正社員の給料はなぜ高いのか?法案は大きな疑問を投げかける中身になっている(写真:tkc-taka / PIXTA)

働き方改革関連法案はどうなる?


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9月28日に衆議院が解散され、10月22日に総選挙が実施されることになりました。メディアでの報道は小池百合子氏が率いる「希望の党」をめぐる政局を中心に、毎日目まぐるしく移っていますが、忘れてはいけない重要な争点があります。それが、「働き方改革」関連法案です。厚生労働省は9月に入ってから、労働政策審議会という政策決定のための有識者会議を週2〜3回という、通常よりもはるかに多い回数で開催していました。おそらく、解散報道が出る前の想定では、9月末には法案提出もありうるという前提での動きだったのではないかと思います。

現在は、解散によって会議が一時ストップしていますが、選挙後の国会では、もともと「働き方改革国会」となる予定だったので、現在の自民党政権が過半数以上を確保すれば、予定どおり法改正が行われるでしょう。そこで、本来今頃国会で議論されているはずであった、現政権が検討している働き方改革関連法案がどのようなものであったかを知っておくことは、選挙における投票行動を考えるうえでも有益だと思いますので、ご紹介しておきます。

働き方改革関連法案の全体は、テーマが多岐にわたります。じん肺法や、労働時間等設定改善法など、さまざまな論点が一括して審議される予定となっていました。推測の域を出ませんが、「残業代ゼロ法案」などと揶揄され批判の多い「高度プロフェッショナル制度」と、労働時間の上限規制といった反対の出にくい項目をセットにして法案提出することにより、法改正を容易にするためではないかと思われます。今回は重要論点に絞って、その考え方や狙いを解説していきたいと思います。

なんといっても目玉になるのは、労働基準法改正です。まずは、単月100時間の残業を絶対上限などとする労働時間上限規制を挙げないわけにはいかないでしょう。以前「残業規制はむしろ迷惑」と考える人々の事情で述べましたが、社員の健康管理の問題を踏まえて労働時間の絶対上限を設けるということと、会社施設・資料を使ってスキルアップしたいと考える若者のキャリアプランを両立させるための議論が重要です。

労基法改正の中には数年前から改正が予定されていたものもいくつかあります。中小企業においては、月60時間超の割増賃金が5割増しになります。これは、賃金原資に限りのある中小企業にとっては、インパクトの強い話です。

また、有給休暇5日の時季指定義務も盛り込まれています。これは、有給休暇の中から5日、社員が有休を使う時季を会社が定めよとするものです。違反した場合には罰則がありますので、企業としては有休取得時季を指定せざるをえません。これは日本の有給取得率が低いことから設けられた規定ですが、実務的には年末年始やお盆の休みにくっつける形で取得させるケースが多いと想定されますので、取りたい時期に有給が取れないという反発もあるところでしょう。

成果を評価する仕組みをどのように構築するか

また、「柔軟な働き方」を実現するために弾力的な労働時間制度の拡充を目指す改正もあります。フレックスタイム制の精算期間が3カ月まで延長可能になること、企画業務型裁量労働に提案型営業などを追加すること、専門・企画業務型裁量労働制のいずれも、始業・終業時刻の決定に関する裁量が含まれることを明記したうえで健康福祉確保措置を追加し、指針により少なくとも3年の経験が必要とする、といった点です。

裁量労働制は、時間に縛られない働き方をしている場合に時間比例ではない賃金支払いを促進する制度であるため有用ですが、一部の企業がこれを悪用して「残業代を払わなくてもいい制度」だとして安易に拡大適用している点に問題があります。

この問題の本質は、高度プロフェッショナル制度とも共通しますが、時間比例で報酬を支払う働き方はあくまで工場労働者向けであるということです。ホワイトカラーについては時間をかければかけるほど生産性改善に寄与するとは限らず、成果を評価する仕組みをどのように構築するかは大きな課題です。

労基法は工場法という明治時代の法律からずっと、「1時間残業するごとに割増賃金を支払うべき」という規制になっていますので、これでは企業慣行も変わりにくいでしょう。安易な濫用を防ぐことは大前提ですが、時間に縛られず生産性の高い働き方を評価する仕組みを、人事制度・法律の両面から後押しすることが求められています。

さらに、改正が予定されている法律の中に、雇用対策法というものがありますが、これはほとんどの人に知られていません。それは当然で、国の雇用政策に関する基本方針を定めた法律であるため、関心を持ちようがないからです。しかし、今回の働き方改革法案において、雇用対策法は働き方改革の理念を反映した基本法として位置づけられており、誰も知らないところで静かに重要な改正がなされようとしています。

改正内容を見てみますと、基本理念として「労働者は、その職務の内容及び当該職務に必要な能力等の内容が明らかにされ、並びにそれらを踏まえた評価方法に即した能力等の公正な評価及び当該評価に基づく処遇その他の措置が効果的に実施されることにより、その職業の安定及び職業生活の充実が図られるように配慮されるものとすること」とあります(下線筆者)。

この内容はこれまでの日本型雇用に対して大きな変革を迫るものです。日本型雇用の特徴は、職務が特定されていないという点でした。会社勤めをしていると、休んだ隣の席の人の仕事を手伝わされた、という場面に出くわした人も多いでしょう。そして、会社のメンバーになっている正社員とメンバー外である非正規雇用の給与体系は違うことも前提になっていました。政府の方針として、職務の内容や職務に必要な能力を明らかにしたうえで、「公正な評価」を行うことを明確にしていることから、日本型雇用の大変革をもくろむ意気込みが伝わってきます。

あなたの給料はなぜ高いか、答えられますか?

また、「パートタイム労働法」はその名称ごと改正され、「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理改善等に関する法律」になります。つまり、「パート+有期雇用」の法律となり、いわば非正規雇用に関する規制をまとめた「非正規法」といった性格になります(以下、「非正規法」といいます)。

改正非正規法は、正社員と非正規の待遇差について、不合理な差を設けてはならないという従前の規定に加え、非正規雇用の賃金を決定する際には、ゞ般各睛董↓∪嫻ぁ↓成果、ぐ嬪漾↓デ塾蓮↓Ψ亳海鮃洋犬靴督其發魴萃蠅垢襪海箸箸靴討い泙后また、正社員と非正規の待遇差については入社時や要求時に説明することを企業に義務づけるようです。

そうすると、政府が「非正規雇用を一掃する」と述べるように、今後は「非正規だから」給料が安い、「正社員だから」給料が高いということではなく、どんな仕事をしているか、どんな能力・経験があるかが重要になってくることは間違いありません。裁判実務も、日本郵政事件(東京地裁2017年9月14日判決)など、変わり始めています。遠くないうちに最高裁判決も出るでしょう。そのとき問題となるのは、「正社員の給料はなぜ高いか?」ということです。「ドキッ」としたあなた、あなたの給料はなぜ高いか、答えられますか?

少子高齢化、労働力人口の減少という未来は、もはや確定した「事実」です。これまでの昭和スタイルの採用・配置・残業のあり方は通用しないことは明らか。今後重要になるのは、これまで新卒一括採用の壁に阻まれて採用されてこなかった人、社内に居場所がなくなり退職せざるをえなかった人、会社には残ったが戦力にならなかった人といった多様な人材が、それぞれの力を発揮するにはどうしたらよいかということです。また、どうしたら少ない人数で生産性を上げ、これまで以上の成果を出せるかを真剣に考える必要があります。

そのとき、労働法はどうあるべきか。これまでの高度経済成長モデルの終身雇用・年功序列を前提とした法律でよいのか、改革すべきか。時代は先行きに不透明感が漂い始めていますが、「どう働くか」という点も大事な選挙の争点です。一時の「風」ではなく、本質的な議論のうえに日本型雇用の未来があってほしいと切に願っています。