私が「世界医師会次期会長」として日本に期待すること

写真拡大

この10月、世界医師会会長に、日本医師会の横倉義武会長が就任する。世界初の超高齢社会に突入する日本から、彼は何を発信していくのか。

──日本は欧米に比べ医療後進国であると言われて久しい。日本の医療に足りないことは。

前提として言えることは、日本は医療技術、医療制度、医療保険、すべてにおいて非常に整っているということです。WHO(世界保健機関)の発行するWorld Health Reportでも、世界最高レベルの医療制度が達成されていると認められています。世界の多くの国が今、日本の医療システムを導入しようとし、我々はそのサポートをしています。

アメリカはかなり実験的な医療まで認められるため、特定の医療技術では非常に進んでいますが、一般の高度先進医療レベルでは今や日米の差はほとんどありません。アメリカで高度医療を受けるためには桁違いの医療費がかかりますが、日本は1961年に始まった国民皆保険により、世界最高レベルの高度医療を誰でも平等に受けられる稀有な国です。

ただし少子高齢化で社会保障を支える人間が減ってくるなかで、財政的な課題に直面していることも確かです。今後、予防医療や在宅医療、介護も含め、どのような医療体制をつくっていくべきかという議論が、ますます必要になってくるでしょう。政策的な課題、倫理の課題、教育・研究の課題など、さまざまな課題を解決しなければならない。日本医師会では、医療政策会議、生命倫理懇談会、学術推進会議という3つの会議体を持ち、議論を進めています。

──日本は先進医療の臨床への導入が欧米に比べて遅れているという批判がある。

確かにかつての日本は、ドラッグ・ラグ(新薬の治療薬としての承認が海外に比べて遅いこと)やデバイス・ラグ(先端医療機器の臨床での使用承認が海外に比べて遅いこと)があると指摘されてきました。

しかし2004年にPMDA(医薬品医療機器総合機構)が発足してから、承認機関の組織改革が行われ、近年は米国とほぼ同じスピードで臨床への導入がされるようになってきました。非常に大きな進歩です。新しい医薬品や医療機器の開発・導入について、PMDAが治験前から承認までを一貫した体制で指導・審査しているためです。

高額な治療薬や医療機器が次々に保険適用になれば、医療費が増大し、財政を圧迫するため先進医療の承認を厳しくするべきという意見もあります。しかし私はそれが本当に有効な治療方法であるならば、生涯にかかる医療費をトータルで考えれば医療費増にはならないと考えなのは開発費用が大きいためで、普及すれば価格は下げられます。むしろ広く使ってもらえる環境をつくっていくべきです。

──基礎研究について日本の体制は十分か。

十分とは言えません。日本は、解剖学、病理学、疾病学、微生物学、薬理学など医学の発展に重要な基礎医学研究が行いやすい環境が整っているとは言い難く、優秀な研究者が海外に拠点を移さざるを得ないという現状があります。

日本は米国に比べて医学の研究予算が圧倒的に少なく、医学研究者が大学院や研究機関の給料だけで生活できる状況にはありません。しかも臨床研修制度が変わり、研究課程に進んだ者が臨床のアルバイトをすること自体が難しくなっています。日本で基礎医学の分野を志す人が少なくなっていることは憂慮するべきことであり、アルバイトをしなくても基礎研究にしっかりと取り組むことのできる体制を整えていかなければならないと考えています。

欧米には(ロックフェラー大学やビル&メリンダ・ゲイツ財団など)、大富豪が慈善事業財団をつくり、医療に関する研究所を設立したり、プログラムに資金を提供するなどの寄付文化が根付いており、寄付に対して税金が控除されるなど、制度にも支えられています。日本にも富裕層は増えています。国は研究機関への寄付に対する税控除などの優遇措置を講じ、彼らが医療の研究開発を通じて社会に貢献する道をつくってほしいと思います。