戦術マニアと呼ばれ、練習の厳しさで有名な名将だが、その下地には真摯に人を向き合う姿勢がある。写真は手前がビエルサ監督で、広報はボニーニ・コーチ。 (C) Getty Images

写真拡大 (全2枚)

 名将とは、いかなるものだろうか?
 
「マルセロは臆病なところがあったが、自分の決断に対しては、全くブレなかった」
 
 アルゼンチンの名将として誉れ高い、マルセロ・ビエルサ(現リール監督)と21年も連れ添ったフィジカルトレーナーのルイス・ボニーニは、そう振り返っている。ボニーニは現在、ビエルサと袂を分かち、ガン闘病生活を送っている。
 
「マルセロは、我々コーチングスタッフと積極的にディスカッションをした。システムや起用法などの議論に関しては、とことんオープンだった。しかし、決断するのは全て、監督である彼だったよ」
 
 このように語っていたボニーニはまた、コーチの役割を「物流」にも例えている。監督が決断した戦い方を、実際に選手や他のスタッフまで運べる(伝えられる)か。意思の疎通を全てに機能させ、誤解や反発を減らし、意志を行き渡らせるのだ。
 
 そこで監督には、コーチングスタッフや選手を納得させる「求心力(カリスマ)」が必要になるという。その意思が伝達されなかったら、どんなに立派な戦術も機能しない。決断力とコミュニケーション能力が、監督の基本なのだろう。
 
「マルセロは常に、選手たちに監督として寄り添う。どこまでも真摯に、選手を理解しようとしたし、そのプレーの質を高めるために最善を尽くしていた」
 
「その関係を築くなかで、選手たちはマルセロをリスペクトするようになっていった。むしろ、選手のほうがマルセロに助言を求めた。『この人は自分を良い選手にしてくれる』との確信を得られたからだろう。その関係にこそ、『名将とはなんぞや?』という疑問への答えがあると私は考えている」
 
 ボニーニはそう語った。
 ボニーニはさらに、本質を突く話を続けた。
 
「いつだったか、(ジョゼップ・)グアルディオラに聞いたことがあるんだ。『一体どうやって、君はここまで勝利する軍団を作り上げられたんだい?』とね。システムを構築し、プレーを生み出すのは簡単ではない。特に元々、チームにプレースタイルがあった場合にはね。反発もある」
 
「グアルディオラは、こう言ったよ。『唯一の方法は、選手が自分についてきてくれるか、ということに尽きますね。結局のところ、選手たちが私に好意を持つかどうかです』」
 
 やはり、監督と選手、そのあいだにいるコーチたち全員の信頼関係が全てなのだろう。選手が、その監督の下で成長を感じられるか。選手が監督をリスペクトしているチームは、健全と言える。
 
 その健全さのなかでこそ、強さはすくすくと育まれる。逆説すれば、健全ではない状況では、どんな手を打っても空転する。
 
 健全にチームを保てるか。突き詰めれば、それを果たせるということが、名将の条件と言えるだろうか。
 
「しかしながら、様々な状況によって、勝ち星に繋がらないことはある。主力選手が3、4人も怪我や移籍で離脱したら、チーム力は落ちる。思わぬ負のスパイラルに入ってしまうこともある」
 
「アスレティック・ビルバオでの2年目は、まさにそんな感じだった。勝負事は、どこまでいっても“偶然的な部分”を背負い込んでいるのさ」
 
 勝負の世界を生き抜いてきたボニーニだけに、その言葉の持つ意味は深い。
 
文:小宮 良之
 
【著者プロフィール】
こみや・よしゆき/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡りジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、今年3月にはヘスス・スアレス氏との共著『選ばれし者への挑戦状 誇り高きフットボール奇論』(東邦出版)を上梓した。