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もくじ

ー 量産車メーカーがぶつかる「大きな壁
ー 受け継いだルノー5GTターボの精神
ー 「座を明け渡せ、新しいチャンピオンの登場だ」
ー クリオ・ウィリアムズの内装 どんな感じ?
ー 当時のレースを振り返る
ー いま、クリオ・ウィリアズム1を手に入れるなら
ー ルノー・クリオ・ウィリアムズのスペック

量産車メーカーがぶつかる「大きな壁」

量産車メーカーが性能至上のモータースポーツ界に挑むと、はなから大きな壁にぶつかる。「飯の種」になるモデルを大量に売りさばいて、小国が羨むような年商を稼ぐ超大手メーカーになれても、その反面、たかが量産車メーカーと軽く見られることもあるのだ。そのメーカーのエンブレムがフロントに存在するだけで、誰も大きな期待を寄せて熱烈に語ってはくれない。

しかし、知名度の高さゆえに、スポーツカー専門メーカーでは考えられない身近なイメージをその製品に与えることもできる。そして、量産車の高性能バージョンを手にした数十万人、ときには数百万人ものユーザーを、モータースポーツという夢の世界にのめり込ませるのだ。

メーカーは控え目に価格を上乗せして高性能モデルを売り出し、ツーリングカーレースやワールド・ラリー・チャンピオンシップといったレースに送り込む。少しでも良い成績を収めれば、モータースポーツ界の名声がまた新たな売上をもたらす。

ルノー・クリオ・ウィリアムズの場合、F1での勝利に預かって、ただその名前を付けるだけで良かった。このクルマは、ナイジェル・マンセルがドライバーズ・チャンピオンシップを、またウィリアムズがルノーのエンジンを載せたマシンでコンストラクターズ・チャンピオンシップを獲得した輝かしいシーズンの翌年に当たる1993年に発売された。

公正を期すために断っておくが、こうした手管を利用したメーカーは決してルノーが初めてではない。何十年も前からF1やラリー、あるいはル・マンでの優勝が容赦なく商業目的に利用されてきた。

しかし、ウィリアズムチームのエンジニアがこのクルマになんのインプットも提供していないことが大きな批判を招く恐れもあった。実際、1993年7月号のMotor Sport誌には、「薄っぺらなマーケティングの策略としてテストそのものを止めてしまっても良かった」と記されている。ただし、「とても楽しめるクルマだったから」ともレポートされている。

それも意外なことではない。ルノーには、ドーフィン・ゴルディーニにまで遡る、乗り手の血を騒がせるロードカーを作ってきた歴史があり、このクルマがその当時の最新バージョンだからだ。

受け継いだルノー5GTターボの精神

開発は、1976年のアルピーヌとゴルディーニの統合に伴い設置されたルノー・スポールの有能なエンジニア、パトリック・ランドンが担当した。

ルノー・スポールが手掛けたクルマには、猛烈なミドエンジンのルノー5ターボがあるが、クリオ・ウィリアムズは、生産中止が決まったルノー5GTターボの精神を受け継いだモデルだ。またグループNのホモロゲーションを得るために開発されたクルマでもある。

クリオ16Vに搭載した1.8ℓDOHCエンジンのF7Pをボアアップして、レギュレーションの規制いっぱいの2ℓまで拡大。加えて、新設計のクランクシャフト、ピストン、断面形状を変更したカムシャフトとコンロッドを採用。アルミ合金製のシリンダーヘッドは、樹脂コーティングによりシーリングを強化し(皮肉なことに、これはF1で開発された技術だ)、標準装備のマニホールドの代わりに4-1のマニホールドを取り付けた。そのほかにインレットバルブの口径拡大、オイルサージを防ぐ改良型バッフルプレートの装備、三電極スパークプラグという改良を施している。

これによってパワーが13ps強化され150psまで向上したが、それ以上にトルクが強化され、わずか2500rpmで最大トルク17.8kg-mの85%を発揮するようになった。また、このパワーアップに対応するため、ルノー・スポールは剛性を高めたクロースレシオのJC5ギアボックスを用意した。

サスペンションにも同じように手が加えられ、レーシングカーのクリオカップと同じ強化クロスメンバーを採用したほか、フロントのロアウィッシュボーンを交換し、大容量のダンパー、厚型トーションバーを追加。ドライブシャフトは長いものを使用し、トレッドは34mm拡大された。しかし、正確なハンドリングを生み出した要因は、ミシュランの協力を得て185/55RパイロットHXを15インチのスピードライン製アルミ合金ホイールに履かせたことだろう。

インテリアは、スポーツバケットシートの採用と細部の変更以外、ほぼ標準のままだ。ただし、ダッシュボードにはエディション番号を記したプレートが取り付けられている。車両重量は1000kgをやや下回り、サンルーフ、カーラジオ、ABSブレーキ等はオプションだが、ABSは仕様で指定することもできた。

「座を明け渡せ、新しいチャンピオンの登場だ」

パワーは16Vより少しアップしただけだが、このクリオ・ウィリアムズは瞬く間に賞賛を得ることになる。先述のMotor Sport誌のロードテストには、「ワールドクラスの乗り心地とハンドリング。グリップは強大だが、リミット内の安全性も維持されている」とレポートされた。

強大なパワーとクラスをリードするダイナミクス性能を持つハッチバックであることに間違いはない。もはやこのクルマはエンジンや装備面のモデルチェンジではなく、純粋に性能を高めるためにリエンジニアリングされたモデルであることは明らかだ。

「座を明け渡せ、新しいチャンピオンの登場だ」というルノーの明確なメッセージがはっきりと伝わってくる。

今回取り上げるクルマは、英国に残っていた記念車両の1台で、ダッシュボードのプレートには0001と記されている。走行距離はわずか4000kmほどで、自動車雑誌の取材や特別なイベントにしか使用されない。

元々博物館への展示用にフランク・ウィリアムズ卿に納車されたもので、ウィリアムズが博物館のコレクションを売却した2006年にルノーへ返却された。クリオにしろ、ディノにしろ、量産モデルの第1号に乗るのはどこか緊張してしまう。もちろんそれは、絶対に傷つけてはならないという責任感のせいでもあろう。

ほかのすべてのクリオ・ウィリアムズと同じように、メタリックブルーのボディは傷ひとつなく、まるで新車に見える。実際に、走行距離を考えると、新車といっても良いくらいだ。このカラーリングが、フルビアのようなゴールドのアルミホイールや極めてシンプルなルノー・ダイヤモンドのエンブレムと美しいコントラストを織りなす。

フロントとリアのフェンダーはドアからデリケートに張り出し、繊細に男らしさを演出している。ボンネット上には、掃除機のアタッチメントのような形のエアインテークがあり、そうした印象が一層強まる。ルノーがF1での勝利を祝っているとしたら、かなり慎みのある祝い方といえるだろう。

クリオ・ウィリアムズの内装 どんな感じ?

インテリアについても同じで、ブルーのテーマカラーでコーディネートされたシートベルト、計器類、シフトノブ、カーペット、シートに刺繍された「W」の文字にも活かされている。シートはぱっと見ると、蛇皮仕上げなのかと思ってしまう。

計器を収めたプラスティック製のメーターナセルは、5GTターボに似ているが、雰囲気や品質はこちらの方が勝っている。インテリアパッケージの最後を飾るステアリングホイールは、少し陳腐なルノー19 16Vの3本スポーク。インテリアは快適だが、なにか特別なものを感じさせるタイプではない。

このクルマには、ドライバーズシートに腰を下ろした瞬間に秘めた実力を感じさせるものがある。ルノーは、どうすればサポートに優れたシートを作れるか良く知っているのだ。サポート性能を侮るのはたやすいが、それは単にドライブ中のことだけでなく、乗った瞬間にドライバーとクルマを結びつける働きもある。

ステアリングホイールとペダルの配置は最適だが、シートはやや左寄りに感じる。ただし、気になるのは最初だけだ。むしろ、ワイパーを隠すボンネットの窪みがないことに少しガッカリするかもしれない。視覚的配慮がなく、ワイパーがむき出しなのは興ざめだが、どっちにしろ作動させればワイパーは丸見えになるものだ。

低速域では、標準のクリオと大して変わりはない。サスペンションはやや固いが、頭の中で脳が飛び回るほどではないし、エグゾーストも室内に響いてこない。だが、ステアリングは極めてダイレクトだ。特に操作しているときに強くそれを感じる。

スロットルを踏み込むと、エンジンの立ち上がりの良さもよくわかるし、レスポンスが俊敏で、レブカウンターの針はすぐに飛び上がっていく。切れのいいギアボックスもそうした印象を強めているはずだ。

郊外のワインディングに出ると、このクルマの特別な資質がすぐに明らかになる。プジョー205GTiが過去10年間に示していた方向性そのもので、シャシーの仕立てやサスペンション設定は絶品だ。だがこちらはそれを数段高めたような素晴らしいハンドリングを示す。

コーナーに近づき、鼻先をインに突っ込み、アクセルを踏み込むと、一定の力でしっかりと路面をグリップするのが感じられる。自分のコーナリングの見事さに惚れ惚れして、もっと速度を上げて何度も往復したくなる。

当時のレースを振り返る

1990年代の高性能ハッチバックのデータと比較すると、クリオ・ウィリアムズは決して強烈とはいえないが、正確無比な走りでほかの猛者を凌駕している。凹凸の激しい道やカーブの連続でも、このクルマは安定した走りを崩さない。

スロットルを踏み込み過ぎるとトルクステアが見られるものの、徐々に適切な踏み込み方がわかってくる。誰しもサーキットを疾走させて、このクルマの限界を極めたいという強い気持ちに駆られるだろう。それほどクリオ・ウィリアムズは素晴らしい。

クルマ好きたちが飛びつき、限定数の3500台がたちまちソールドアウトになったのも、きっとそんな風に考えたからだろう。そのうえ、ウィリアムズ・ルノーのF1チームはその頃、絶好調だった。

1993年にアラン・プロスト、1996年にはデイモン・ヒルがチャンピオンシップに輝き、ルノーは93年、94年、96年にコンストラクターズ・チャンピオンシップを獲得したため、この両社のパートナーシップは時のブランドとして羨望の的となった。

しかし、ラリーバージョンのクリオ・ウィリアムズは、4WDとターボで装備したライバルに歯が立たず、オフロードで成績を挙げることがなかった。

1995年のBTCCでは、ウィリアムズ・ツーリングカー・エンジニアリングがルノーのチームを引き継ぎ、初戦でマニュファクチャラーズ・チャンピオンシップを獲得した。このレースに出場したルノー・ラグナには、F7Rエンジンを大幅にチューンしたソデモ・バージョンが搭載されており、このこともクリオ・ウィリアムズの名声を高めた。

ルノーはまずラグナの生産台数を5400台に拡大し、その後、クリオ・ウィリアズム2、さらにクリオ・ウィリアズム3を6700台販売した。ホモロゲーション用の限定スペシャル・モデルを買ったつもりのファンはがっかりしたようだが、現在の自分たちにとってはこの2と3の販売は歓迎すべきところだ。

ノッティンガムのルノー・ウィリアムズの専門店、プリマレーシングのオーナー、トニー・ハートは、「確かにマーケティング目的の命名だろうが、ルノー5の初期モデルを進化させただけにしては、ハンドリングに優れ、本当に乗って楽しいクルマだね。あの頃、多くのルノー・ウィリアムズにはさらに改良の手を加えられ、面白いものもできたけれど、今では標準仕様がコレクターズカーとして求められているんだ。コンディションの良いものを見つけるのは大変だよ」と話している。

実際に買うとしたら、相場はどれくらいだろうか。

いま、クリオ・ウィリアズム1を手に入れるなら

調子の良いクリオ・ウィリアズム1を手に入れるなら、£5,000〜6,000(90〜110万円)は必要だ。走れば良いというなら、もっと安く手に入るが、コンディションが最上で走行距離も少ないとなると、かなりの出費を強いられる。

「シリーズ2と3はダッシュボートにプレートがなく、初期モデルよりコレクションとしての価値が下がるんだ。どちらもコンディションの良いものが£4,500(80万円)程度で手に入るけどね」とハートは言う。

クリオ・ウィリアズムは頑丈であり、ボディシェルも強固だが、リアのホイールアーチとシルの底は腐食しやすい。

「リアウインドウのクォーターパネルから水が入り込むので、その辺をよくチェックした方がいい。サビていればすぐ分かるから、問題があれば見ただけで判断できるよ」

重要なパーツの大半は今でも手に入るが、純正のホースや右ハンドルのパワーステアリングラックはもはや入手できない。

ルノーは1996年にこのクルマの生産を中止した。ジャック・ヴィルヌーヴの97年のF1ドライバーズ・チャンピオンシップと、同年のアラン・メニューのBTTCチャンピオンシップが、ルノー・ウィリアムズのコンビ解消前の最後の勝利となった。

レース界におけるこうした功績によってルノーはフランスの他の実用車メーカーよりも上位に立つ存在となり、その成果は歴史に刻まれ、クリオ・ウィリアズムの名はいまだにインパクトを持っている。

このクルマはかつての栄光の日々を思い起こさせるロードカーであり、その登場以来、モータースポーツファンはルノーのすべての高性能モデルに敬意を示している。ルノー・スポールはつましいモデルであったクリオをリエンジニアリングして、弾けるほどホットなクルマに仕立て上げた。

今日でも、クリオ・ウィリアムズの優れた性能とハンドリングとの巧みなブレンドは、色あせない魅力を持っている。エクステリアが控え目なため、大半の自動車ファンが追い求めるモデルではないが、クルマ通ならば誰でもほほえみを浮かべてしまうほど、完璧なハッチバックなのだ。

ルノー・クリオ・ウィリアムズのスペック

■生産期間 1993〜1996年 
■生産台数 12100台 
■最高速度 216km/h 
■0-97km/h加速 7.7秒 
■乾燥重量 990kg 
■エンジン 直列4気筒1998ccガソリン 
■最高出力 150ps/6100rpm 
■最大トルク 17.8kg-m/4500rpm 
■ギアボックス 5速マニュアル