僕が、サプールを知ったのは、2013年だった。カンヌで行われる世界最大の広告祭Cannes LionsでGuinessビールのTVCMを観た時の衝撃は、今でもはっきりと覚えている。そこには、ビビッドでカラフルなファッションに身を包んだ黒人たちの優雅な姿が映し出されていた。

はじめは、広告のためにつくられたフィクションだと勘違いした。しかし、サプールはアフリカのコンゴで90年以上も続く独自の文化だということを知った。同国は、今でも内戦が続いていて、世界最貧国の一つと言われている。しかし、世界一お洒落なジェントルマンたちは、1ヶ月の収入をはるかに上回る高級なスーツを身に纏う。そのギャップに驚かされた。

そして、それらのファッションが「服が汚れるから戦わない」という平和的なメッセージだと聞いて、再び驚かされたのだったー。

翻弄される歴史の中で
平和の象徴となったサプール

現在、コンゴを名乗る国は二つある。一つは、ブラザビルを首都とするコンゴ共和国。もう一つは、キンシャサを首都とするコンゴ民主共和国だ。キンシャサといえば、あのモハメド・アリとジョージ・フォアマンがアフリカ大陸で初のヘビー級タイトルマッチを行い、アリが劇的な逆転KOをおさめた「キンシャサの奇跡」の舞台だ。

1880年代以降、ヨーロッパ列強によるアフリカ諸国の植民地争いに巻き込まれたコンゴ。人々は暴力反対を訴え、平和を望む声が増えていくことになる。

サプールの発祥の諸説は様々だが、有力なのは、社会活動家であったアンドレ・マツワが、フランスから戻る際に、パリのジェントルマンの装いをしていたことで、コンゴ人たちの賞賛を浴び、自分たちの平和信仰を「ファッション」として表現することになったという説だ。

その後、サプールはコンゴの平和の象徴となり、コンゴ人たちの英雄的な存在として定着したということだ。

エレガントな装いは
ジェントルマンとしての生き様

サプールとは、仏語の「Société」「ambianceurs」「personnes 」「élégantes」の頭文字をつなげた造語。日本語訳は、「お洒落で優雅な紳士協定」「エレガントで愉快な仲間たちの会」などいくつか訳がある模様。意訳をすれば「世界一お洒落で平和を愛するジェントルマン」ということになるようだ。

ここで、一つ大きな疑問が湧いてくる。平均月収約3万円ほどの稼ぎで、どうやって20万円もの超高価なスーツを手に入れられるのだろうか?

僕は、写真展覧会を開催している会場に来ていたサプールの一人であるムイエンゴ・ダニエル氏(通称セヴラン)を見つけて、直接、質問をしてみた。同氏によると、サプールの多くは洋服を買うために、長時間の労働をしているとのことだった。しかも、コンゴは月賦払いがあるが、全額入金しないと服が手に入らないシステムなのだという。そして、服を買うために仕事を見つける人も多いらしい。

そして、外見に気を配る以上に大切なのは、ジェントルマンでなければならないとのことだった。「紳士としての教養や振る舞いを身につけ、何よりも精神的に豊かであることが大切なのさ」ムイエンゴ氏の穏やかな表情から溢れた深い言葉には「哲学」と「生き様」を感じざるをえなかった。

Yohjiを愛する
キンシャサのサプール

目の覚めるような鮮やかなサプール。そのスタイルは、コンゴ共和国のものだ。対して、コンゴ民主共和国のサプールは、黒づくめ。両国は、ボートで5分ほどの距離にあるらしいが、そのスタイルは非常に対照的なのだ。

今回の取材で何よりも、僕をハッとさせたのは、キンシャサのサプールたちが身につけているスーツだった。どこかで見覚えのあるスタイルは、言わずと知れた日本が世界に誇るファッション界の巨匠、山本耀司氏のブランド「Yohji Yamamoto」だという。その意外なる事実を目の当たりにして驚いた。と同時に、とても親近感が湧いてきてしまった。

調べてみると、キンシャサが生んだアフリカンミュージック界の第一人者である歌手パパ・ウェンバが、「Yohji Yamamoto」を身につけてステージに上がったことがルーツとのことだった。その後、ウェンバに続く歌手や彼らに魅了された若者たちによって、黒ずくめのスタイルが定着したようだ。

サプールを撮り続けた
 SAP CHANO氏の
写真展開催中

ビビットカラーのサプール、モノトーンのサプール。彼らを撮影するために3年前から現地を訪れているのは、日本人フォトグラファーのSAP CHANO氏。サプールとの親交は深く、彼らが日本に訪れた際にも、SAP氏が同行して数々の写真を撮影しているそうだ。

今年、創業300年を迎える老舗百貨店の大丸では『THE SAPEUR サプール写真展〜平和をまとった紳士たち〜』という展示会を開催している。先出のSAP氏による写真200点以上をムービーを交えながら紹介する、見応えたっぷりの内容となっている。

ファストファッションが主流となっている日本において、彼らのファッションや生き様から強烈なインスピレーションや刺激をもらうことができるかもしれない。サプールというスタイルや生き方に興味がある人は、ぜひ訪れてみてはどうだろうか?

『THE SAPEUR サプール写真展〜平和をまとった紳士たち〜』
■撮影:SAP CHANO
■後援:駐日コンゴ共和国大使館
■主催:(株)大丸松坂屋百貨店
■入場料:一般500円 ※中学生以下無料
■開催店舗:残り2店舗
大丸東京店 2017年9月28日(木)〜10月10日(火)/11階催事場
大丸札幌店 2017年10月18日(水)〜10月30日(月)/7階ホール

(C)SAP  CHANO

Licensed material used with permission by サプール写真展「平和をまとった紳士たち」