北野武監督(撮影:山本宏樹/deltaphoto)

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 世界中で高い評価を受ける北野武監督作品のなかで、唯一のシリーズものであるバイオレンス映画「アウトレイジ」 が『アウトレイジ 最終章』でラストを迎える。「興行的にも失敗していないんだよね」とシリーズ化した理由の一端を語った北野監督が、作品に込めた思いや「いい主役がいない」と嘆く日本映画界の現状について語った。

「アウトレイジ」シリーズは赤字を出してない!

 1989年に公開された『その男、凶暴につき』でメガホンをとって以来、30年近くに渡りコンスタントに作品を撮り続けてきた北野監督。そのなかでも「アウトレイジ」はシリーズ化された。「もともとバイオレンス映画は嫌いじゃないってこともあるし、興行的にも大ヒットとはいかないけれど、赤字ではなく、次の映画を撮るぐらいの収益は上げているんだよね」と状況を分析する。

 またバイオレンス映画という面はあるものの「基本的なストーリー展開は、普通の社会でもある話。暴力とやくざ言葉をなくしちゃえば、社会派の映画になる題材なんだよね」と普遍的なテーマを扱っていることを強調する。そんななかでも、北野監督が演じた大友というやくざは「義理と人情」を頼りに生きていく。そこには「いまの時代、義理とか人情を全うしようとすると、自分を犠牲にしなくてはならない。そんなもの気にせずうまくやっているのが成功者なんだよね」という皮肉も含まれているという。

しっかり主役を張れる奴がいない

 北野監督と言えば『HANA-BI』(1998)で第54回べネツィア国際映画祭・金獅子賞を受賞したのをはじめ、数々の海外映画祭で作品が評価されるなど、国際的に活躍する日本人監督の一人だが、一部でガラパゴス化していると言われている日本映画界をどのように見ているのだろうか。

 「以前は、石原裕次郎さんや萬屋錦之介、高倉健さんみたいな、別のところで対抗できるすごい俳優がいたんだけれど、それもいなくなってしまった。しっかり主役を張れる奴がいないよね。テレビとか観ていても、若手の俳優が出て来たって2年も持たない。女優もみんな同じパターンの芝居ばっかりで飽きちゃうよね。あとは芝居がうまくても、とても主役の器じゃないような奴が主演をやったりね」

 では、北野監督の考える主役というのはどんな存在なのだろうか。

 「主役なんて下手でもいいんだよ。動物園行ったって、犬とか猿なんかは懸命に芸を覚えたりするけど、パンダはケツ出して向こうの端で寝ていたってパンダだもん。スターって言うのは、そこにいるだけでいい。健さんに『もう少し悲しそうな顔してください』なんて演技を求める人なんていない。健さんは健さんでいいんだよ」。

 いるだけで輝きを放つスターが生まれなくなったのは時代の変化もあると北野監督は語る。

 「インターネットとか出てきて、これだけ個人情報が共有されたり、自身を表現できたりすると、出る側と見る側の境界線がなくなるよね。昔は俳優なんか見ているだけだったけれど、いまは距離が近くなった。もう銀幕のスターみたいな存在は生まれないんじゃないかな。しかも全てにおいてスケールが大きいハリウッド映画を小さいころから観ている客が増えたら、そこで勝負する気にならない。結局は、ドメスティックな作品という選択肢になるよね」

ハリウッドの仕組みには興味なし!

 『ゴースト・イン・ザ・シェル』(2017)では俳優としてハリウッド作品にも参加している北野監督。多額な予算を投じる映画制作への思いを聞くと「システムが違うから全く興味ないよ」と即答。その理由を「俺はカメラの位置を決めて、役者の演技を見て、編集も一人でやるけれど、ハリウッドなんて全部別の人間がやるんだから、監督が映画作っている感じなんてしないでしょ。魅力なんてなにもない」と一刀両断する。

 そんな北野監督にとって、「映画監督としての成功とはなんなのか」を尋ねると「ヨーロッパ行って、国際空港でVIPサービスを受けられるのは魅力だね。みんなが並んでいるところを横からスッと入っていって、違う部屋から次の飛行機に乗るなんていいよね。作品の評価なんてどうだっていい。『どうぞマエストロ』なんて言われるのは気分いいだろうね」と笑顔で答えた。

(取材・文:磯部正和 撮影:山本宏樹/deltaphoto)