久保建英は自分の内面を冷静に見つめ、自分との戦いに打ち克つことで成長してきた【写真:舩木渉】

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U-20W杯で味わった悔しさから4ヶ月、再び世界の舞台へ

 U-17W杯がインドで開幕を迎え、日本代表は8日にホンジュラス代表とのグループステージ初戦に臨む。今大会のキーマンと目される16歳の久保建英は、自身2度目の世界の舞台に向けて何を思うのか。彼が考える成長、そして自分との戦いが意味するものとは何だろうか。(取材・文:舩木渉【グワハティ】)

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「こういう思いは本当に…これから先何度もあると思うんですけど、本当にこれを最後にしたい」

 U-20W杯の決勝トーナメント1回戦、ベネズエラに敗れた後、久保建英が絞り出したこの言葉がずっと頭の中に残っていた。

 さらに「(U-17W杯は)まだ先の話なんですけど、選ばれたらこういう思いはしたくないので、もっともっと努力したい」と続く。そのU-17W杯が、いよいよ始まろうとしている。

 U-17日本代表の森山佳郎監督は、W杯に向けた招集メンバー発表会見で「(U-20W杯が)終わってすぐ聞いたら、『絶対にやります!』と言ってきました。『どうしようかな…』といういくらいだったら、上(の世代)でやればいいと思っていましたが、彼からはこの大会で主役になって、U-20のリベンジをしたいという強い思いを感じました」と、久保について話していた。

 背番号7を任された16歳にとって、インドでの世界一をかけた戦いは、強く望んで掴み取った大舞台である。その初戦、ホンジュラスと相対する重要なグループステージの第1戦は8日に行われる。

 もう「元バルセロナ」という肩書きで注目された「久保くん」と呼ぶべきではないのかもしれない。取材に応じる姿は落ち着いており、思春期をとうに終え、大人として成熟したプロフェッショナルの雰囲気を漂わす。彼自身、チームの他の誰かに言及する時に必ず「〇〇選手は…」と敬称をつけて、周囲へのリスペクトを忘れない誠実な青年であり続けている。

 U-20W杯から帰国した直後、FC東京U-23の一員としてJ3の試合に出場した久保のプレーには少しの迷いが見られた。世界の舞台で感じた課題をどうピッチ上のプレーに落とし込み、自分の成長につなげていくか必死に模索しているように感じられた。

「正直、あんまり自分が成長したな…というのは考えたことがない」

 だが、改めてU-17W杯を前にして、自分の成長をどのように測っているのか尋ねてみると、意外な答えが返ってきた。

「正直、あんまり自分が成長したな…というのは考えたことがないので、こういう風に記者さんから『どういうところが成長したの?』って言われて、初めてこの場で考えたりするんです」

 とはいえ16歳。特大のポテンシャルを秘めた若者は、数ヶ月もあれば別人のように変わることもある。久保の場合は、「成長」の捉え方が少し違うようだ。

「どちらかというと自分は足りないところから埋めていこうと。自分の成長を感じるよりも、それ(課題)を埋めることによって、成長を感じるかなと思います」

 久保は事あるごとに、自分のその時の課題を正確に見つめてきた。昨年11月、AC長野パルセイロ戦でJ3デビューを果たした直後には、「スピード」について言及していた。
 
「(J3は)自分がいままでプレーしていたところと全然違って、パススピードだったり展開だったりが早くて、最初は全然ついていけなくて、自分が思っているよりも速いパスがきてあたふたしちゃったり。結構スピードは大切だなと、まだまだ劣っているなと思いました。自分ももっとパススピードだったりドリブルのスピードを上げることで、彼らの持っている速いスピードに対抗できるんじゃないかなと思っています」

 U-20W杯前の今年5月初旬、YBCルヴァンカップの北海道コンサドーレ札幌戦でFC東京のトップチームデビューを飾った後には、「強度」を課題に挙げていた。

「J1とプレミア(高円宮杯U-18プレミアリーグ)では、どうしても体格差だったり、精神的、戦術だったりも含めて、1回のプレスを全力でやった後に、次のプレスをまたかけるのは、J1だと息が続かないっていうわけじゃないですけど、難しいなと」

 それ以前から課題と認識していた「フィジカル」や「パワー」も、最近は目に見えて向上しているように映る。本人はU-20W杯が終わった後から「正直短期間なので、あんまり、そんなに極端な成長はしていない」と謙遜するが、改めて間近で久保の身体を見ると、全体的に分厚く、大きくなったと感じた。彼はピッチの上で現れた課題を一つひとつ丁寧に潰していくことで、よりスケールの大きな完全無欠の選手へと近づこうとしているのかもしれない。

久保を後押しする「経験」。U-17代表の貴重な財産に

 そして、U-17W杯では「経験」もポイントになるだろう。5月の札幌戦の後、「今の時点で自分は他の同年代の選手より半歩くらい前にはいられているかなというのは思っているので。スタートが早いだけじゃなくて、失速せずにこのままどんどん上にいきたい」と溢れる向上心を語っていたが、U-20W杯や年上のプロ選手と日常的にぶつかり合うJリーグでの経験は、チームにとって必ずプラスとなる。

「自分にはW杯1つ分の経験というものが、目に見えるところでも、目に見えないところでも、自分のバックについてくれていると思っているので、成長していると信じて、自分の全てを出せればいいと思っています」

 森山監督も「久保はU-20でW杯を経験して、貴重なものを僕らのところに注入してくれています。帰ってきてからすぐに大会に参加した感想を話してくれて、素晴らしい話をしてくれました。U-20W杯では得点を取れなかったし、かなり悔しい思いをして帰ってきたので、この大会に期する思いは強いと思う」と、得難い経験を積んだ背番号7への信頼を口にしていた。

 以前U-20日本代表の内山篤監督が「久保は自分のできることとできないことが、すごくよく分かっている」と評したのは、久保のプレーを見るごとに確信へと変わっていった。自分に何ができて、何ができないのかを誰よりも冷静に見つめてきたからこそ、再び世界の舞台に立つ権利を得ることができた。

「『あの時やっておけばよかった…』は絶対にあっちゃいけない」

 ところで、今回のU-17W杯に向けて、森山監督は選手たちに対して「戦う」ことを強調し続けてきた。この言葉の意味を、久保はどう考えているのだろうか。まず別の選手、守備の柱である菅原由勢にも同じ質問をぶつけてみた。

「シンプルに『戦う』という言葉だけに縛られると、やっぱり球際の強さとか、空中戦、1対1というのもあると思うんですけど、戦うということを掘り下げていけば、自分が50%の状態で戦っても相手には絶対に勝てないですし、絶対に自分の中での100%を出せるコンディションで臨むということが戦うことだと思います。チームが90分試合をやっていく中で、流れもある中で、ピンチの時にどう守ったりだとか、攻撃は決め切るだったり、そういう流れを感じることも『戦う』ことの奥深くにあるのかなと思っています」

 試合前の準備から試合中のプレー、メンタリティ、インテリジェンス…そういったものはもちろん「戦い」だ。菅原の言うことは何も間違っていない。だが、久保の捉え方は少し独特だった。

「人それぞれあると思うんですけど、自分の『戦う』は、1つは『後悔しない』というのは大きいですね。『あの時やっておけばよかった…』みたいなのは絶対にあっちゃいけないと思います。でもやっぱり戦うと言っても、球際だったりというのはありますけど、自分はしっかり逃げずに、自分と向き合って、『相手に負けていないな』というのを自分の中で試合が終わった後に感じたいので、仕掛けるところは仕掛けて、自分の方が相手より優っているというのを見せることが、『戦う』ということ。代表に選ばれているということは、やっぱり誰でもできるようなプレーではなくて、1人ひとり特徴を持っていると思うので、その特徴を存分に出すことが自分にとっての『戦い』です」

 なるほど、久保が考える「戦う」は「自分との戦い」である。U-17W杯は、自分といかに向き合い、世界の舞台で自分の武器を存分に発揮できるかどうか。それがチームとして「戦う」上で結果にもつながる。常に課題を見つめ、穴を埋め、選手としての高みを追い求める…その姿勢に「戦う」の意味が繋がった。

 久保にとってのU-17W杯は、日本代表として優勝を目指すだけでなく、完全無欠のワールドクラスの選手への一歩を踏み出すための、自分との戦いでもある。キャリアの転機になるかもしれない重要な1ヶ月が、今、始まろうとしている。

(取材・文:舩木渉【グワハティ】)

text by 舩木渉