カタルーニャ州独立を問う住民選挙では、カタルーニャ州住民とスペイン警察の間で衝突が起きた(写真:David Gonzalez/ロイター)

10月1日の住民投票を受けて、週明けにも独立宣言するとみられていたが、スペイン政府との協議の姿勢も見せているカタルーニャ州自治州政府。独立を問う住民投票では、スペイン国家警察とグアルディア・シビル(治安警察)が投票所を封鎖し、投票箱を押収しようとして、市民とモミ合いとなり、その映像が世界中で報道された。「暴力を振るう警官」として、治安警察と国家警察は世界で批判された。

が、なぜこんな事態に発展してしまったのかは、日本のメディアにおいてあまり説明されていない。

そもそも、スペイン政府は今回の住民投票を当初から「違憲」だと判断しており、カタルーニャ州政府もこれを認識していた。スペイン憲法155条に「国家の統一を損なう自治州の政治活動は禁止する」という内容の規定があるが、これは住民投票そのものを規定するものではない。が、今回の住民投票では、州民にカタルーニャの独立を望むか否かを問うた。これを、スペイン憲法裁判所は155条の規定に背くとして違憲の判断を下していたのである。

カタルーニャ州自治警察も一緒に行動するはずだった

スペイン政府は、何度も住民投票の停止を要請してきた。しかし、2つの独立支持政党が連携し、それに過激左派が加わったカタルーニャ政権は過半数の議席を持ち、何が何でも住民投票を行うというかたくなな姿勢を維持。そこで、スペイン政府は最後の手段として、投票所の封鎖と投票箱の押収を決定したわけである。これに先駆け、住民投票の前後から、スペイン政府はカタルーニャ州の治安と安全を考慮して、国家警察と治安警察をスペイン各地から招集していた。

歴史的に特異な地域であるカタルーニャとバスク地方には、スペインがフランコ独裁政権から民主化に移行した際に、地元の警察が設置された。バスク州自治警察と、カタルーニャ州自治警察である。そして、今回の住民投票では、このカタルーニャ自治州警察と、国家警察、治安警察が連携して任務を行うことになっていた。この3つを統括する指令本部も設置され、その指揮官には、治安警察の大尉の1人が就いた。

このスキームでは、住民投票の日の早朝に、州自治警察が投票所を封鎖する役割にあたり、国家警察と治安警察はその背後から支援することになっていた。ところが、州自治警察は1日朝、投票を待つ市民の多さに驚き、投票所を封鎖せずに退去。それに驚いた指令本部は、急きょプランを変更し、国家警察と治安警察が投票所を封鎖し、投票箱を押収することになったのである。

2つの警察が投票所に到着したときには、すでに大勢の市民が投票を待っていた。その中に割り込んで投票箱を押収するのは至難の業で、このときに警察と市民が衝突してしまった。州自治警察が、任務を果たしていれば、警察と市民が衝突するような事態には至らなかったかもしれない。

カタルーニャ州自治警察は、自治警察ではあるが、警察として活動するときには、スペイン憲法に誓約することが義務づけられている。それだけに、内務省の指令本部は最後の最後まで州自治警察を信頼していた。これに対して、州自治警察は投票箱を押収したとしているが、それは問題があまり起きなそうな投票所のことだった。

一方、悪者になってしまったのは国家警察と治安警察だ。彼らは、投票所2315カ所のうち、440カ所から投票箱を押収したのだが、そのために支払った代償はあまりに大きかった。

「人殺し」「ファシスト」と呼ばれる子どもたち

最も大きな被害を受けたのは、カタルーニャ州に駐在している国家警察と治安警察の家族で、特に子どもたちは学校で差別を受けるようになっているという。たとえば、ある15歳の子どもは、クラスで教師が今回、国家警察と治安警察が暴力を振るったと非難した際に、「すべての警察がそのような暴力を振るったかのように話すのはやめてほしい」と訴えたところ、その教師から差別されるようになったという。学校で「人殺し」「ファシスト」と呼ばれる例も出ており、登校できなくなった子もいるようだ。投票所で起きた映像が教室で流され、それを生徒たちが批判するのを見て我慢できず、退室した子もいるという。

父親が治安警察に勤める13歳の女子は、次のような内容の手紙をクラスメートに送った。「今回起きていることは私のお父さんの罪ではありません。私のお父さんは単に与えられた任務を果たしているだけです。それは国家警察と州警察も同じことです。責任は警官にあるのではありません。政治家にあるのです」。

「私にはこれを受け入れることがなかなかできません。ここは私が生まれ育ってきたところでもあるからです。私がスペインの首相であるかのような責任を負わせないでほしい。なぜなら今起きていることについて、私には責任がないからです。お願いだから、どんなことがあっても、これからも今までと同じように付き合ってほしい」


カタルーニャ自治州のプチデモン首相。テレビ演説を行い、中央政府との対立打開に向けて調停を求める考えを示した。提供写真(写真:ロイター/Catalan Goverment/Jordi Bedmar)

なんとあの場にいた警察犬ということだけで、差別を受ける例も出ているという。飼い犬を紹介する集会があったときに、2匹の警察犬を引き取った家族が参加を断られたそうだ。

もちろん、警察官たちも影響を受けている。

バルセロナとその周辺に宿泊している国家警察と治安警察500人に対して、ホテルから出てほしいという要望が出ている。警察官は9月中旬から、レウス、カレーリャ、ピネダという3都市に滞在していたが、ホテルがある自治体が、ホテルの経営者に警官を追い出すよう要求しているのである。こうした中、カレリャのホテルに宿泊していた警官は、ホテルに迷惑をかけたくないとして、軍の宿舎に移動している。

バルセロナ港とタラゴナ港に停泊している客船に宿泊している警官は狭い部屋であるが追い出されることはない。しかし、港湾労働者から彼らの客船へのサービスは拒否されている。

日本での報道だけでは実態はわからない

こうした事情を知った一部市民から、警官に空いている家や部屋を提供したいという申し出も出ているという。カタルーニャには現在、独立派からの嫌がらせに耐えながら暮らしている市民も少なからずいるのである。そして、彼らを守るのも、国家警察や治安警察の役割なのである。

スペインの歴史や文化は日本人が考えている以上に複雑かつ多様で、今回の件に関しても、スペイン国外でネットやテレビだけですべての情報を把握するのは容易なことではない。日本を含めた多くの国で、住民投票日に警官と市民が衝突した映像ばかりが流れることに懸念を抱いている。大事なのは、なぜカタルーニャ州自治政府が独立を求め、それをスペイン政府が反対しているか、そして、なぜこうした衝突が今回起こってしまったのかを、理解することである。