは、電通の過労死問題に対する広告労協の公式コメント(2016年10月31日公表)である。読めばわかるが、そこには会社や経営陣に対する怒りや抗議は一切なく、ただただ事態に困惑している様子がはっきりとうかがえる。

これは日本の正社員労組の過労死に対する典型的スタンスと言っていい。

だが、社会からの風当たりが強まった結果、有名企業はどこも自主的に残業時間に厳しい上限をつけるようになった。残業でもとを取るようなシステムをつくっておきながら、その残業が制限されてしまったわけだ。

これは実質的な賃金カットに他ならない。その影響を危惧する声はすでに出始めている。

改革の「エンジン」可能性があるとすれば「希望の党」か

シンクタンクの大和総研が、政府が導入を目指している「残業時間の罰則付き上限規制」について、こんな試算をまとめた。残業時間の上限が年720時間、月平均60時間に規制されると、残業代は最大で年8兆5000億円相当の減少が見込まれるというのだ。

残業時間の上限規制が実現すれば、原則として「年360時間、月45時間」の上限が残業時間に設けられる。繁忙期などには特例が設けられるが、月平均60時間の「年720時間」に制限される見通しだ。

つまり、このまま自主的な上限を維持しようが、法規制で上限を設けようが、時間ではなく成果に対して支払う仕組みを議論しない限りは「給料が減る」ということだ。

では、仮に「働き方改革」関連法案がこのままお蔵入りした場合、何が起こるだろうか――。

1〜2年は現在の残業自粛状態が続くだろう。その過程で一定の業務効率化も進むに違いない。だが、抜本的に生産性が向上するわけでもなく、なにより労働者側に「もっと長く働いて、手取りを増やしたい」というインセンティブが残るから、短期間で巻き戻しは進むはずだ。

改革実現の可能性があるとすれば、左派を切り捨てることで柔軟な政策議論の可能となるであろう「希望の党」だろう。彼らが与党側と議論を継続すれば、2018年早々にも、より踏み込んだ形で新たな働き方改革法案が出現してくるかもしれない。

その際は、恐らく左派系の議員が「残業代ゼロ法案だ!」だの「過労死促進法案だ!」だの、ごちゃごちゃ言ってくるだろうが、彼らは希望の党に入れてもらえず絶望しているだけの人たちなのでスルーしておいて問題ない。(城繁幸)