ひざをついて抗議するサンフランシスコ・フォーティナイナーズのコリン・キャパニック選手(中央)。黒人選手たちが活躍するプロスポーツ界にケンカを売ったトランプ大統領の発言は、日本で報道されるよりもはるかに深刻だ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

アメリカのラスベガスで、史上最悪の銃乱射事件が起きてしまいました。(代表的な日本の記事はこちら)。IS(いわゆるイスラム国)がすかさず犯行声明を出しており、関連も取りざたされますが、それよりなにより現場からは10丁以上の「改造軍用銃」が押収されています。ビルの32階から打ちまくっていることを考えても、単なるアサルトライフルやピストルのレベルをはるかに超えた殺傷力の高い銃が使われていることは明らかです。

「こんなものが簡単に買えてしまう国」ということがアメリカに問われているのは、もはや明らかではないでしょうか。ドナルド・トランプ大統領はいち早く声明を出し「愛する人を失った何百人の人が悲しみに暮れている。彼らの痛みと喪失感は計り知れない。この悲しみと恐怖の時に、アメリカ国民は1つになろう」と呼びかけた。また、哀悼の意を示すため、半旗を掲げるよう求めた……」ということですが、今回の事件はトランプ大統領にさらに大きな課題を残した、といっていいと思います。

お手軽に銃を買えるアメリカは、ハードルが低すぎる


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というのもトランプ大統領は全米ライフル協会から全面的な支持を受けており、政策としても銃の所持には賛成、銃規制をしようとしたバラク・オバマ大統領とは180度方針が違います。

アメリカに住むとわかりますが、いわゆる護身用のピストルなどよりもすごい、『ゴルゴ13』でおなじみのアーマライトなどの軍用銃がそれこそスーパーマーケットのようなところでいとも簡単に買えてしまう。もちろんオンラインでも(!)、何の手間もなく買えてしまうのです(参考:Cabela’sのHP)。

このお手軽さは日本人から見ると驚き以外の何物でもなく、スーパーの買い物かごに普通に機関銃の銃弾を入れてレジに行くアメリカ人を見ていると不思議な気持ちになるものです。まして、5〜6歳の子どもに銃を扱わせる親も数多くいて、銃に対するハードルは極めて低いのがわかります。私が主に仕事をしているシアトル(ワシントン州)近郊などでは、銃を嫌がる親がかなり多いのですが、それでもガンショップはたくさんありますので、全米で見るとどれだけの銃器が売られ、家庭に保管されているのかわかったものではありません。

「自衛のため」と言いますが、これだけ簡単に銃(しかも軍用銃)が手に入るとなると、おかしなやつが持つリスクも非常に高くなることは明らかでしょう(余談ですが、外国人旅行者でもその気になれば銃を買える州もあります)。

不法労働者を取り締まっているよりも、銃の所持そのものを規制するほうが先ではないか、という議論は昔からアメリカでもあり、今回の事件は再びそういう議論を巻き起こすことになるでしょう。トランプ大統領が全米ライフル協会との関係から引き続き銃の所持をフリーに認めるつもりなのか? 新たな問題がまた噴出した、と言っていいでしょう。

誤解している方が多いのですが、元来アメリカ憲法で保障されている銃の所持は自衛のためではありません。あくまでもふざけた政府が出てきたときに国民がその政府を力ずくで倒す手段としての銃の保持が認められているので、ここは建国の根幹にかかわる部分だけにそう単純な話ではないのです。ただ、こうなってくるとさまざまな規制が必要なことはもう明らかで、トランプ大統領の指導力が再び問われます。

中身のない減税案を出してきたトランプ大統領

話は変わりますが、トランプ大統領が減税案を示しました。(参考のために、一応「全文」を載せておきますが、正直中身は見る価値がありません)。

こんなものが、実現可能なのかどうか、まったく意味不明で、すでに共和党内でも意見が紛糾しています。ただし……大統領就任からすでに9カ月、何1つ法案を通しておらず、またそれらしいものも出していない大統領からすると、初めて「ちゃんと形になったものが出てきた」、ということは確かです。内容はともかくも、とにかく形になったものが初めて出てきた(それはそれで、実に情けない話ではありますが……)。

さらに、これまでのようなツイッター上のつぶやきの延長線上にあるようなものを、唐突に出してきたわけではなく、一応 共和党の「Big 6」 といわれる関係者の目を通してまとまってきた、という点でも画期的といってもいいかもしれません。Big 6という言葉は、日本のメディアではまだ浸透していませんが、アメリカではごく普通に使われている用語なので、読者の皆さんはご存じであったほうがいいと思います。ここでいうBig 6とは、ポール・ライアン下院議長、下院歳入委員会のケビン・ブレイディ委員長、ミッチ・マコネル上院院内総務、上院財政委員会のオリン・ハッチ委員長、スティーブン・ムニューシン財務長官、そして国家経済会議(NEC)のゲーリー・コーン委員長の6人、となります。

まあ今回の場合は、重要なメンバーのコンセンサスは取れている、という点が重要で、これまでのものとはちょっと違う、ということになりましょう。しかしながら、いわゆる財政緊縮の原理主義派といわれるフリーダムコーカス(自由議員連盟)の連中は1人も入っておらず、彼らだけでも40人近くいることを考えれば、オバマケア廃止法案と同様に葬り去られる可能性は低くない。もし、この法案が成立しなければそれこそ「何もできない大統領=口先男」の汚名を着せられ、早くもレームダック化する可能性すらあるので、この法案の行方は極めて重要です。

さて、市場に目を移してみても、危ない要素が出てきています。FRB(米連邦準備制度理事会)は利上げ、バランスシートの縮小、と明確に方針を出していますが、市場は今のところまったく動揺しておらず、株価は連日市場最高値を更新しております。

しかし、これはジャネット・イエレン議長の絶妙な手綱さばきを市場が信頼していればこそでありまして、一方でイエレン議長は減税そのものに反対です。また、そのほかの政策(たとえば移民制限)についても反対を表明しており、トランプ大統領は次期議長には指名しない、と思われます。イエレン議長不在の市場がはたして今のように落ち着いていられるのかどうか、これもまったく不明でしょう。その意味ではトランプ政権はいよいよ正念場を迎えたといっていいかもしれません。

正念場、ということからいうと、トランプ大統領とNFL(ナショナル・フットボールリーグ)の問題も日本で報道されるよりも、アメリカでははるかに深刻で、大事件になりつつあります。

ことは昨年、NFLで国歌斉唱の際に起立を拒んだコリン・キャパニック選手の行為に端を発します。キャパニックはアフリカ系アメリカ人が白人警官に射殺される事件が立て続けに起こった背景に人種差別があると判断し、それに抗議するために国歌斉唱の際に片ひざをつきました。彼の主張は人種差別がはびこるこの国の国歌は敬意に値しないというもので、それに賛同して同様の行為を行う選手が少なからずいたのです。

安倍首相が力士に向かって、同じように語ったら?

この行為をおかしい、とした意見もアメリカではかなりあったのですが、あくまでも個人的な問題として、いわゆる不問に付す形でNFLオーナーたちはやり過ごしてきました。ところがまた、「トランプ大魔王」が火をつけてしまい、9月22日、アラバマ州ハンツビルで行われた政治集会で、国歌斉唱の際に起立を拒むNFL選手をやり玉に挙げ、「オーナーは彼らをクビにすべきだ」と発言したのです。これは大きなニュースとなり、日本でも広く報道されたわけですが、その際にトランプ大統領は言うに事欠き、NFL選手に対し「Son of a bitch!」と呼んだのです。

これはご存じのように、最上級の侮辱語でありまして、直訳すれば「売春婦の息子め!」となるので日本語ではイマイチ強烈感がないのですが、アメリカ人に向かってこの言葉を発すれば、発砲されても正当防衛になるくらいの侮辱語です。当然テレビでも規制されていますし、いわゆる「ピー音」を被せる言葉の1つです。それを、一国の大統領が、しかも公衆の面前で使い、そのターゲットがNFL選手なわけですから、これはもう、タダで収まるはずもありません。

アメリカンフットボールはアメリカの国技と言っていいもので、その選手を最大級の侮辱語で罵ったわけで、この問題も間違いなく、今後尾を引くものと思われます(たとえば安倍晋三首相が横綱の白鵬に「このデブが!……」と言ったら間違いなく退陣問題になるんじゃないでしょうかね)。ということで、迷走する「トランプ丸」、もう毎週でもトランプ関連記事は書けそうな勢いです。困ったもんであります。

いよいよやってまいりました! 秋の競馬シーズン本格到来であります。10月1日には中山競馬場に行きましたが、すばらしい好天に恵まれ、これぞ競馬観戦!という時間を満喫してきました。早速G1スプリンターズステークスがあったのですが、まあ、勝ったレッドファルクスが強かった、というより、ひたすらミルコ・デムーロ騎手のはまりまくった騎乗が印象に残るレースでした。

フランスの凱旋門賞に出張していたクリストフ・ルメール騎手と合わせ、秋もこの「デムルメ」馬券は間違いなく無視できない、と言えるでしょう。馬7割、騎手3割といわれますが、彼らを見ていると、半分は騎手の実力のような気さえします。そのくらい信頼できる。追い出しのタイミングといい、追い方といい、もうちょっと別次元なんじゃないでしょうかね。

毎日王冠は「今のところ」ソウルスターリング1点で

さて、週末は毎日王冠(G2、10月8日、東京競馬場11R)。距離は1800メートル。G2ながら秋の天皇賞のステップレースとなることから、強豪がずらりとそろいます。

注目はなんといってもオークス馬ソウルスターリング。3歳牝馬で勝つと61年ぶり(1956年のフエアマンナ以来)なのですが、古馬勢とは最大5キロの斤量差があります。これは古馬勢にとって相当なハンディとなり、侮れません。

春に絶不調だった昨年のダービー馬マカヒキ(牡4歳)も参戦。本当に早熟だっただけでこのままフェードアウトしてしまうのか、実はひと夏超え大成長をしているのか……見極めるレースとしてはとても重要です。マカヒキの将来を占うレースと言っても、過言ではありません。

そして堂々のG1馬サトノアラジンも登場します。斤量58キロを背負わされ、ソウルスターリングとはまさに5キロ差がつくわけですが、跳ね返すことができるのか。もし勝てればこれは本物だ!ということになりますが、もともとはいわゆるスプリンター系の馬で1800メートルという距離が実に微妙。

まさに一長一短がありますが、わたくしは斤量が有利かつ距離もぴったりのソウルスターリング1点勝負、でいきたいと思っています〈この選択はあくまで10月5日現在です(笑)!〉