世界で問題となっている薬剤耐性

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現在世界で主流となっている抗マラリア薬に耐性を持つマラリア原虫が東南アジアで急速に広まっており、カンボジアやベトナムなどではすでに治療不能な患者も出ている――。

そんな驚くべき報告が、タイのマヒドン大学とベトナムにあるオックスフォード大学熱帯医学研究所の研究者らによって感染症分野の医学誌「THE LANCET Infectious Diseases」の2017年10月号に発表された。

このまま有効な対策が打てないまま拡大すると、アフリカまで到達し深刻な被害をもたらす可能性もあるという。

既存の治療薬を切り替えるしかない

マラリアはマラリア原虫を持つ蚊が媒介する感染症だ。世界保健機関(WHO)のファクトシートでは、世界100か国以上で常に流行しており、年間2億2000万人が感染、数百万人が死亡しているという。

媒介する蚊の種類は熱帯原産のハマダラカなどに限定されるため、亜熱帯・熱帯地域で流行する病気として知られ、医療環境が未整備なアフリカのサハラ以南では小児の主要な死因ともなっている。

また熱帯以外の地域には無縁というわけでもなく、旅行者が感染したり原虫を持ち込んでしまう例もあり、予防や治療のためには抗マラリア薬の投与が不可欠となる。

ところが、その抗マラリア薬に耐性を持つ原虫が東南アジアで増加しつつあるのだ。

報告によると、現在主流となっているのは「ピペラキン」と「アーテミシニン」という治療薬を組み合わせて投与する方法だが、2007年ごろからカンボジアでアーテミシニンに耐性を持つ原虫が現れ始め、さらにここ数年でピペラキンの効果も低下し始めた。

現在はタイ、ラオス、ミャンマー、ベトナム南部まで広がっており、マレーシアの一部でも耐性を持つ原虫が確認されているという。

筆頭研究者であるオックスフォード大学のアリエン・ドンドープ教授は2017年9月22日付のBBCの記事で「最初に耐性原虫が現れたカンボジアでは患者の60%近くが治療不能な状態になっており、ベトナムでもすでに30%近くに達している」と話し、

「これは時間との戦いであり、マラリアが完全に治療できなくなる前に排除する必要がある」

と強い危機感を示している。

薬剤耐性は同じ薬を長期間使い続けると生じるもので、マラリアに限定される事態ではない。対策としては同じ薬を使い続けず別の薬に切り替えるしかなく、現在カンボジアでは新薬への切り替えが急ピッチで進められているという。

日本の治療薬の状況は

東南アジアは日本人にとって比較的渡航機会が多い場所だが、耐性原虫の発生によって何らかの影響を受ける可能性はないのか。

J-CASTヘルスケアの取材に答えた都内の総合病院に勤務する医師は、「熱帯でもインドやアフリカなどを除けば都市部でマラリアが蔓延していることは少なく、熱帯地域に行くと必ずマラリアになるというわけではない」と話す。

「もちろん渡航前に予防措置として抗マラリア薬を投与することが前提ですが、日本ではピペラキンやアーテミシニン以外の薬が承認されており、耐性原虫の出現などについても情報を常に収集しています。万が一、耐性原虫のマラリアにり患したとして、薬が効かないので治療できない状態に陥ることはないでしょう」